賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
不動産投資は、もっと慎重に!不動産投資を巡る最近の出来事
先日、関東北部にまとまった雪が降り、積雪となることがありました。
その日は、ちょうど、関東北部にある地方都市の裁判所で証人尋問があったため、雪の中、出かけていきました。
証人尋問が終わったのが午後4時くらいでしたが、雪は降り続いており、かなり積もっていました。
私は、依頼者が車で来ていたので、依頼者に裁判所から駅まで送ってもらうことにしたのですが、相手方の弁護士と依頼者は、タクシーを呼んでも応答がなったため、仕方なく私の依頼者に、「一緒に駅まで乗せていってくれませんか。」とお願いしました。私の依頼者は、特に嫌な顔もせず、「いいですよ。」と言い、みんなで一つの車に乗って駅に向かいました。
この事件は、企業対企業の事件でしたので、依頼者同士、個人的な恨みがあるわけではないのですが、ついさっきまで、証人尋問でやり合っていた双方の依頼者と弁護士が、全員同じ車に乗って駅に向かうというのは、なかなかあるものではありません。
面白い体験をしたなという感じです。
さて、今回は、不動産投資を巡る次のようなネット上の記事について、考えてみたいと思います。
先日、ネット上に、住宅金融支援機構の住宅ローン『フラット35』を使って、不動産投資を行い、機構からローンの一括返済を求められて困っている人たちの記事がありました。
その記事によれば、Aさんは、不動産投資セミナーでブローカーから声をかけられ、不動産投資のための借入であっても、『フラット35』を利用できると騙され、『フラット35』を利用して住宅金融支援機構からお金を借りて投資物件のアパートを買ったのですが、その後、住宅金融支援機構に投資物件を購入したことがばれてしまい、ローンの一括返済を求められているということでした。
不動産投資を勧める業者が、『フラット35』を使わせて投資物件を買わせているという話は、昨年夏くらいから、私の耳にも入っていました。
私の知っている不動産会社の人が、「『フラット35』を使わせて投資物件を買わせている業者が結構いるんですよ。酷い話ですよ。きっと、この先、問題になりますよ。」と話していたのを覚えています。
『フラット35』は、住宅ローン、つまり、自宅として利用する不動産を購入する場合のローンですから、投資物件を購入する場合には利用できません。
ですから、当然のことですが、『フラット35』を利用して投資物件を購入した場合、その事実が住宅金融支援機構に発覚すれば、ローンの一括返済を求められることになります。
このような不動産投資の詐欺まがいの事案は、後を絶ちません。最近の事案では、カボチャの馬車事件が有名です。
なぜ、このような不動産投資の詐欺まがいの事案が後を絶たないのでしょうか。
当然、一番悪いのは、不動産投資のための借入であっても、『フラット35』を利用できるとAさんを騙したブローカーでしょう。
また、住宅金融支援機構の審査にも問題があるのではないでしょうか。
住宅金融支援機構のWebページを見ると、『フラット35』を利用する場合の申請書類には、売買契約書と物件の登記事項証明書の添付が求められています。
売買契約書の対象物件の記載を見れば、通常の住宅なのか、あるいはアパートなのかは、容易に分かるはずです。
もちろん、対象物件に嘘が書いてあれば、売買契約書自体からは、通常の住宅なのか、あるいはアパートなのかは分かりませんが、対象物件の登記全部事項証明書を見れば、通常の住宅なのか、あるいはアパートなのか分かるはずです。
もっとも、新築物件の場合は、『フラット35』を利用するための申請書類を提出する段階では、まだ建物が建築されておらず、建物の売買契約書も登記もないということがあります。
このような場合、住宅金融支援機構は、建物が建築され、ローンを実行する時点で建物の売買契約書と登記事項証明書の提出を求め、対象物件を確認しているようですが、この時点で、通常の住宅なのか、あるいはアパートなのか確認できれば、融資を止めることができるのではないでしょうか。
ただ、新築マンションとなると、自宅用なのか、あるいは投資用なのかは、売買契約書と登記事項証明書を見ても分かりませんので、申請書の記載や本人の申告で判断するしかありません。
上記の記事によれば、新築マンションが対象物件となっているケースで、『フラット35』を利用するための申請書類に、業者が勝手に自宅用と記載し、本人にも、住宅金融支援機構から確認の電話があったら、自宅用と嘘をつくように指導していたという事案があったようです。
このように、悪質なブローカーや業者が住宅金融支援機構の審査の甘さや弱点を利用して、被害者に『フラット35』を不正利用させていたというのが実態のようですが、被害者の方も、もう少し不動産投資の怖さについて考えるべきだったのではないかと思います。
これまでも、何度かお話してきましたが、簡単に儲かる投資やリスクのない投資はありません。
投資をすることは悪いことではありませんが、どんな投資にもリスクはあります。そのリスクをできるだけ小さくする方法は、自分の選んだ投資対象について、基礎的な知識を学び、きちんと情報収集をすることです。
そして、自分の持っている知識や情報から見て、疑問のあるときは、その疑問をそのままにせず、いろいろな方法を使って解消した上で、次のステップに進むべきです。
今回の『フラット35』の不正利用のケースでも、被害者が、事前に住宅金融支援機構に確認をすれば、簡単にブローカーが嘘をついていることが分かったはずです。住宅金融支援機構のWebサイトには、相談窓口の電話番号がアップされていますので、難しいことではないと思います。
この記事では、被害者の方々が、住宅金融支援機構に対して、融資のチェックが杜撰であったこと等を理由として、ローン一括返済の無効を求めて集団提訴をしたと書かれていましたが、住宅金融支援機構の審査の甘さや弱点だけでなく、被害者の行動がどう評価されるのか、興味のあるところです。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。