賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
レントロールを疑え!嘘の利回りに騙されるな。
今年は、インフルエンザが大流行していますが、私も、1月下旬にインフルエンザに罹ってしまいました。久しぶりに40度近い熱が出ましたが、タミフルを飲んで2日間寝ていたら、直ぐに元気になりました。事務所や裁判所の人に感染する恐れがあったので、治っても5日間自宅で仕事をしましたが、電話も雑用もなかったので、意外と仕事が捗りました。
さて先日、私の事務所に、女性のサラリーマン大家さん(Aさん)が訪れ、虚偽の内容を記載したレントロールを見せられ、相場より高い値段で収益不動産を買わされたが、どうしたらよいかという相談をされました。
Aさんは、一般の会社に勤めている40歳代の独身女性で、老後の生活のために、何年か前から、アパートやマンションなどの収益不動産をフルローンで購入するという方法で資産形成を始めたそうです。
Aさんは、既に首都圏の都市部に4棟のアパートと1棟のマンションを持っているのですが、半年前に買ったアパートについて、最近、売買時に見せられたレントロールが虚偽であることが分かったということでした。
アパートやマンションなどの収益不動産の売買では、売主が売却直前に、空室にダミーの入居者を入れ、あたかも満室になっているように見せかけ、高い値段で売りつけるというケースはよくあります。
このようなケースでは、売買が成立して何ヶ月かすると、パラパラと賃借人が退去し、気が付いたときには入居者の3分の1くらいがいなくなっているということがあります。
しかし、売買契約後に退去した入居者が、売主の用意したダミーかどうかは、なかなか分かりません。また、それを証拠で立証することも困難です。このため、こうしたケースでは、買主は、売主の責任を追及することができず、泣き寝入りになることがあります。
上記のような満室の偽装はよくあるのですが、今回のAさんのケースは、もっと酷い偽装で、売主のB社が提出したレントロールに記載されている家賃そのものが、全て嘘でした。具体的に言うと、このアパートには8室の貸室があったのですが、その全ての部屋の家賃が、本当の家賃より3万円くらい多く記載されていました。たとえば本当の家賃が8万円なら11万円、9万円なら12万円といった具合です。
このアパートは、1億3000万円で売り出されていましたが、B社から見せられたレントロールどおりの賃料が入ってくれば、表面利回りは10パーセントを超えていました。
Aさんは、首都圏の都市部の物件の購入については、表面利回り10パーセント以上を基準としていましたので、このレントロールを信じて、少し値切りましたがこのアパートを1億2500万円で購入しました。
「ちょっと待って、そんなことをしても、購入後にAさんが各室の賃貸借契約書をB社から受け取れば、直ぐにレントロールが嘘だったことがバレるんじゃないか。」と思った方も多いでしょう。
確かにそうなのですが、このケースは特殊で、売主であるB社が、売却後もそのまま物件の管理業務を行なうことになったため、B社が賃貸借契約書の原本を預かり、賃料額を書き換えた賃貸借契約書のコピーをAさんに渡していました。
しかし、ここでまた疑問が出てきます。
それは、「たとえB社がAさんに賃料額を書き換えた賃貸借契約書のコピーを渡しても、B社には本当の賃貸借契約書に記載されている金額しか入ってこないのだから、その賃料をそのまま渡せば、直ぐにレントロールが嘘だったことがバレるんじゃないか。」という疑問です。
実は、B社は、入居者から受け取った本当の賃料に、足りない分の賃料を上乗せしてAさんに支払っていたのです。このため、Aさんは、B社が本当のことを白状するまで、まったくB社の嘘に気づかなかったのです。
ここまで来ると、B社は、何のためにこんなことをしたのかという疑問が湧いてきます。想像するに、恐らくB社は、Aさんにこのアパートを売ったころ、資金繰りに窮しており、どんな手段を使ってでも、とにかく1億2500万円のお金が必要だったのではないでしょうか。
B社は、Aさんから受け取った1億2500万円で一息つき、その後、他の取引で利益を上げ資金繰りを改善しようと思っていたが、その美味しい取引が見つけられないまま、再び資金繰りに窮し、Aさんへの賃料の上乗せができなくなり、ついにAさんに賃料を偽っていたことを白状したのでしょう。
B社の行為は、詐欺に当たりますので、刑事告訴することも可能です。しかし、警察が立件してくれても、Aさんが支払ったお金が返ってくるわけではありません。
また、民事上は、詐欺を理由としてこのアパートの売買契約を取り消したり、錯誤を理由として売買契約の無効を主張したりすることもできますが、取り消しや無効となれば、売買契約は無かったことになります。
この場合、Aさんは、売買代金の返還を受ける代わりに、このアパートをB社に返還しなければならなくなりますが、B社は、売買代金の返還をする資力は無いので、あまり意味がありません。
上記以外に考えられる方法は、本当の賃料を前提としてこのアパートの本当の市場価格を算定し、その金額と実際に払った1億2500万円の差額を損害として、B社に損害賠償請求をすることです。これなら金額が少ないので、もしかするとB社から回収できるかもしれません。
とにかく、最近は、不動産市場が踊り場に入ってきているので、B社のように追い詰められて酷いことをする不動産業者が増えつつあります。くれぐれも、取引に当たっては注意してください。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。