賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
民法大改正~賃貸経営に与える影響は?~その2
このところ、天気の良い日が続いています。梅雨入りの時期なので、我が家の庭のアジサイも大きな花を咲かせていますが、あまりまとまった雨が降りません。今年の梅雨は空梅雨なのでしょうか。
さて、今回は、民法改正が賃貸経営に与える影響についての続きをお話します。
前回のコラム(民法大改正~賃貸経営に与える影響は?~その1)でお話しましたように、敷金や原状回復費用を巡る法律関係については、今回の民法改正による影響はほとんどないと言っていいでしょう。
これに対して、建物賃貸借契約における連帯保証人を巡る法律関係は、今回の民法改正により大きな影響を受けます。
2014年12月のコラム(連帯保証人は辛いよ~滞納家賃を全部払っても明け渡し。おまけに賃料倍払い~)で取り上げましたが、建物賃貸借契約における連帯保証人の責任は、とても厳しいものです。
たとえば、家賃6万円のワンルームマンションに賃貸借契約の保証人となった場合、借主が家賃を6ケ月分滞納して契約解除となったとすると、保証人は、まずこの滞納家賃36万円の支払う義務を負います。
次に、借主が、契約解除後も貸室から退去せず居座った場合は、退去するまでの賃料相当損害金を支払わなければなりません。この賃料相当損害金の額は、通常は賃料と同額ですが、賃貸借契約書に、「借主は、契約解除後明け渡しを完了するまでの間、賃料額の2倍の損害金を大家さんに払わなければならない。」という条項があれば、賃料額の2倍となります。ですから、連帯保証人は、借主が部屋を明け渡すまで、毎月賃料の2倍の12万円を支払う義務を負います。
さらに、建物明渡請求訴訟において明け渡しを命じる判決が下され、その判決が確定したにもかかわらず、借主が貸室に居座った場合は、貸主は強制執行により明け渡しを実現することになります。この強制執行費用(通常のワンルームマンションで、30万円から50万円程度)も借主の負担ですから、借主が払わなければ連帯保証人の負担となります。
加えて、借主は、借主の故意または過失で貸室のあちこちを壊したり汚したりした場合は、原状回復費用を負担しなければなりませんが、これも、借主が払えなければ、連帯保証人の負担となります。
これらの支払いが、すべて連帯保証人の負担となりますので、連帯保証人の責任は、厳しいものなのです。
ところが、今回の民法改正においては、上記のような連帯保証人の責任に、一定の歯止めがかけられることになりました。
保証契約とは、主たる債務者の債権者に対する債務について、主たる債務者が支払えない場合に、保証人が主たる債務者に代わって責任を負う契約です。たとえば、親族や知人がお金を借りる際に保証人となった人は、借主が借りたお金を返せない場合に、借主に代わって借りたお金や利息を支払う責任を負います。
この保証契約の中には、保証の対象が特定の債務に限定されるものと一定の範囲に属する不特定の債務とされるものがあります。
たとえば、AがBから100万円借りるときにCが連帯保証人になったとすると、Aが約束どおりBに100万円を返済できない場合は、CがAに代わって100万円を返済する義務を負います。この場合Cは、最大でも元金100万円と利息の約束があるときは利息を支払えば、連帯保証人としての義務を果たしたことになります。つまり、Cは、AがBから借りた100万円の返還債務とその利息という特定の債務だけを対象として責任を負います。
これに対して、AはBから何度でもお金を借りることができ、連帯保証人Cは、AがBから借りたお金の全部について責任を負う保証契約があります。この場合Cは、AがBから複数回に渡って借りた借入金とその利息という不特定の債務を対象として責任を負います。このように、一定の範囲に属する不特定の債務を保証の対象とする保証契約を、「根保証契約」といいますが、「根保証契約」は、連帯保証人の責任が際限なく増えていく恐れがある大変危険なものです。
建物賃貸借契約における連帯保証人の保証契約も、建物賃貸借契約に基づいて借主が負う一切の債務という一定の範囲に属する不特定の債務を保証の対象とする保証契約ですから、根保証契約の一種です。
最初にお話ししたとおり、賃貸借契約における連帯保証人は、滞納家賃、賃料相当損害金、強制執行費用、原状回復費用の全部について責任を負います。滞納家賃や賃料相当損害金は、滞納期間や解除から明け渡しまでの期間が長くなれば、どんどん増えていきます。また、強制執行費用は、荷物の量などによって左右されます。さらに、原状回復費用も、明け渡し後の貸室の状況によって高額となるときがあります。
このように、建物賃貸借契約における連帯保証の対象となる債務は、建物賃貸借契約に基づいて借主が負う一切の債務なので、責任を負う金額がどんどん増えていく恐れがある大変危険なものです。
民法は、平成16年の改正で、個人の連帯保証人を保護するために、個人が「根保証」をする場合には、極度額、つまり責任の限度額を定め、かつ、書面または電磁的記録で契約をしなければ、その保証契約は無効であるという規定をおきました。
ただし、この規定は、原則としてお金の貸し借りに関して個人が根保証契約をした場合(保証の対象となる不特定の債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務を含む場合)を対象としていました。このため、建物賃貸借契約の連帯保証契約には適用がありませんでした。
しかし、今回の民法改正では、個人が根保証契約をする場合全部について、極度額、つまり責任の限度額を定め、かつ、書面または電磁的記録で契約をしなければ、その保証契約は無効であるという規定をおきました。
この結果、建物賃貸借契約の連帯保証契約についても、連帯保証人の責任の限度額を定め、書面または電磁的記録で契約をしなければ無効ということになりました。
従って、改正民法が施行されるときには、建物賃貸借契約書における連帯保証人の責任について定めた条項には、必ず極度額を記載することになります。
この極度額をいくらにすべきかについて特に制限はありませんので、大家さんとしては、余裕を見てある程度多めに記載することになりますが、余りに大きな金額は、公序良俗違反として無効とされる恐れがあります。
今回の民法改正には、上記以外にも、建物賃貸借契約における連帯保証人の責任に関する改正がいくつかありますが、長くなりましたので、続きは次回とさせていただきます。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。