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ゴルフ場の鉄柱倒壊の責任は?台風での建物倒壊と損害賠償請求
やっと気温が下がり始め、秋の気配が感じられるようになりました。今年の夏は、台風15号や台風19号によって甚大な被害が発生しました。もう今年は、台風は終わりにしてほしいものです。
さて、今回は、その台風15号による建物倒壊の法的責任について考えてみたいと思います。
台風15号による強風で、千葉県にあるゴルフ練習場の鉄柱が倒壊し、近隣の建物を破壊したというニュースは、当時、毎日のように報道されていました。
私のところにも、千葉県の大家さんから、自分が所有する古い賃貸建物のサイディングが大きく剥がれ、隣の建物に倒れかかったため、その建物を壊してしまったが、賠償責任があるのかという相談がありました。
このように台風などの災害で建物が壊れたり、倒れたりして、それによって近隣の建物を壊してしまった場合、誰がどのような責任を負うのでしょうか。
土地の上の工作物によって、工作物の使用者や所有者以外の第三者に損害が生じた場合については、民法に特別の規定が置かれています。
土地の工作物等の占有者及び所有者の責任についての規定(民法717条)ですが、この規定は、次のように定めています。
1 土地の工作物の設置又は保存の瑕疵により他人に損害が発生した場合には、まず、工作物の占有者が賠償責任を負う。
2 工作物の占有者が、損害の発生を防止することについて必要な注意をしていたときは、所有者が賠償責任を負う。
上記1の意味は、土地の工作物(土地上に人工的に作った物)に、設置又は保存の瑕疵(通常備えているべき安全性を欠いている状態)があり、これによって他人に損害を与えた場合は、まず、その工作物を占有していた者が賠償責任を負うということです。
上記2の意味は、土地の工作物に、設置又は保存の瑕疵があり、これによって他人に損害を与えた場合であっても、占有者が、損害が発生しないように必要な対策を取っていたという場合には、占有者は賠償責任を負わず、所有者が賠償責任を負うということです。
この場合、所有者は、過失が無くても責任を負います。「過失が無くても」というのは、瑕疵があれば所有者に落ち度が無くても責任を負うということであり、所有者が工作物に壊れている部分があることを知っていたのに必要な修繕をしていなかったなどの事情は必要ありません。
例えば、ゴルフ練習場の施設の所有者がAであり、Bが、Aからこの施設を賃借してゴルフ練習場を経営していた場合、Aがゴルフ練習場の所有者、Bがゴルフ練習場の占有者ということになります。
この場合、ゴルフ練習場の鉄柱が倒れて近隣の建物を破壊したとすると、まず、Bが賠償責任を負います。ただし、Bが責任を負うのは、ゴルフ練習場の鉄柱の設置や保存に瑕疵があった場合、つまり通常備えているべき安全性を欠いており、そのために鉄柱が倒壊したという場合でなければなりません。
しかし、Bが、損害が発生しないように必要な対策を取っていたという場合には、所有者であるAが賠償責任を負います。
もちろん、Aが自らゴルフ練習場を経営している場合は、Aが所有者兼占有者となりますので、ゴルフ練習場の鉄柱の設置や保存に瑕疵があれば、Aは過失が無くても賠償責任を負うことになります。
いずれにしても、台風による強風でゴルフ練習場の鉄柱が倒れて近隣の建物を破壊した場合に、被害者がゴルフ練習場の占有者や所有者に損害賠償を求めるには、ゴルフ練習場の鉄柱の設置や保存に瑕疵がある場合でなければなりません。
ゴルフ練習場は、建築基準法上の特殊建築物ですから、建築基準法の規制に適合して建築されているはずです。
ネット上の一級建築士さんが書いた記事を見ると、ゴルフ練習場の鉄柱は、通常は鉄柱単体で風速60メートル/秒の強風に耐えうるように設計されており、また、ネットを付けた状態でも風速25メートル/秒の強風に耐えうるように設計されているそうです。
もしこれが事実であるとすると、台風が来る前にネット降ろせば鉄柱単体となり、風速60メートル/秒の強風に耐えうることになりますので、ほとんどの台風の強風に耐えうることになります。
ただ、ネットを降ろしていなければ、風速25メートル/秒までしか耐えられないということなので、台風が来れば倒壊する危険性があるということになります(ちなみに、台風の強度は、「強い」「非常に強い」「猛烈な」の3段階に分かれていますが、一番低い「強い」でも、最大風速33メートル/秒以上です。)。
従って、台風がくるとわかっていながらネットを降ろさなければ、保存上の瑕疵があることになる可能性があります。
また、上記の基準は、あくまで設計時のものですから、その基準どおり建築しても、建築後の経年変化等により、鉄が腐食するなどして強度を失い、ある程度の強風で倒壊する危険のある状態になることもあります。この場合も、保存上の瑕疵があることになります。
千葉県にあるゴルフ場の鉄柱倒壊の事案が裁判となった場合、これらの点が争点となるのではないでしょうか。
ただ、裁判は長期化するでしょうから、判決が出るのは数年後かもしれません。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。