賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
新手の不動産投資の詐欺手法。多重売買を悪用した頭金の詐取
最近見たYouTubeの配信で、将来の東京都の不動産価格について話しているものがありました。
その中で、2030年には東京都の23区の外、つまり三多摩地区で、家が余り始め、価格が大きく下落するという話がありました。
家が余る理由は、日本の超高齢化社会の中で、東京都に日本の高齢者の2割が住んでおり、その高齢者が順次亡くなっていくと、空き家が溢れるようになるからということでした。
そして、その空き家が溢れる状態は、2035年には、23区内の山手線の外側にも迫ってくるそうです。
「たった10年でそんなことになるのか?」と少し疑問でしたが、こんな情報も頭に入れて、不動産投資は進めていかなくてはならないと思います。
さて、今回は、多重売買を悪用した頭金の詐取のお話です。
まず、前提知識ですが、土地や建物などの不動産が二重に売却された場合(これを二重売買と言います)、先に買った人と後から買った人のどちらが、その土地を手に入れることができると思いますか?
実は、民法では、不動産の二重売買があった場合、その不動産を先に買った人ではなく、原則としてその不動産の所有権移転登記を先にした人が、その不動産を手に入れることになっています(「原則として」と書いたのは、例外があるからですが、ここでは、この例外の説明は割愛します)。
たとえば、Xが、ある土地をAに売却した後、二重にBに売却したとします。この場合、原則として、Aが先に所有権移転登記をすれば、Aがこの土地を取得し、逆に、Bが先に所有権移転登記をすれば、Bがこの土地を取得するのです。
では、先に登記をされてしまった人(つまり、土地を取得できなかった人)は泣き寝入りでしょうか。
そうではありません。二重売買があった場合に、土地を取得できなかった人は、当然、売主に対して、債務不履行を理由とする損害賠償請求ができます。
先程の例で、Bが先に所有権移転登記をしたときは、Aは、Xに対して、売買契約上の義務の不履行を理由として、損害賠償請求ができます。
Xがこのようなことをするのは、通常は、BがAより土地を高く買ってくれるような場合です。Aは8000万円で買ってくれたが、Bが1億円で買ってくれるというのであれば、Xとしては、Aに違約金を払ってもBに売った方が得という場合があるでしょう。
この場合、Aとしては、頭金の返還と違約金の支払いをXに請求することになります。
もっとも、Xに頭金の返還と違約金の支払いをするお金がなければ、Aは、土地を取得できないどころか、頭金さえ取り戻せないことになります。
最近、この二重売買の仕組みを利用した頭金の詐取事件について相談を受けました。
X社は、ある土地を、何人もの個人に売却し、買った人から頭金を受け取り、最終的に、大手の建売業者に売却したそうです。
個人には、相場よりかなり安い値段で売り、最後の大手の建売業者には、相場どおりの値段で売ったようです。
個人に対しては、頭金をだまし取ることが目的で、本当に売るつもりがなかったので、安い値段を提示したのだと思います。
これによって、X社は、多額の頭金を手に入れ、さらに、相場どおりの土地の代金を手に入れたことになります。
ただ、こんなことが長続きするはずはなく、X社の代理人弁護士から、破産申立をするという通知が騙された人たちに送られてきました。
X社の破産手続きが開始されれば、X社の資産から債権者には配当がありますが、通常、破産手続きにおける一般の債権者に対する配当は、債権額の数パーセントです。この事件でも、大規模詐欺事件の常で、X社には、ほとんど資産はないそうです。
もちろん、この多重売買を行ったX社の人間は、詐欺罪で刑事責任を問われることになるでしょうが、その人たちが刑務所に行っても、取られたお金は帰ってきません。
ここで疑問になるのが、最後に買った大手の建売業者は、お咎めなしなのかということです。
ちょっと長くなりましたので、この点については、次回お話ししようと思います。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。