賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
賃貸経営はギャンブルじゃない!賃貸経営の勉強の必要性
米国は、ついに自国に入国する外国人のPCR検査義務を撤廃しました。
また、日本も、訪日外国人観光客の入国手続きを再開しました。米国や中国、韓国など98の国・地域が対象で、ビジネス客や海外から帰国する日本人を含む2万人の入国者上限の枠内という制限付きです。また、外国人観光客は、添乗員同行のパッケージツアーに限るとのことで、少しずつコロナ前の生活に戻ってきているようです。
このコロナ騒ぎが始まった2020年2月ころ、テレビ番組で、感染症の専門医が、「少なくとも2年は続きます。」とコメントしたとき、「それはオーバーでは?」と半信半疑で聞いていましたが、本当に2年以上かかってしまいました。
さて、今日は、またまたサブリース物件のお話です。
先日、こんな相談を受けました。
相談者は、35歳の男性のサラリーマンAさんですが、「あるワンルームマンション販売会社のB社から執拗に勧誘されて、都内の駅近のワンルームマンション1部屋を4000万円で買う契約をしたが、怖くなったので、キャンセルしたい。決済前なので、何とかなりませんか。」ということでした。
「キャンセルしたい。」と言っても、レストランの予約ではないので、一旦売買契約を締結した以上、簡単には解約できません。
そこで、とりあえず、売買契約書とその他の書類を見せてもらいましたが、なかなか面白い内容でした。
売買代金4000万円の売買契約なのに、手付金は20万円と極めて少額でした。しかもその手付金すら支払わなくてよいと言われたので、払っていないそうです。
また、融資特約がついていて、融資の申込先として、特定の銀行が指定されていたのですが、B社からノンバンクを紹介され、そこから借りるように言われたそうです。
さらに、購入したワンルームは、B社が借り上げることになっていました。このため、当然のことながら、先日のコラムで取り上げた通称サブリース新法に基づいて、AさんとB社との建物賃貸借契約の契約書、重要事項を記載した書面、資金計画書などが交付されていました。
Aさんとしては、B社が借り上げてくれるので、賃料収入が保証されて安心だと思ったようですが、資金計画書を見ると、4000万円を年利2.0%(変動金利)の35年ローンで借り入れることになっており、このローンの返済、管理費及び修繕積立金の合計額とB社が保証する賃料とは、ほぼ同額かやや赤字ということなので、結局、何の手残りもありません。
また、賃貸借契約書には、契約期間は5年と記載されているだけで、長期間の契約継続は保証されていませんでした。
この売買契約がキャンセルできたかどうかは、後でお話しするとして、このコラムを読まれているみなさんなら、この物件を買われますか?
ちょっと考えただけでも、4000万円を年利2.0%(変動金利)の35年ローンで借り入れ、このローンの返済、管理費及び修繕積立金の合計額とB社が保証する賃料とが、ほぼ同額かやや赤字となると、今後金利が上昇したときはどうなるか、賃料相場が下落したときはどうなるのか、マンションが古くなっても賃料は下がらないのか、10年から15年後くらいにくる設備類の修繕や取替えの費用はどうするか、といった疑問がわいてきます。
世界は、金利上昇の時代に入ってきています(日本だけは、例外ですが、、、)。また、都内の駅近物件の賃料相場は、今は堅調ですが、今後はどうなるかわかりませんし、一般的に賃料は、建物が老朽化すれば下落します。さらに、設備類の修繕や取換えは、建築後10年から15年で必要になります。こうしたことを考慮していない資金計画は、かなり不安です。
もちろん、10年くらい所有して、設備類の修繕や取換が必要になる前に売却し、転売益をとるという考え方もあります。しかし、この考え方は、マンションの価値が下がらず、売却時にオーバーローンとなっていないことが前提です。確かに、最近の都心の中古マンションの価格は、高止まりしており、中には新築時の売り出し価格より高くなっているものもありますので、このままの状態が続けば、転売益が得られる可能性はあります。
もっとも、売却までの間に賃料が下がったり、金利上昇などにより返済が多くなったりして、持ち出しが多くなっていると、売却益はほとんどないことになります。
さらに、それ以前の問題として、このマンションの販売価格やB社が保証した賃料額は、適正なのでしょうか。
私が、Aさんに、「この物件の近隣の賃料相場や同程度のワルームマンションの売り出し価格を調べましたか?」と聞くと、調べていませんという答えでした。
つまり、Aさんは、マンションの販売価格や賃料が適正かどうかも調べずに、大雑把な資金計画を見ただけで、4000万円もの借金をしようとしていたのです。
前にもこのコラムで書きましたが、賃貸経営は、勉強すればするほど、リスクを軽減することができます。成功している大家さんは、本当によく勉強して、購入物件を選択するための基準を、きちんと作っています。こうした努力によって、賃貸経営は、ギャンブルではなく、ミドルリスク・ミドルリターンの投資となるのではないでしょうか。
さて、この売買契約はキャンセルできたのでしょうか。
私としては、手付金が20万円と極めて少額で、その手付金すら払わなくてよいと言われていること、売買契約書の記載を無視して、審査が通り易いノンバンクからの借入を勧めていること、資金計画が大雑把なことなどから、B社の担当者は、成績を上げるためにとにかく契約をさせ、何も言われなければそのまま話を進め、トラブルが起きたらすぐに手を引くというやり方をしているのではないかと考えました。下手な鉄砲も100打ちゃ当たる方式であり、これまでも、そういう業者を相手にしたことがありました。
そこで、Aさんに、「まず、B社に電話して、『弁護士に相談したら、手付の額が少なすぎるので証約手付だと思うが、その支払いすらしていないので、まだ契約は成立していないのではないかと言われた。〇〇先生に委任するから、〇〇先生に連絡してほしい。』と言ってみてください。」とアドバイスしました。
それでダメなら、正式に受任通知を送り、ちょっと苦しいですが、証約手付の未払いによる契約不成立を主張する予定でした。
ところが、Aさんが、B社の担当者に電話をして、私から言われたとおり話をすると、翌日すぐにB社の担当者から私に電話があり、Aさんから売買契約の申込みの撤回があったので、この話はなかったことにしたいと言われました。
そこで、AさんとB社との間で、売買契約の申込みの撤回についての合意書を交わしてもらいました。やはり下手な鉄砲も100打ちゃ当たる方式だったようです。
もっとも、このような業者ばかりではありませんので、投資用物件を買うときは、よく勉強して、購入物件を選択するための基準をきちんと作って、それに当てはまる物件を買ってください。
賃貸経営の勉強をした上で、購入時に「これを買っていいのか。」と悩んだ末に購入した物件は、きっと利益を出してくれると思います。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。