賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
居住用物件の大家さんは救済されない?居住用物件の賃料滞納についての救済策
日に日に暖かくなり、穏やかな日差しのさわやかな日が多くなってきました。いつもなら、どこに遊びに行こうかと考える時期ですが、今年のゴールデンウィークは、ステイホームウィークになってしまいました。残念ですが、家でおとなしくしていようと思っています。
さて、先回のコラムでは、新型コロナウィルスの感染拡大により経済的打撃を受けたテナントが賃料を滞納した場合、「大家さんとしては、固定資産税の免除などを受けながら、時間をかけて滞納賃料を回収するというのが、最終的には得策となるかもしれません。」とお話ししました。
そこで、テナント用物件の大家さんに対する政府の救済策を調べてみました。
主に次の3つが、政府の救済策の柱のようです。
1 減免したテナントの賃料を、大家さんの申告において損金として計上できる。
2 国税・地方税・社会保険料の支払いについて、原則として1年間の猶予を受けることができる。
3 テナント用物件の固定資産税の減免を受けることができる。
さらに、新聞記事によると、上記の救済策に加えて、中小・零細のテナント企業に補助金を直接給付する案や中小・零細のテナント企業が支払義務を負う賃料を政府系金融機関が肩代わりして支払う案などが検討されているようです。
既に決定済みの救済策やこれから決定される救済策については、国土交通省のサイトなどを見ていただきたいと思いますが、これらの救済策は、原則としてテナント用物件の賃貸借を想定しており、居住用物件の賃貸借の大家さんは、上記の救済策を利用できないようです。
しかし、私がよく知っているサラリーマン大家さんたちは、金融機関からほとんどフルローンでお金を借りて居住用物件を購入し、購入した物件の賃料収入で、ローンの返済や管理費、固定資産税等の諸費用の支払いをしています。
このようなサラリーマン大家さんが所有する居住用物件において、新型コロナウィルスの影響で、入居者が失業したり、入居者の収入が減少したりして、賃料の滞納が発生した場合、一体どうなってしまうのでしょうか。
もちろん、こうしたサラリーマン大家さんは、通常、空室リスクや賃料下落リスクに備えて、賃料収入からローンの返済と諸費用の支払いをすると何も残らないというようなギリギリの資金計画を立てることはなく、ある程度余裕を持った資金計画を立てています。
また、多くの大家さんは、保証会社を利用していますので、賃料の滞納があっても、保証会社が入居者に代わって賃料を支払ってくれます。
従って、余裕のある資金計画を立て、保証会社を利用しているサラリーマン大家さんについては、新型コロナウィルスの影響で、入居者が失業したり、入居者の収入が減少したりして、賃料滞納が発生しても、すぐに賃貸経営が苦しくなることはないでしょう。
しかし、ある程度余裕を持った資金計画と言っても、多数の滞納が発生すれば、対応しきれません。
また、保証会社を利用していても、保証会社の資金にも限界がありますので、社会全体で極めて多数の家賃滞納が起きた場合は、保証会社の資金が不足するという事態も考えられます。
居住用物件においても、新型コロナウィルスの影響で賃料滞納が発生した場合には、テナント用物件と同様に、裁判所は、賃料を3ヶ月滞納したからといって、簡単に賃貸借契約の解除を認め、明け渡しを命じる判決を出すことはないと思います。
保証会社は、賃料を滞納している入居者に代わって賃料の支払いをしなればならない、しかし、訴訟を起こしても、簡単には賃料を滞納している入居者を退去させることができないという事態に追い込まれるかもしれません。
こうなると、保証会社の倒産もあり得ないことではなく、保証会社を利用している大家さんも、必ずしも安泰とはいえません。もし資金計画どおり賃料が入らず、ローンの返済ができなくなるサラリーマン大家さんが多くなれば、金融機関への影響も出てきます。
このような事態を防ぐために、居住用物件の入居者や大家さんへの救済策も、早急に実現して欲しいと思います。
この救済策は、国土交通省ではなく、厚生労働省の管轄のようですが、新聞記事によると、経済的に困窮している人に家賃を補助する「住居確保給付金」の支給要件を緩和することを検討しているようです。
給付額の上限は、東京都の場合、単身世帯で月5万3700円、2人世帯で6万4000円、3人世帯で6万9800円、また、給付期間は、原則として3ヶ月となっているようです。
居住用物件の大家さんとしては、入居者から賃料の減額や猶予の申入れがあったとしても、原則としてこれに応じる義務はありません。
仮に申入れを検討するとしても、まず、その入居者が本当に新型コロナウィルスの影響で失業したり、収入を失ったりしたかどうかを確認し、その上で、上記の給付金のような救済策を利用するように促し、できるだけ入居者に賃料を支払ってもらうようにするべきです。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。