不動産売却・購入の三井住友トラスト不動産:TOP投資用不動産・事業用不動産賃貸経営の法律アドバイス裁判所から調停期日の呼び出し民事調停とは、裁判所という場所を使った話し合い(2015年1月号)

賃貸経営の法律アドバイス

専門家のアドバイス
大谷郁夫

賃貸経営の法律アドバイス

賃貸経営の法律
アドバイス

弁護士
銀座第一法律事務所
大谷 郁夫

2015年1月号

賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。

裁判所から調停期日の呼び出し

民事調停とは、裁判所という場所を使った話し合い

 新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
 本来は、昨年の暮れにアドバイスをアップしなければならなかったのですが、仕事に追われて年明けになってしまいました。すみません。
 今年も、できるだけお役にたつ情報をお伝えしていきたいと思います。

 さて、今年最初の話題は、民事調停です。

 昨年暮れ、知り合いの大家さんのAさんに対して、東京簡易裁判所から調停期日の呼び出しがありました。
 調停の申立てをしたのは、昨年の4月までAさんの所有する店舗を借りていた賃借人のBさんであり、申立の内容は、保証金3か月分90万円を返してほしいというものです。

 調停と言うと、皆さんがまず思い浮かべるのは、家庭裁判所での離婚調停や遺産分割調停ではないかと思います。
 しかし、このような家事に関する事件ではない一般の民事事件でも、簡易裁判所に調停の申し立てをすることができます。これを民事調停といいます。また、調停の申立てをした人を申立人と言い、申立てを受けた人を相手方と言います。
 民事調停は、一般の民事事件について、簡易裁判所で2名の調停委員が申立人と相手方の意見を聞き、話し合いで事件を解決するというものです。
 裁判所とか調停委員と言うとちょっと仰々しいですが、実際の中身は、裁判所という場所を使った話し合いに過ぎません。
 ですから、民事調停の調停期日の呼び出しがあっても、相手方は必ず出頭しなければならないわけではありません。民事調停法では、不出頭に対するペナルティが定められていますが、実際には不出頭の場合に適用されていませんし、民事調停期日に答弁書を提出せずに欠席しても、一般の民事訴訟のように、敗訴判決を受けることはありません。
 また、出頭しても、必ず調停を成立させなければならないわけではありません。あくまで話し合いですから、話がまとまらなければ、調停不成立で終わります。
 ちなみに、民事調停ではなく、一般の民事訴訟では、被告が答弁書も出さずに第1回期日に出頭しなければ、原則として原告の主張がそのまま認められ、被告が全面的に敗訴する判決が下されます。

 このように、民事調停では、相手方が出頭しないこともあり、また、相手方は出頭しなくても民事訴訟のように敗訴判決を下されることもありません。従って、民事調停の申立ては、相手方が出頭しない場合は、何の結果も得られない骨折り損になることがあります。
 実際、今回のAさんの民事調停でも、Aさんは出頭しないことにしましたので、Bさんは骨折り損になりました。
 それどころか、Bさんは、民事調停を申立てたことによって、Bさんの手の内をある程度Aさんに知られてしまいました。

 この「手の内を知られた。」とは、どういうことでしょう。
 民事調停は、前述のとおり骨折り損になる可能性があるものですから、申立人が、法的に優位に立っていれば、つまり、適切な法的主張があり、その主張を裏付けるだけの証拠があれば、訴訟を起こした方が時間的にも労力的にも無駄がありません。Aさんの事件でも、Bさんに適切な法的主張があり、その主張を裏付けるだけの証拠があれば、直ちに90万円の保証金の返還を求める訴訟を提起したはずです。
 従って、Bさんが訴訟を提起せずに調停を申し立てたということは、「Bさんは、訴訟をしても勝てないと考えている。」と推測できるのです。もちろん、Bさんは、法律の専門家ではないので、自分だけでそのような判断はできません。恐らく、Bさんは、手持ちの証拠を見せて弁護士などの専門家に相談し、その専門家から、「勝訴の可能性が低いから、調停をしたらどうか。」と言われたのではないでしょうか。
 このように、民事調停を起こすと、後で説明する特殊なケースを除いて、「勝てない。」という気持ちや状況を相手方に見抜かれてしまうことが多いのです。

 実は、弁護士の目から見ると、勝てる可能性のある事件で民事調停を申し立てすることは、ほとんどありません。逆の言い方をすると、弁護士が民事調停を勧めたり、民事調停を申し立てたりするのは、こちらの主張が法的に成り立たない場合か、こちらの主張を裏付ける証拠が不足していて、訴訟を提起しても勝てる可能性が極めて低い場合なのです。
 ですから、「民事調停でもしますか。」と弁護士に言われたら、言外に「訴訟をしても勝てないですよ。」と言われていると思ってください。

 ただ、一つだけ注意をしてほしいのは、相手方の手持ちの証拠や内情を調査するために民事調停を利用するという特殊なケースです。
 既に説明しましたように、民事調停は裁判所という場所を使った話し合いです。また、調停委員も、中立の立場で穏やかに話を勧めます。このため、一般の人の中には、「話し合いなんだし、調停委員もいるから」と、弁護士に相談せず、気軽に出頭し、事件についていろいろなことを話したり、資料を出したりする人がいます。
 しかし、申立人側は、訴訟を提起する準備として民事調停を利用し、こちらの手持ちの証拠を入手したり、申立人にはわからない相手方の実情を聞き出そうとしたりすることがあります。そして、民事調停によって得られたいろいろな資料に基づいて、民事訴訟を提起するのです。
 このような事件を、民事訴訟になってから引き受けると、民事調停段階でこちらの依頼者が出した証拠や口を滑らせて話してしまった内情を持ち出され、窮地に陥ることがあります。

 結局、民事調停を申し立てられたら、最初から訴訟になったら不利になることが分かっている事件(もっとも、こんな事件で調停が申し立てられることはありませんが)以外は、真剣に話をまとめる気持ちがなければ、出頭しない方が無難なのです。

※本コンテンツの内容は、記事掲載時点の情報に基づき作成されております。

大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士

銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/

平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。