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賃貸経営の法律アドバイス

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大谷郁夫

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アドバイス

弁護士
銀座第一法律事務所
大谷 郁夫

2015年10月号

賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。

借主が使用中に壊したり汚したりしたことを立証するためには

 先月は、アドバイスを1回お休みさせていただきました。すみません。
 アドバイスをお休みしたのは、夏休みで仕事をお休みしていたからではなく、逆に仕事に追われていたからです。
 われわれ弁護士にとって、8月下旬から9月中旬は、1年の中でもかなり忙しい時期です。この時期に忙しくなるのは、裁判所の休廷期間が終わり、担当している沢山の裁判が一斉に動き始めるからです。
 裁判官には20日間の夏休みがあり、この間は裁判官がお休みしているわけですから、裁判も休廷となります。もっとも、裁判官は、この20日間ずっとお休みしているわけではなく、自宅に裁判資料を持ち帰って判決文を書いています。恐らく、20日のなかで、裁判官が本当にお休みしているのは数日でしょう。
 こうして裁判官が沢山の判決文をもって裁判所に戻ってくると、われわれ弁護士も、一気に忙しくなるのです。もちろん、もう25年も弁護士をしているので、この時期忙しくなるのは分かっており、早めに準備をしていますが、それでもこの時期は、フル回転になってしまいます。

 さて、前回は、経年変化や通常損耗によって汚れたり壊れたりした部分の修理費用を借主に負担させる特約の書き方を説明しました。
 最近も、原状回復費についての相談が何件か来ていますが、相談に来られる大家さんや管理会社の持参される契約書は、特約として、「退去時のクリーニング費用は借主の負担とする。」と書いてあるだけで、クリーニング費用の金額は書いてありませんでした。これでは、残念ながら、効力は認められないでしょう。
 もちろん、この特約によって敷金からクリーニング費用を差し引いても、借主が納得すれば問題ありません。しかし、相談に来られたケースでは、全て借主が納得しなかったためにトラブルとなっていました。

 上記の相談では、特約の効力だけでなく、借主が使用中に壊したり汚したりした部分の修理費用の立証も問題となりました。
 前に説明しましたが、借主は、借りている部屋から退去する際、使用中に自分のミスで壊したり汚したりした部分の修理費用の支払義務を負います。
 問題は、借主が、使用中に自分のミスで壊したり汚したりしたことを、どうやって証明するかです。

 もう一度、例に挙げた具体的なケースを思い出してみましょう。

 貸していた部屋 : ワンルームマンション(入居時築4年)
 貸していた期間 : 4年間
 家賃 : 月額8万円
 預かっている敷金 : 16万円
 入居時の状況 : フルリフォーム(壁紙も張替え)破損・汚れ一切なし
 退去時の状況 : フローリングに大きな傷あり・壁の一部にコーヒーをかけたシミあり・壁の一部が日焼けにより変色・テレビや冷蔵庫などの後部の壁紙に黒ずみあり

 このケースでは、「フローリングに大きな傷あり・壁の一部にコーヒーをかけたシミあり」となっており、これは、借主のミスで壊したり、汚したりした部分に当たります。
 しかし、もし、借主が、「このフローリングの傷も壁のシミも最初からありましたよ。」と言って、修理費用の負担を拒否したらどうなるでしょう。

 このような場合には、大家さん側が、借主がフローリングに傷をつけたことと壁の一部シミをつけたことを証明しなければなりません。
 この話を大家さんにすると、「そんなの借主がやったに決まっているじゃないですか。」と言われますが、交渉の場でも法廷でも、そのような一方的な主張は通用しません。きちんと証拠を示して、借主がフローリングに傷をつけたことと壁の一部シミをつけたことを証明しなければならないのです。もちろん、借主が実際に傷をつけたことやシミをつけたことを立証する必要はありません、入居時に傷やシミがなかったことと、退去時に傷やシミがあったことを証明すればいいのです。
 そのためには、大家さんか管理会社の人が、入居時と退去時に、借主と一緒に部屋に入り、壊れている部分、傷のある部分、シミのある部分を確認する必要があります。そして、この確認時に見つけた壊れ、傷、汚れなどを、書類や写真に残してください。

 この作業は、面倒ですが、必ずやらなければなりません。
 今回相談のあった大家さんの中に、借主の退去時に、大家さんも管理会社も立ち会わず、借主が、同じマンション内の大家さんの部屋まで鍵を返しに来たという人がいました。
 それにもかかわらず、この大家さんは、借主が汚した壁紙の張替え費用を敷金から差し引いたそうです。大家さんからすれば、入居時には壁はきれいだったのだから、退去時に壁が汚れていれば、借主が張替え費用を負担するのは当然だと思うからも知れませんが、かなり乱暴な対応です。
 また、管理会社が退去時に立ち会わないというのは、言語道断です。退去と言うのは、借主が借りている部屋を大家さんに返すということであり、この退去がきちんと終らなければ、借主は、家賃の支払義務その他の法律上の義務から解放されません。ですから退去は、法律的に極めて重要な手続きなのです。大家さんから契約の管理を委託されている管理会社が、この退去に立ち会わないというのは、重大な任務違反です。こんな管理会社に任せていると、トラブルは何度も起きますので、別の会社に変えるべきです。
 トラブルは、自然発生的に起こるものではなく、契約書に不備や管理会社の不適切な対応が原因となっているケースが多いのです。

 次回は、原状回復費用の計算の仕方について説明します。

※本コンテンツの内容は、記事掲載時点の情報に基づき作成されております。

大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士

銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/

平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。