賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
売買で躓くサラリーマン大家さん~お任せで儲かる賃貸経営はない!?
この秋は、何度も強力な台風が日本列島を縦断して、大変な被害が出ています。繰り返しになりますが、謹んでお見舞い申し上げます。
さて、今日は、最近の不動産売買を巡る相談についてお話しします。
私は、賃貸経営に関する相談や事件を数多く手がけており、大家さん、特にサラリーマン大家さんの知り合いが沢山います。
私の知っているサラリーマン大家さんの多くは、大儲けはしていませんが、それなりに確実に利益を上げています。
ところが、一方で、大家業に手を出して、大損をしているサラリーマンの方も沢山います。しかも、賃貸経営そのものというよりは、賃貸経営の入口の物件購入の段階で失敗し、大きな債務を抱えてしまうというケースがよく見受けられます。今話題となっている「カボチャの馬車」の問題も、もともと常識的には成り立ち得ないスキームに乗せられて物件を購入したという意味で、物件購入の段階での失敗と言えるでしょう。
こんなことを書いたのは、最近、賃貸経営ではなく、その入口段階の売買で躓いたという相談の数が増えつつあるからです。
相談の内容は、「建築基準法に違反する物件を買わされた。」「駐車場付きのアパートが建築できる土地ということで土地を購入したが、購入後に、隣地所有者の承諾がないと駐車場の面積を確保できないと言われた。」「満室で滞納もなしということで買ったが、購入直後に滞納者が2人いることがわかった。」などなどです。
こうした相談を受ける度に思うのは、「最近、不動産売買や売買の仲介をする業に、悪質な業者が増えてきた。」ということです。中には、重要事項説明書に、虚偽の記載する業者もいます。
「カボチャの馬車」の問題も、やはり不動産を買うように勧めた側に問題があったという意味では、「悪質な業者」と本質的には同じ問題です。
なぜ、「悪質な業者」が出てくるかと言えば、金融緩和で金余りの状態の中、金融機関が不動産投資に積極的に融資をするため、業者は、不動産売買や賃貸についての知識の乏しい買い手さえ探せば、簡単に儲けることができるからです。
サラリーマン大家さんになろうとする人たちは、不動産売買や賃貸についての知識があまりありません。こういう人たちに、駄目な物件を高く売りつけることによって、儲けようとする業者がいるということです。
昔は、融資をする金融機関が、このような不動産売買に歯止めを掛けていました。金融機関は、将来的に採算が合わない賃貸経営を目的とした不動産売買や物件に問題のある不動産売買には、融資をしなかったのです。
しかし、今は、金融機関も安定して稼げる業務があまりないため、不動産投資への融資にのめり込み、融資対象となる不動産投資案件を探しているような状態になっています。
これから不動産を購入して賃貸経営を始めようという人は、不動産売買や売買の仲介をする業者の中には悪質な者が少なからずいることや融資対象となる不動産投資案件を探しているような金融機関があることを頭に入れて、自分のことは自分で守るという気持ちを持たなければなりません。そのためには、自分を守ることができる知識を持つ必要があります。
たとえば、次の質問を受けた時、どれくらい答えることができるでしょうか。
①土地の価格を調べる方法を知っていますか。
②建物の価格を調べる方法を知っていますか。
③建ぺい率、容積率、用途地域、接道義務、セットバックなど、建築基準法の最小限の知識を持っていますか。
④手付け解約、違約金、ローン条項、瑕疵担保責任など、不動産売買契約についての最小限の知識を持っていますか。
⑤賃料相場を調べる方法を知っていますか。
⑥建物の修繕費がどれくらいかかるか知っていますか。
⑦建物の修繕費以外に、賃貸経営にかかるコストにどのようなものがあるか知っていますか。
上記の質問に対する答えは、基本中の基本の知識に過ぎません。融資を受けて賃貸用物件を購入し、賃貸経営で成功するには、もっともっと沢山の知識が必要です。
最初に、「私の知っているサラリーマン大家さんの多くは、大儲けはしていませんが、それなりに確実に利益を上げています。」と書きましたが、この確実に利益を上げている大家さんたちは、本当によく勉強しています。
私の知っている大家さんのグループでは、毎月1回勉強会を開き、毎回5時間近く、投資物件の見つけ方、融資の受け方、客付けの仕方、修繕にかかる費用、何年か所有した後の売却の方法など、賃貸経営に関するあらゆることを、実際の事例を題材にして熱心に勉強しています。ここには、既に物件を購入した人 だけではなく、これから物件を購入して大家さんになりたいという人も参加しています。
賃貸経営で成功するには、これくらいの努力が必要なのです。お任せで儲かるなどということはないのです。
「購入する物件の良し悪しは、業者と金融機関が判断します。賃貸経営は、サブリース業者がやります。ですから、融資を受けて物件を買っていただければ、後は何もしなくても儲かりますよ。」などという説明をして物件を買わせようとする業者がいたら、二度と会わないことをお勧めします。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。