賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
契約期間が満了しても契約は終わらない!正当事由と立退料とは?
いよいよ梅雨に入り、はっきりしないお天気の日が続いています。
この時期の花といえば紫陽花ですが、先日鎌倉の東慶寺というところに紫陽花を見に行ってきました。様々な種類の紫陽花がよく手入れされ、きれいに咲いていました。紫陽花以外にも、イワタバコ、ホタルフクロなど珍しい花があり、休日でもそれほど混んでいなかったので、この時期のお花見の穴場かもしれません。
さて、そんな和やかなお話から一転して、今日は正当事由のお話です。
最近、マンションの一室を賃貸している大家さん(Aさんとします。)から、「入居者に、契約期間が満了したので退去してほしいと申し入れたが、居座られてしまったので、何とかしほしい。」というご相談がありました。
建物の賃貸借契約は、普通建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約があります。
普通建物賃貸借契約の場合、大家さんが、契約を更新したくない場合、すなわち契約期間が満了したら借主に出て行ってもらいたい場合は、予め借主に対して、更新拒絶の通知をしなければなりません。この更新拒絶の通知は、契約期間の満了の1年前から6か月前までにしなければなりません。
さらに、大家さんが更新拒絶の通知をしたにもかかわらず、借主が契約期間終了時に建物に居座っているときは、大家さんは、借主に対して、速やかに異議を述べなければなりません。しかも、この大家さんの異議には、正当事由がなければなりません。大家さんが異議を述べたけれども正当事由がなかったときは、賃貸借契約は法律によって当然に更新されてしまいます。
結局、大家さんが更新拒絶をしたくても、次の全部の条件がそろわなければ更新拒絶はできず、法定更新となってしまうのです。
(1)所定の期間内の更新拒絶の通知
(2)契約期間の満了
(3)遅滞なく異議の申し立てをすること
(4)正当事由
これに対して、定期建物賃貸借契約の場合は、契約期間が満了すれば、原則として当然に終了し、借主は退去しなければなりません。
Aさんの建物賃貸借契約は、普通建物賃貸借契約でしたので、契約期間満了時に借主に出て行ってもらうためには、まず所定の期間内に更新拒絶の通知をしなければなりませんでした。
この通知は、この通知をしたこととこの通知が借主に届いたことを証明できるように、配達証明付きの内容証明郵便で送る必要があります。
この通知を忘れてしまう(と言うか知らない)大家さんや普通郵便で通知をしてしまい、この通知をしたことを証明できない大家さんは多いのですが、Aさんは、きちんと配達証明付き内容証明郵便で、所定の期間内にこの通知をしていました。ところが、借主に居座られてしまったのです。
そこで、次にAさんがしなければならいことは、遅滞なく異議を述べることです。できるだけ早く、借主に、配達証明付き内容証明郵便で、直ちに退去するよう要求するべきです。
しかし、Aさんが遅滞なく異議を述べても、Aさんに正当事由がなければ、契約は法定更新となってしまい、借主を退去させることはできません。
この正当事由とは、分かり易く言えば、大家さんが賃貸中の建物を自ら使用しなければならない事情、すなわち「建物使用の必要性」です。
ただ、この場合の大家さんの「建物使用の必要性」というのは、文字通り自分で使わなければならない事情だけでなく、次のような事情も含みます。
(1)貸している建物を自分や家族の住居などとして使用する必要がある。
(2)貸している建物を事業のために使う必要がある。
(3)貸している建物を建て替える必要がある。
Aさんの建物使用の必要性は、Aさんの息子夫婦が脱サラして東京に戻ってくることになったので、貸していたマンションに住ませたいというものでした。
しかし、この程度の事情では、自己使用の必要性はそれほど高くないと言わざるを得ません。
もちろん、正当事由の判断では、貸主の「建物使用の必要性」と借主の「建物使用の必要性」と比較しますので、借主の側に特にこのマンションに住まなければならないという事情がない(=同じようなマンションが近くにあれば、そこに転居しても特に不都合はない)のであれば、立退料を支払うことによって正当事由が認められる可能性はあります。
ただ、そうは言っても、Aさん側の事情は弱いので、それなりの金額の立退料を払う必要があるでしょう。類似の事案で、100万円の立退料で正当事由を認めたものがありますが、昭和55年の判決なので、現在では、もっと多くなると思います。
Aさんとしては、どうしてもこのマンションを明け渡してほしいということなので、もしこのまま入居者が居座った場合は、訴訟を提起することになります。私が依頼を受けていますので、この訴訟の経過については、折を見てこのコラムでご報告したいと思います。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。