賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
サブリースの落とし穴(契約書のチェックと交渉)
大型連休も終わり、気温も初夏を思わせるほど上がってきていますが、それでも5月の風は爽やかで心地よいものです。
さて、最近の相談で気になったのは、大手の不動産管理業者とサブリース契約を締結して、賃貸管理を任せようと考えている大家さんの相談です。
もう少し詳しく説明すると、大家さんが、ご自分の判断で20室程度のマンションを1棟建築し、建築後に、大手の不動産管理会社とマンション内の全室のサブリース契約を締結するというケースです。このサブリースというのは、まず、大家さんが不動産管理会社に自分の建てたマンションを一括して賃貸し、その上で、この不動産管理会社が、このマンションの各部屋をエンドユーザーに賃貸するというものです。
こうした相談は珍しいのですが、何故か連休前に2件続けて相談があり、大家さんと不動産管理会社との間のサブリース契約書のチェックを依頼されました。
サブリースと言えば、以前このコラム「2014年9月号 一括借り上げ方式に潜む落とし穴)」で取り上げた30年一括借り上げ契約もサブリースですが、この30年一括借り上げ契約のケースでは、サブリースを受ける会社が、大家さんに対して、30年一括借り上げなので将来の賃貸経営に不安がないような甘い話をしてマンションやアパートを建築させるというケースでした。
しかし、今回の相談は、あくまで大家さんが、自分の土地の上に自分の判断でマンションを建築しており、サブリース会社の「30年一括借り上げで将来の賃貸経営に不安がない」という甘言に乗ってマンションを建築したわけではありません。
今回の大家さんは、自分できちんと将来の賃貸経営の計画を立てた上でマンションを建築されており、サブリース契約を締結するに当たっても、複数の会社と交渉し、一番条件の良いところを選ぼうとされています。
しかも、契約書の内容のチェックも弁護士に依頼しており、かなり慎重な方と言えます。賃貸経営、特に自分でアパートやマンションを建築したり、売りに出ている物件を丸ごと購入したりして賃貸するような場合は、これくらいの慎重さは必要です。
サブリースのメリットは、不動産管理会社が貸室の全室を一括して賃借してくれるわけですから、①大家さんは空室リスクや滞納リスクを負わなくて済み、また、②煩わしい貸室の管理もしなくてよいという点にあります。もっとも、②については、サブリース契約でなくとも管理委託契約でも可能ですので、結局、①がサブリースのメリットとなります。
一方、デメリットは、大家さんは、不動産管理会社がエンドユーザーから受け取る賃料から不動産管理会社の取り分を差し引いた賃料しか受け取れませんので、少なくとも相場の賃料の10%程度少ない賃料しか受け取れないということです。この点、管理委託契約であれば、月額賃料の3から5%を支払うだけで済みます。
結局、サブリース契約は、賃料が少なくなっても、安定した収入を得たいという大家さんに適しているということになります。
今回見せていただいた契約書の内容で気になったのは、次の4点でした。
(1)契約期間と解約事由
(2)賃料額
(3)賃料の改訂方法
(4)費用負担の分担
(1)の契約期間と解約事由ですが、契約期間は10年のものと20年のものがありましたが、いずれの契約書でも、不動産管理会社側に中途解約権が認められていました。
この中途解約権というのは、不動産管理会社が、一定の予告期間を置いていつでも契約を解約できる権利です。中途解約権が認められていると、不動産管理会社はいつでも契約を解約できるわけですから、契約期間を10年や20年の長期としても、ほとんど意味がないことになります。
不動産管理会社としては、企業として採算が合わなくなれば撤退するのは当然なので、この中途解約権条項を入れないように求めても、受け入れないでしょう。ただ、一定期間は中途解約権を行使しないという条項を入れてもらうよう求めることはできると思います。また、せめて解約予告期間をなるべく長くするように交渉するべきです。
(2)の賃料額は、不動産管理会社の取り分が多くなればなるほど、大家さんがもらえる賃料額は少なくなります。10%前後が相場だと思いますが、15%という会社もあります。
ただ、不動産管理会社の取り分のパーセントだけを比較して、どの会社がいいか決めるというわけにはいきません。というのは、(4)と関連しますが、契約書には、この不動産管理会社の取り分以外に、大家さんが負担すべきお金が記載されています。公租公課、修繕費、管理費、火災保険料、共用部分の維持費など、いろいろな負担があります。これらのうち、どれが大家さんの負担で、どれが不動産管理会社の負担なのかと言う点も考慮しないと、大家さんの実質的な収入は分からないのです。さらに考慮すべき事情として、新しい入居者が礼金を払う場合、それが不動産管理会社の懐に入ってしまうかどうかも確認してください。
(3)の賃料の改訂方法は、どの契約書にも一定の期間(たとえば2年)ごとに賃料の改訂をすることが明記されています。契約書によっては、2年ごとに賃料を改訂すること、改訂後の賃料は、エンドユーザーが支払う賃料の90%であること、大家さんがこの賃料の改訂を了解しない場合は、不動産管理会社側は上記の2年終了時にサブリース契約を解約できることなどをさだめています。この場合、中途解約ではありませんので、予告期間もありません。ここでも、原則として賃料の改訂の交渉が2年ごとに行われる契約であっても、最初4年間は賃料改訂をしないというような条項をいれてもらうよう交渉するといいでしょう。
(4)の費用負担の分担ですが、これは、先ほど説明したとおり、公租公課、修繕費、管理費、火災保険料、共用部分の維持費など、いろいろな負担を大家さんと不動産管理会社のいずれが、どこまで負うかということです。
特に、修繕費は大きな修繕から小さな修繕までいろいろな修繕がありますので、きちんと分担表を作ってもらい確認するべきです。
最後に、1棟丸ごとのマンション経営の場合、新築後10年から15年経過すると、貸室内の設備が一斉に老朽化し、取り換えが必要になります。一斉に取り替えるためには、かなりの費用がかかります。この費用を考慮していなかったために、途中で経営が立ち行かなくなるケースもあります。ちなみに、サブリース契約や管理委託契約を引き受けている不動産管理会社では、この費用を積み立てるような仕組みを取っているところもありますので、聞いてみるとよいでしょう。
サブリース契約は、単純な管理委託契約と異なり、ある程度複雑ですので、よく読んで内容を確認してから締結するべきです。もちろん、希望があれば、どんどん言うべきです。不動産管理会社も、新築でロケーションのよい物件については、集客も簡単で確実に利益が見込まれるので、ある程度大家さんの希望を受け入れてくれるはずです。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。