賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
2022年問題~生産緑地の行為制限解除でアパートやマンションの大量供給が起きる!?
私の依頼者に、東京近郊の大都市に広い土地を持つ大地主さんがいますが、この大地主さんの持っている土地の中に、生産緑地地区という看板の出ている土地があります。
初めてこの大地主さんと知り合ったのは今から10年ほど前ですが、当時はまだ、生産緑地が絡むような仕事をしたことがなかったので、余り知識がなく、「生産緑地ってなんだろう?」などと思っていました。
この大地主さんが住んでいる市のホームページをみると、生産緑地地区について、こんな風に書いてあります。
「生産緑地地区は、市街化区域内にある農地等が持っている農業生産活動等に裏付けられた緑地機能に着目して、公害又は災害の防止、農林漁業と調和した都市環境の保全などに役立つ農地等を計画的に保全して、良好な都市環境の形成を図る都市計画の制度です。」
これを読んだだけでは、何のことだか、さっぱりわかりません。
分かりやすく説明すると、首都圏、中部圏及近畿圏の大都市およびその近郊都市の市街化区域内にある農地は、宅地並みに課税されるため農業をしていいても採算が合いません。このため、市街化区域内の農地は、宅地として売却されていきますが、市街化区域内の農地が全部宅地になってしまうと、その地域から緑地がなくなり、防災や環境の保全という点から望ましくありません。
そこで、市街化区域内に緑地を残すため、市町村が、農業が営まれているなどの一定の条件を満たす農地等について、土地所有者の同意を得て(実際には、土地所有者が指定の申出をしています。)、審査のうえ、都市計画の一部として当該土地を生産緑地地区に指定します。この生産緑地地区内にある土地を、生産緑地と呼びます。
生産緑地地区に指定されると、生産緑地地区であることを表示する標識が設置され、農地として管理することが義務付けられます。農地として管理するというのは、農業を続けるということです。当然のことながら、建物を建てたり、宅地を造成したりすることなどは認められません。
その代り、生産緑地の所有者は、税金の面で優遇(固定資産税及び都市計画税が農地並みに軽減され、また、相続税の納税猶予が受けられます。)を受けることができます。
この生産緑地の所有者は、次のような事情が発生したときは、市町村に対して、生産緑地を時価で買い取ることを請求できます。
(1)生産緑地地区に指定されてから30年を経過したとき。
(2)農業の主たる従事者が死亡したとき。
(3)農業の主たる従事者が農業に従事できないような重大な故障が生じたとき。
さて、ここまでは、生産緑地地区という制度の説明でしたが、ここからが、今日の本題です。
生産緑地地区の制度ができたのは1992年ですが、その際に、かなり沢山の生産緑地地区が指定されました。あるデータによると、現在全国には、約1万3650ヘクタールの生産緑地地区がありますが、その8割近くが1992年に指定を受けているそうです。
ということは、1万3650ヘクタールの8割に当たる1万0920ヘクタールが、2022年に指定から30年経過し、自治体に対して、生産緑地の買い取りを請求できることになるのです。1万0920ヘクタールがどれくらいなのかピンときませんが、東京23区の面積が約6万2000ヘクタールということですので、東京23区の約6分の1です。
生産緑地の買い取り請求があると、市町村はどうするのでしょうか。実際に買い取り請求をしたことがないので正確なところは分かりませんが、ネット上の情報や書籍によると、過去の例では、市町村は、ほとんど買い取り請求に応じていないようです。
では、市町村に買い取ってもらえない生産緑地はどうなるのでしょうか。市町村が買いとならない場合、市町村は、別の取得者を斡旋することになっていますが、あくまで努力義務に過ぎませんので、実際に斡旋できるかどうかはわかりません。
この結果、買い取りを請求してから3ケ月以内にその土地の所有権移転登記が行われないと、その土地を農地として管理する義務やその土地に建物を建てたり、宅地を造成したりすることについての制限が解除され、自由に利用できるようになります。つまり、生産緑地地区としての制限が解除されてしまうのです。
同時に、固定資産税及び都市計画税が大幅に増額しますので、多くの所有者は、生産緑地であった土地の売却やその土地上での賃貸経営に乗り出すことになります。これによって、2022年に大量の売地やアパートやマンションの供給が起こると予想(?)されています。
つまり、2022年は、大都市及びその近郊都市でアパートやマンションが供給過多となり、既存の賃貸経営に重大な影響が出る可能性があるのです。
本当に、そんなことが起きるかどうかは分かりませんが、これから賃貸経営を始めようと考えられている方は、こんな情報も頭に入れておくとよいかもしれません(なお、上記の生産緑地制度の説明は正確なものではありませんが、これは、コラムを読みやすくするためですので、ご容赦ください。)。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。