賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
借主の承諾がなくても賃料を上げられる?賃料の自動改定特約の有効性
9月に入っても暑い日が続いており、東京では、まだ最高気温が35度近くになる日があります。
猛暑の8月中は、午前7時にはもう30度近くまで気温が上がるので、熱中症にならないように、朝早めに起きて短い距離をジョギングするようにしていたのですが、9月に入っても気温が下がらないので、なかなか走る時間を遅くすることができません。
私は、朝に強い方ではなく、朝早めに起きて走るのは結構しんどいので、早く涼しくなってくれないかなと願っています。
さて、今回は、賃料の自動改定条項のお話です。
先日、都内にアパートを何棟か所有しているAさんから、こんな相談がありました。
Aさんは、アパートを新築する計画を立てており、新しいアパートの入居者との賃貸借契約に、自動的に賃料を上げる条項を入れたいと考えているので、このような条項が果たして有効なのか疑問になり、相談に来たそうです。
建物賃貸借契約で、一定の期間ごとに、一定額あるいは一定の割合で賃料を増額するような特約を、賃料の自動増額条項とか自動増額特約などと呼んでいます。
一方、借地借家法では、賃料の増額について賃借人の同意が得られない場合は、調停の申し立てをして話し合い、調停で合意できない場合は、訴訟で決着をつけなければならないことになっています(借地借家法31条)。
従って、賃料の自動増額条項は、借地借家法31条に従わなくても賃料を上げることができるというものであり、賃借人に不利な条項となります。
そこで、賃料の自動増額条項の有効性が問題となります。
この点について、裁判所は、賃料の自動増額条項は、その内容が合理的なものであれば、有効であるとしています。
実は、借地借家法では、賃借人を保護する規定に反する特約で賃借人に不利なものは、無効とすると定められています(30条、37条)が、賃料の増減方法について定めた借地借家法31条は、この30条や37条の対象となっていません。
また、借地借家法31条の条文を読むと分かりますが、この条文は、賃貸人が一方的に賃料を増額することを規制しているものであり、賃貸人と賃借人が合意して賃料を増額することは、規制していません。
ですから、賃貸人と賃借人が賃料自動増額の特約をすれば、賃借人に不利な内容であっても、借地借家法31条に違反するものとは言えず、原則として有効なのです。
このため、裁判所も、賃貸人と賃借人が賃料自動増額について合意した以上、その特約は、原則として有効であると判断しているのです。
では、裁判所で有効とされた賃料の自動増額条項には、どんなものがあるのでしょうか。
・3年ごとに賃料を改訂し、賃料を物価指数によって定める。
・契約(契約期間は2年)の更新ごとに賃料を1割増額する。
・契約(契約期間は3年)の更新ごとに賃料を6%増額する。
・3年ごとに賃料を10%増額する。
また、店舗の賃貸などでは、基本賃料に売上高の5%を加算するという条項を有効としたものもあります。
こうして裁判例を見てみると、事案にもよりますが、更新ごとに賃料を5%から10%程度増額する自動増額条項は、原則として有効だということになります。
これに対して、増額する金額や割合が大き過ぎる条項や増額する基準が不明確な条項は、著しく不合理なものとして、無効となるでしょう。
また、自動増額条項を合意した際のベースとなった経済情勢が大きく変わったような場合は、その条項の効力が失われるという裁判例もあります。
これは、バブル期に締結された賃貸借契約書の賃料の自動増額条項の効力に関する裁判例によく見られます。地価の右肩上がりを前提に締結された賃料の自動増額条項が、その後のバブル崩壊による失われた20年の期間に、そのままの効力を維持できなくなるというのは、当然のことでしょう。
このように、賃料の自動増額条項は、更新ごとに賃料を5%から10%程度増額する内容であれば、有効であると思われますが、当然ことながら、更新ごとに賃料が上がるような物件は、入居希望者に敬遠されるでしょう。
ですから、人気物件以外では、このような条項を入れるのは、なかなか難しいと思います。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。