賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
民法改正は、正しく伝わっているか?~第5回 連帯保証人の責任の限度(極度額)に注意!個人が連帯保証人となる場合、極度額の設定がないと保証契約は無効になる!
大規模接種会場でのワクチン接種開始などもあり、ワクチン接種のペースも早まっています。ワクチンの数は足りており、いよいよ65歳未満の一般人の接種が、6月下旬にも始まるようです。
私の住む練馬区でも、6月下旬には、65歳未満の一般人への接種券の送付が開始されることになっています。私は、65歳未満で、特に持病もないので、この接種券が来るのを心待ちにしています。
できるだけ早くワクチンの接種率が米国や英国並みになり、コロナ禍前のように暮らせる日が来ることを願っています。
さて、今回は、建物賃貸借契約の連帯保証人の保証の極度額についてお話しします。
2014年12月のコラムでも書きましたが、今回の民法改正前までは、建物賃貸借契約の連帯保証人の責任は、過酷なものでした。
借主の賃料未払により賃貸借契約が解除となった場合、延滞賃料、契約解除後の賃料相当損害金(通常、賃貸借契約書には、「借主は、契約解除後明け渡しを完了するまでの間、賃料額の2倍の損害金を大家さんに払わなければならない。」という条項があります。)、借主が部屋に居座ったときの強制執行にかかる費用、部屋の損傷が大きいときの原状回復費用など、連帯保証人の責任は、際限なく広がっていきます。
私も、連帯保証人から300万円以上の支払いを受けたことがあり、仕事とは言え、大変申し訳ない気持ちになりました。
今回の民法改正では、こうした建物賃貸借契約の連帯保証人の責任を軽減するために、次のような内容の改正を行いました。
(1)個人が建物賃貸借契約の連帯保証人となる場合、賃貸借契約書等に保証の上限額(極度額)の記載が必要となった。
(2)限度額の記載がないと保証契約が無効となり、保証人に請求はできない。
(3)極度額の設定方法は、最大金額(たとえば金240万円)あるいは賃料の○ヶ月分(たとえば当初賃料の24ヶ月分)などがある。
(4)限度額の上限については、特に法律の定めはないが、大き過ぎると公序良俗違反(民法第90条)として無効となる可能性がある。
(5)法人が賃貸借契約の保証人となる場合は、極度額を設定する必要はない。
具体的なケースで考えてみましょう。
Bは、Aの所有するマンションの一室について建物賃貸借契約(賃料月額9万円・敷金9万円)を締結して入居しました。Cは、上記の建物賃貸借契約の連帯保証人となり、契約書上、極度額は120万円となっています。
上記の賃貸借契約の期間は、令和2年4月2日から令和4年3月31日でしたが、Bは令和3年1月から6か月間賃料を滞納したので、Aは、令和3年6月末日に賃貸借契約を解除しました。
Bは、Aの契約解除後も賃料を支払わないままマンションに居座り、退去しなかったので、Aは弁護士に依頼して明渡請求訴訟を起こし、判決を得た上で、強制執行によりBを退去させました。退去が完了したのは、令和3年11月末でした。
この間のAの損失は、次のとおりです。
契約解除までの賃料 54万円(9万円×6ヶ月)
契約解除後明渡しまでの賃料相当損害金 90万円(18万円×5ヶ月)
※賃貸借契約書では、契約解除後の賃料相当損害金は、賃料の2倍と定められていました。
明渡しの強制執行に要した費用 50万円
原状回復費用 20万円
弁護士費用 30万円
このうち、AがBに請求できるのは、弁護士費用を除いた214万円であり、ここから敷金を差し引いた203万円がBの債務となります。
しかし、極度額の定めが120万円となっているので、Aが連帯保証人であるCに請求できる金額は、120万円までに制限されることになります。
この改正についての大家さんの対策は、まず賃貸借契約書の連帯保証人の条項あるいは保証誓約書などに、極度額を明示することを忘れないようにすることです。
具体的な記載の例は、以下のようになります。
【契約書に記載する条項】
第○○条
連帯保証人は、乙と連帯して、本契約に基づく乙の債務一切について責任を負うものとする。ただし、連帯保証人が個人の場合は極度額として当初契約時賃料の24ヶ月分を責任の上限とする。
2 連帯保証人は、本契約が更新された場合も、その更新が合意更新か法定更新かにかかわらず、更新後の契約に関して継続して前項と同様の責任を負うものとする。
極度額は、どれくらいの金額が適当かという質問をよく受けますが、これは、なかなか難しい問題です。
賃料不払いの場合の大家さんの損害は、上記の例でも分かるように、最大で賃料の24ヶ月分程度になることが多いようです。そこで、賃料の24ヶ月分から36ヶ月分くらいが適切ではないかと思います。ただ、賃料の24ヶ月分から36ヶ月分では、賃料滞納の場合の損失には対応できますが、借主の自殺などのケースの損失には対応できないので、保険等によるリスクヘッジが必要となります。
次回は、保証人の責任の確定について説明します。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。