賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
民法改正は、正しく伝わっているか?~第6回 賃貸借期間中でも連帯保証人が責任を負う額が確定してしまうことがある?!
東京の新規感染者数は、連日1,000人を超え、報道番組などでは、8月上旬に2,000人を超えるとか、最悪の場合には4,000人を超えるなどという話も出ています。
今は、入院患者も重症患者数もまだ多くなく、病床使用率も低いですが、感染者が毎日2,000人を超えるようになると、どうなるかわかりません。
4度目の緊急事態宣言の最中でも、感染者の増加に歯止めがかからないので、政府も、もうどうしたら感染を抑制できるのか、分からなくなっているのではないでしょうか。
さて、今回は、個人保証人の保証の範囲の確定の話です。
改正民法では、次の場合、個人保証人の保証の範囲は確定してしまいます。これを「元本の確定」といいます。
① 保証人の財産に強制執行がされた場合
② 保証人が破産した場合
③ 借主または保証人が死亡した場合
この中で、注意を要するのは、「③ 借主または保証人が死亡した場合」です。
まず、「保証人が死亡した場合」について、具体例で考えてみましょう。
Bは、Aの所有するマンションの一室について建物賃貸借契約を締結して入居し、Cは、上記の建物賃貸借契約の連帯保証人となりました。極度額は、300万円です。
上記の賃貸借契約の期間は、令和2年4月1日から令和4年3月31日でしたが、令和3年10月8日にCが亡くなりました。
この時点で、Bには家賃滞納などなく、また、貸室内に損傷などはありませんでした。
このケースで、Cの連帯保証人としての責任はどうなるでしょうか。
上記のとおり、個人保証人の保証債務の元本は、個人保証人が亡くなった時点で確定しますので、Cが死亡すると、Cの保証債務の元本は、その時点のBのAに対する債務の額で確定してしまいます。
上記のとおり、Cが死亡した時点で、BはAに対して未払債務はないので、Cの保証債務の額は0です。
Cが亡くなった後で、Bが家賃を滞納したりしても、Cの保証債務の元本は確定していますので、0だったCの保証債務の額が増えることはありません。
この保証人の死亡による元本の確定には、決定的な対策はありません。
強いて言うならば、賃貸借契約書に、連帯保証人が死亡した場合は、借主は、一定期間内に別の連帯保証人を立てる義務を負い、この義務を怠ったときは、契約を解除できることを明記し、借主が新しい保証人を探してくるように促すしかありません。
【契約書に記載する条項】
第○○条
1
2
3 連帯保証人が死亡したときは、乙は、乙が連帯保証人の死亡を知ったときから6か月以内に、新たに甲が認める者を連帯保証人としなければならず、乙がこの義務を怠ったときは、甲は本契約を解除することができる。
次に、「借主が死亡した場合」について、具体例で考えてみましょう。
Bは、Aの所有するマンションの一室について建物賃貸借契約を締結して入居しました。
Cは、上記の建物賃貸借契約の連帯保証人となりました。極度額は、300万円です。
上記の賃貸借契約の期間は、令和2年4月1日から令和4年3月31日でしたが、令和3年10月8日にBが貸室内で孤独死(病死)し、1か月後に発見されました。
Bが死亡した時点で、家賃滞納などなく、また、貸室内に損傷などは発生していませんでした。
このケースで、Cの連帯保証人としての責任はどうなるでしょうか。
個人保証人の保証の元本は、借主が亡くなった時点で確定しますので、Bが死亡すると、Cの連帯保証責任の金額は、その時点のBのAに対する債務の額で確定してしまいます。
上記のとおり、Bが死亡した時点で、BはAに対して未払債務はないので、Cの保証債務の額は0です。
この後、滞納家賃や貸室の汚損による損害賠償請求権が発生しても、Cは一切責任を負いません。
この借主の死亡による元本の確定にも、決定的な対策はありません。
ちなみに、借主が死亡していますので、借主の相続人は、借主の債務を承継します。
このため、Bの死亡後の滞納家賃や原状回復費用を、Bの相続人に請求することはできます。
しかし、Bの相続人が相続を放棄する手続きをとると、Bの相続人は、Bの債務を承継しません。
また、Bの相続人が相続を放棄する手続きをとらず、AがBの相続人に請求できる場合でも、Bの相続人に請求できる原状回復費用は、あくまでBが死亡するまでに発生していたBに帰責事由のある貸室の汚損の原状回復費用だけであって、原則としてBの死亡後に発生した室内の汚損等の原状回復費用は請求できません。
同様に、孤独死と遺体の発見の遅れによる心理的瑕疵により、一定期間マンションの賃貸ができなくなったり、賃料が低下したりしても、原則としてその損害をBの相続人に請求することはでません。
このように、「借主または保証人が死亡した場合」に、連帯保証人の保証債務の元本が確定するという改正民法の規定は、大家さんにとっては、なかなか厳しい規定ですので、注意してください。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。