賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
修繕を拒否されたら契約を解除できる?大家さんの修繕の権利
先週は、月曜日を除いて、毎日全国で10万人を超える新型コロナウィルス感染者がでていましたが、医療の逼迫のニュースが、あまり見られませんでした。
しかし、ネットで検索してみると、病床使用率がかなり高くなっている都道府県もあり、じわじわと医療の逼迫が進んでいるようです。
年末には、おそらくかなりの感染者が出ることが予想されますので、私も5回目のワクチン接種をして備えようと思っています。
さて、今日は、大家さんの修繕の権利のお話です。
先日、私が顧問をしている大家さんのAさんから、こんな相談がありました。
Aさんは、都内にマンションを1棟所有していますが、その建物の中の生活排水の配管が破損してしまい、少しずつ水漏れが発生しています。Aさんとしては、破損した配管を修繕したいのですが、そのためには、Bに貸している2LDKの部屋の1室の壁を壊して、工事をする必要があります。
この工事には、10日間ほどかかり、この間、Aさんは、この部屋を使用できないだけでなく、この部屋にある家具その他のものを搬出しなければなりません。もちろん、工事の関係者も、日中この部屋を出入りすることになります。
そこで、Aさんは、Bに対して、工事の日程を説明した上、Aさんが工事期間中のホテル宿泊代金や工事をする部屋の荷物の搬出・搬入費用を負担すること、また、工事期間中の家賃は不要であることなどを申し出て、工事に協力してくれるようお願いしましたが、Bは拒否したそうです。
このため、Aさんは困ってしまい、「どうしたらよいか。」と相談の電話をかけてきました。
実は、民法には、次のような条文があります。
第606条 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
2 賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。
上記の第606条第2項によると、大家さんは、賃貸している建物の「保存に必要な行為」をすることができ、その際、賃借人は、それを拒むことができません。
言い換えれば、大家さんには、賃貸している建物の「保存に必要な行為」をする権利があり、賃借人は、これを受忍しなければならない義務があるのです。
この「保存に必要な行為」というのは、賃貸している建物が壊れるのを防ぎ、現状を維持するために必要な行為です。建物が破損するのを防止したり、建物が破損したときに、これを修繕したりする行為です。
Aさんの場合、建物の中の生活排水の配管が破損してしまい、少しずつ水漏れが発生していますので、これを修繕するのは、当然、「保存に必要な行為」にあたります。
従って、Aさんには、修繕を行う権利があり、Bは、これを受忍する義務があるのです。
では、Bが、あくまで修繕を拒否したらどうなるのでしょうか。
この場合、Aさんとしては、Bとの建物賃貸借契約を解除して、Bに対して、建物の明け渡しを求めることができます。
Aさんのケースでは、Aさんは、Bに対して、Aさんが工事期間中のホテル宿泊代金や工事をする部屋の荷物の搬出・搬入費用を負担すること、また、工事期間中の家賃は不要であることなどを申し出て、工事に協力してくれるようお願いしていますので、Aさんとしては、十分な条件を出して、誠実に対応しています。
従って、Bが、工事を拒否し続ける場合は、建物賃貸借契約を解除することを予告して説得し、それでも応じないときは、解除するしかないでしょう。
また、もし水漏れによって、建物の破損が拡大したり、他の住戸に被害が及んだりする差し迫った危険があり、直ちに工事をする必要があるときは、Bに対して、工事妨害禁止の仮処分の申立をすることも可能だと思います。
ちなみに、Aさんは、Bに対して、Aさんが工事期間中のホテル宿泊代金や工事をする部屋の荷物の搬出・搬入費用を負担すること、また、工事期間中の家賃は不要であることなどを申し出ていますが、Aさんがここまで負担する必要はあるのでしょうか。
Aさんが工事をする部屋の荷物の搬出・搬入費用を負担することやBが工事期間中の家賃を免れることは、ある程度仕方ないでしょう。
ただ、家賃については、貸している2LDKの部屋全部が1日中使用できないというわけではないので、居住は十分に可能ですから、日割り計算した10日分の家賃を払わなくて良いというのは、やや多すぎるかもしれません。
また、ホテル宿泊代金については、Aさんに支払義務があるか疑問です。そもそもAさんが修繕を行うことは、権利の行使ですし、上記のとおり居住が十分に可能であることを考えると、日割り計算した10日分の家賃を払わなくて良いというだけで十分だと思います。
もっとも、Aさんが納得しているなら、特に否定する必要はありませんので、このままの条件で交渉し、Bが拒否し続けるようなら、建物賃貸借契約の解除や仮処分申立などの法的手続を取ることをアドバイスしました。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。