賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
大家は、どこまで設備の性能を保証するべきか。賃貸物件の修繕義務の範囲
3月13日から、マスクの着用について、各自の判断に委ねられることになりました。「みんなどうするのだろうか?」と思っていましたが、これまで見た限りでは、電車の中では、それほど混んでいなくても、マスクをつけていない人はいないようです。
また、道を歩いている人を見ても、マスクをしていない人は、ちらほらとしか見つけられません。数えたわけではないので、感覚的な数字に過ぎませんが、マスクをしていない人は、30人の中の1~2人でしょうか。
まだ感染が怖いのか、それとも同調圧力なのか?そもそも、私のように、「みんなどうするのだろうか?」と様子をうかがうこと自体が、同調圧力を作り出す日本人的体質なのかもしれません。
さて、今回は、修繕義務のお話です。
私の所に、メールで、こんな相談がありました(ほぼ原文のまま引用します。)。
「現在賃借している部屋の洗面台が先日故障しました。修繕義務に基づき賃貸人が新しい洗面台へ交換しました。
しかし故障した洗面台にあった機能の多くが新しく交換された洗面台にはついておりません(賃貸人は安くスペックの低いものを選んだと思われる)。以前あった機能が新しく交換された洗面台に無い=賃貸人はそれらの機能を修繕していない、という解釈にならないのでしょうか。
以下が具体的な滅失した機能です。
鏡の曇り止め機能あり → なし
鏡両側の棚の数:両側3段ずつ → 両側2段ずつ
洗面台のコンセントの数:両側に1つずつ、合計2個 → 右側に1つのみ
鏡下の一時置きスペースあり → なし
鏡下の扉付き収納が両側に1つずつ → なし
蛇口と水栓の位置:正面のボウル壁面 → ボウルの奥側スペース
水を溜める為の栓:ワンプッシュ栓 → 手で付け外しするチェーン付きの黒いゴム栓
手前にも広がって使いやすいボウル(陶器製) → 長方形で枠も狭いボウル(プラスチック製)
シンク下の収納:2つの引き出しと開き扉を組み合わせた使いやすく広い収納スペ-ス → 両開きの扉のみ
例えば、交換後の洗面台に曇り止めない=曇り止めを修繕していない、ということにならないか。
交換後の洗面台にコンセントが1つしかない=コンセント差込口の内の1つは修繕されていない、ということにならないか。
上記の通り滅失した機能が多くあり賃貸人に、もともと設置してあった設備と同様の状態に戻してもらいたいと考えています(現在のところ賃貸人は断って来ています)。」
私は、賃貸経営については、メールでの相談に応じていないのですが、この相談は面白いので、取り上げてみたいと思います。
結論から言えば、交換前の洗面台の性能が、賃貸借契約の内容に含まれていたかどうかによるということになります。
例えば、新築マンションの売買などでは、売買対象のマンションの設備について、重説や附属書類に細かく書かれているのが普通です。
建物の賃貸借においても、高級賃貸物件になると、同様に、設備について、重説や附属書類に細かく書かれていることがあります。
また、設備について、重説や附属書類に細かく書かれていなくても、デザイナーズマンションだとかハイスペックマンションだと、賃借人募集の広告などに、設備について説明していることがあります。
こうした広告を見て、さらに、実際に設備を確認して賃貸借契約を締結した場合は、そうした設備の性能は、賃貸借契約の内容に含まれることになりますので、大家さんとしては、その設備の性能を維持する義務があると思います。
これに対して、特に設備の性能が重説や附属書類に細かく書かれておらず、また、賃借人募集の広告などにも、設備について細かく説明していないような場合は、賃貸借契約締結に当たって、特に賃借人が設備の性能を確認していたというような事情がなければ、設備の性能は、賃貸借契約の内容に含まれるとは言えないでしょう。
また、賃料の多寡も、交換前の洗面台の性能が、賃貸借契約の内容に含まれているかどうかを判断する一つの要素となります。
賃料が、近隣の相場程度であれば、契約当事者としては、近隣の同クラスの物件と同程度の設備があるという認識で契約していると考えられますので、設備の性能について、特別な約束はなかったということになるでしょう。
これに対して、賃料が、近隣の相場より高ければ、契約当事者としては、近隣の同クラスの物件より性能の良い設備があるという認識で契約していると考えることができるかもしれません。
もっとも、賃料は、設備の性能だけで決まるわけではありませんので、一つの要素に過ぎません。
結局、上記のような様々な事情を考慮して、設備の有無だけでなく設備の性能が、賃貸借契約の内容に含まれていたかどうかを判断することになります。
そして、もし、設備の性能が、賃貸借契約の内容に含まれていたとすると、賃借人としては、その性能を持つ設備を維持するように請求する権利があることになります。
今回の相談では、上記の判断材料となる様々な事情が分かりませんので、何とも言えないという答えになってしまいます。
大家さんとしては、賃貸借契約締結に当たって、設備の性能を強調しすぎると、このメールのような問題が起きることがありますので、気をつけてください。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。