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賃貸経営の法律アドバイス

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大谷郁夫

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アドバイス

弁護士
銀座第一法律事務所
大谷 郁夫

2015年2月号

賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。

管理会社は取り替え自由!?

管理委託契約の中途解約に理由はいらない。

 ついこの間、新年のご挨拶をしたような気がしますが、アッという間に2月になってしまいました。
 この時期は学生の入学や卒業、会社員の転勤などがあって、賃貸住宅の入居者の入れ替わりが多くなります。当然、仲介会社や管理会社が忙しくなりますが、最近大家さんから、管理会社との契約について、こんな相談がありました。

 その大家さんは、150室ほど貸室を所有されているAさんという方ですが、事務所に来られ、「昨年の10月に管理会社と締結した管理委託契約を解約したいが、問題ないか。」という相談をされました。Aさんが管理委託契約を解約したい理由は、管理報酬が高い割に、あまり熱心に管理をしてくれないということでした。
 ここで注意してほしいのは、管理委託契約の契約期間中の解約には2つのケースがあるということです。
 一つは、管理会社が管理委託契約に定められた管理業務を適切に行わないことを理由として管理委託契約を解約するケースです。これは、契約上の義務の不履行を理由とする契約解除ですから当然可能です。
 もう一つは、管理会社に契約上の義務の不履行はないが、大家さんの希望で管理会社を変えたくなったというケースです。今回相談してきたAさんは、「管理報酬が高い割に、あまり熱心に管理をしてくれない」から解約したいということですから、こちらのケースに当たります。
 このように、いわば大家さんの都合で管理委託契約を契約期間中に中途解約することはできるのでしょうか。

 まず、管理委託契約は契約ですから、契約書の記載によって解約の可否が決まります。
 大手の管理会社の管理委託契約書では、通常は、契約の中途解約について、「○か月前に相手方に通知しなければならない。」と記載されています。このような記載がある場合は、契約書に定められた「○か月前」の通知さえすれば、契約期間中であっても中途解約することができます。
 しかし、Aさんと管理会社の管理委託契約書には、契約期間や契約の自動更新の定めはありましたが、契約期間中の中途解約については、何も書かれていませんでした。
 Aさんは、契約書に中途解約について何も書かれていないことから、中途解約できないのではないかと心配になり、私に相談してきたのです。

 しかし、大家さんは、管理委託契約書に中途解約に関する定めがない場合でも、原則として何時でも管理委託契約を解約することができます。
 管理委託契約というのは、民法の定める13種類の契約の中の委任契約というものに当たるのですが、委任契約については、民法第651条第1項に、「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。」 と定められています。
 従って、大家さんは、管理委託契約書に中途解約について何も書かれていない場合は、この条文に基づいて、何時でも管理委託契約を解約することができます。この場合、解約の理由も必要ありません。ただ、止めたいから止めるということでかまいません。

 私は、この民法の条文をAさんに説明し、「解約したければ、いつでも解約できます。」とアドバイスしました。
 Aさんは、私のアドバイスを受けて安心し、管理会社に対して、管理委託契約の中途解約を申し入れました。
 ところが、管理会社は、この申し入れに納得せず、Aさんに対して、「管理委託契約を中途解約したら、損害賠償を請求する。」と言ってきました。管理会社としては、150件もの管理委託契約を失うわけですから、多額の管理報酬が入らなくなります。そこで、Aさんに損害賠償を請求すると言ったのでしょう。

 管理会社から「損害賠償を請求する。」と言われたAさんは、再び電話で、「損害賠償を請求するといわれました。支払わなければなりませんか。」と相談されました。
 しかし、管理委託契約を民法第651条第1項に基づいて解約した場合には、原則として損害賠償義務は発生しません。もちろん、解約するまでの管理報酬は支払わなければなりませんが、解約によって失われる将来の管理報酬相当額を賠償する義務などないのです。

 このように、大家さんは、管理委託契約書に中途解約についての定めがあれば、その定めに従わなければなりませんが、中途解約についての定めがなければ、原則として自由に解約できるのです。

 ちなみに、弁護士と依頼者の間の契約も委任契約です。ですから、依頼者は、いつでも契約を解約することができます。
 管理会社であろうと弁護士であろうとサービス業ですから、依頼者が気に入らなければチェンジされるのは仕方ないことです。もちろん、働いた分の報酬はもらいますが、それ以上の請求はできないのです。

※本コンテンツの内容は、記事掲載時点の情報に基づき作成されております。

大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士

銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/

平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。