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最後に買った建売業者には、お咎めなしか?多重売買を利用した頭金の詐取 その2
最近、闇バイトの強盗事件のニュースをよく聞きます。
10代から20代の若い人が、闇バイトの元締めに免許証などの個人情報を送信してしまい、断れば家族や知人に危害を加えると脅され、強盗に及んでしまったというケースが多いようです。
こういうニュースを見ると、犯人の若い人たちが、強盗がどれくらい重い罪になるのか分かっていたのだろうかと思ってしまいます。
闇バイトの強盗では、ほとんどのケースで、犯人の暴力により被害者が怪我をしており、中には被害者が亡くなったケースも何件かあります。
強盗が被害者に怪我をさせると、強盗致傷罪となり、無期又は6年以上の懲役となります。また、強盗が被害者を死亡させると、強盗致死罪あるいは強盗殺人罪となり、死刑又は無期懲役となります(なお、少年事件の場合は、除外しています)。
強盗致傷の場合、1回の犯行だけでも、減刑されない限り執行猶予はつきませんので、実刑、つまり必ず刑務所に行くことになります。
また、強盗致死あるいは強盗殺人の場合、1回の犯行だけでも、減刑されない限り無期懲役か死刑になります。もちろん、裁判官が死刑を選択するのはかなり重大なケースですから、ほとんどの場合、無期懲役です。この無期懲役は、情状により減刑しても、10年以上の懲役刑となります。
闇バイトの強盗に引き込まれそうになったときは、被害者の命や体のことはもちろんですが、1回の犯行でも、こんなに重い刑を受け、自分の人生が台無しになってしまうのだということをよく考えてほしいと思います。
さて、今回は、多重売買を利用した頭金の詐取についての続きです。
事件をおさらいしてみましょう。
X社は、ある土地を、何人もの個人に売却し、買った人から頭金を受け取り、最終的に、大手の建売業者に相場どおりの値段で売りましたが、その後、X社の代理人弁護士から、X社が破産申立をするという通知が騙された人たちに送られてきました。
この事件では、破産手続き開始の申立があったようですが、破産手続き開始決定があった場合、最後にX社から問題の土地を買った大手建売業者は、どうなるのでしょうか。
裁判所は、破産手続き開始決定と同時に破産管財人を選任します。
破産管財人の仕事は、簡単に言えば、破産者の財産をお金に換え、債権者に公平に分配することです。
ただ、実際には、破産した人や会社には、総債務額に比べて遥かに少額な財産しか残っていませんので、「債権者に公平に分配する」と言っても、もともと分配できるお金はかなり少ないのが普通です。
その上、「公平」にとは言っても、法律的な順番があり、租税、破産管財人の報酬、労働者の給料などには、優先的な権利がありますので、それらを差し引いた残りが、一般の債権者に対する配当の原資となります。
このため、一般の債権者に対する配当があって債権額の数パーセントであったり、全く配当がなかったりというケースがかなりあります。
とはいえ、破産管財人ができるだけ配当に回せるお金を増やすことができるように、破産法は、破産管財人にいろいろな権利を与えています。
その中の一つが、否認権という権利です。
否認権というのは、簡単に言えば、破産者が破産前に行った不当な取引の効力を否定して、その取引によって失った財産を取り戻す権利です。
この場合、不当なというのは、破産者の財産を減少させる、あるいは債権者間の公平を害するという意味と考えていいでしょう。
たとえば、破産者が、財産を売ってお金に換え、隠すというのは、破産者の財産を減少させるということになり、また、破産者が、もう倒産することが確実な状況下で、一部の債権者だけに返済をしたり、財産を安くたたき売ったりした行為は、債権者間の公平を害するということになります(ちなみに、よく「倒産」と「破産」を混同されている方がいますが、「倒産」とは、事業が立ち行かなくなる事実としての状態のことを言いますが、「破産」とは、「倒産」した人や会社が、裁判所から破産手続き開始決定を受けたことをいいます。)。
今回の事件で、最後に土地を買った大手建売業者は、破産管財人から否認権の行使を受ける可能性があります。
しかし、この大手建売業者は、相場どおりの値段で買っていますので、破産管財人は、次のような条件がそろわないと、否認権を行使できません。
1 X社が、大手建売業者との売買当時、財産の隠匿等(売買によって受け取ったお金を隠すこと等)の処分をする意思を有していたこと
2 大手建売業者が、X社との取引当時、X社が財産の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと
この2つの事実の立証責任は、破産管財人側にありますが、なかなか上記の2の事実を立証するのは、難しいでしょう。
そもそも、大手の会社では、適切なコンプライアンスが実施されているはずですから、X社の危ない実態が分かれば、X社との取引に手を出さない可能性が高いので、上記2の事実自体がないということもありえます。
結局、大手建売業者の担当者がX社の危ない実態を知っており、破産管財人がその事実を立証できるという場合でなければ、否認権を行使されることなく、お咎めなしになってしまうのではないかと思います。
ただ、X社の話は、不動産取引の情報サイトでは、かなり前から話題となっていたという話もありますので、意外な展開もありうるかもしれません。
この年のコラムは、今回で終わりです。
皆様よいお年を!
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大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。