賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
これからの賃貸物件は、どこが狙い目?テレワークと賃貸需要の関係
このところ、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、Zoomというweb会議システムを使って依頼者と打ち合わせをすることが多くなり、「なーんだ。別に集まらなくても十分打ち合わせができるじゃないか。」と実感しています。
先日も、新幹線で行けば1時間ほどかかる地方都市にある会社の人たちと、この方法で打ち合わせをしたのですが、ソフトウエアの開発契約をめぐるトラブルというやや複雑な事件であったにもかかわらず、特に支障はありませんでした。
今までは、この会社に出かけて帰ってくる移動時間だけでも、新幹線の駅から会社までの時間を入れると3時間くらいかかっていましたが、この移動時間の3時間がまるまる浮いたので、他の仕事をすることができました。
さて、今回は、テレワークと賃貸需要の場所の関係を考えてみたいと思います。
新型コロナウイルスの感染拡大が予断を許さない状況下でも、賃貸不動産の取引はそれほど影響を受けていないようで、私の知っているサラリーマン大家さんのグループでは、安定して物件を買い続けているようです。それどころか、来年には、不動産市況が悪化し、割安な物件が出てくるので、物件の買い場になるなどと言っている人もいます。
仮に、その予想が現実化したとして、なるべく都心に近い駅近の物件を買うという今までと同じ方針で良いのかという疑問が湧いてきます。
それは、次のような理由からです。
新聞記事によると、IT企業だけでなく、大手メーカーなども、続々とテレワークを維持あるいは拡大し、オフィス面積の削減を実施したり、計画したりしているようです。
また、ある雑誌の記事には、現在は、オフィスビルの空室率は大きく上昇していないが、一般的にオフィスビルの解約は、6ヶ月前に予告する契約になっているため、この6ヶ月が経過する今年の秋口から、空室が増えていくのではないかと書かれていました。
緊急事態宣言の解除により、感染拡大の第2波が始まり(既に東京では、連日100人以上の感染確認が続いています。)、再度緊急事態宣言発出、外出自粛要請ということになれば、この流れは、どんどん加速していくのではないかと思います。
今後は、都心に大規模なオフィスを作り、そこに社員が集まって仕事をするというスタイルは、だんだんと変わっていき、都心には小規模なコアオフィスを作り、社員は、原則としてリモートワークを行い、週に何回かコアオフィスあるいは近隣のサテライトオフィスに出勤するというスタイルになっていくのではないでしょうか。
もちろん、この流れは、新型コロナウイルスの感染拡大の状況によって変わってきます。意外とあっさりワクチンができたり、有効な治療法が確立されたりして、感染拡大が収束に向かえば、喉元過ぎれば何とか、という日本人の特性から、あっという間に元のスタイルに戻ってしまうかもしれません。
ただ、有識者からは、「企業や従業員が、一度リモートワークの様々なメリットを実感してしまったら、元に戻ることはない。」とか「パンデミックは、これから繰り返し起こるので、たとえ今回のパンデミックが収束しても、企業の事業継続の観点から、リモートワークの流れは継続していく。」などという意見も聞かれます。
確かに、私自身も、冒頭で書きましたように、web会議システムを使った依頼者との打ち合わせが、交通費がかからない、時間がかからない、体力を消耗しないなどの様々なメリットがあることが分かったので、今後も、できる限りweb会議システムを使った依頼者との打ち合わせを利用したいと思っています。
また、裁判所でも、既にマイクロソフトのTeamsというソフトを使って、民事訴訟の手続きをオンラインで進める試みがスタートしており、今年度中には、すべての地方裁判所の本庁で、このシステムが導入され、2025年度には、ほぼ全ての民事訴訟手続きをオンライン化するという計画が進んでいます。
もし、この民事訴訟の手続きのオンライン化が完成すれば、web会議システムを使って依頼者と打ち合わせを行い、訴訟手続きもオンラインで行うことができるようになります。
最も遅れていると言われている裁判の世界ですら、5年後にこうしたIT化が実現するとすれば、他の業種では、さらにIT化が進化し、デスクワークに限れば、本当にどこにいても仕事ができるようになるのではないでしょうか。
そうなってくると、やはり都心には小規模なコアオフィスを作り、社員は、原則としてリモートワークを行い、時々コアオフィスあるいは近隣のサテライトオフィスに出勤するというスタイルになっていくのではないでしょうか。
こうなると、自宅はどこに作っても良くなり、海の見える場所や森林浴のできる山の中に自宅を作り、日常的にはそこでリモートワークを行い、必要な時だけ都会に出てくるという生活が実現するかもしれません。
ただ、日本では、インフラの老朽化が進み、様々なインフラの機能を現状のまま維持することが困難になりつつあるというのも耳にします。
特に、問題となっているのが、水道設備の維持です。
今ある水道設備の老朽化に対して設備の交換をするお金すら地方自治体にはなく、水道料金を値上げしないと、老朽化対策すらできないのが現実のようです。
これでは、海の見える場所や森林浴のできる山の中の自宅には、公営の水道はないという事態になるかもしれません。
結局、近い将来、一方では、リモートワークが定着して、自宅はどこに作ってもいいことから、大都市への人口集中は徐々に解消され、他方で、インフラの整備・維持にお金がかかることから、中規模の都市にインフラを維持しやすいコンパクトな街を作っていくという現象が起こっていくのではないでしょうか。
そうなると、賃貸物件の需要も、都心ではなく、中規模都市に生まれてくるのかもしれません。
サラリーマン大家さんの不動産投資は、サラリーマンをしながら、10年から20年かけて、購入資金として借り入れた融資を家賃で返していくというものですから、これから購入するという場合は、こうした将来の変化も考えて、狙い目を決めていかなければならないでしょう。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。