賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
道路の取り扱いは難しい!2項道路の使用について
今年の秋は、大家さんから、台風の被害の相談は来ていません。このまま、台風の季節が終わって欲しいと思っています。
さて、今回は道路のお話です。
相続や不動産の事件を沢山扱っていると、様々な道路の法律問題が出てきます。今扱っている事件の中にも、道路に関わる事件が3件あります。
1つ目の事件は、道路法上の道路について、道路の敷地が自分の所有地だと主張する人が道路の使用を妨害しようとしたため、その道路を管理している地方自治体と道路敷地の所有権を主張する人との間で裁判になったものです。
私は、地方自治体の代理人として、何とか道路の使用妨害を阻止しようと頑張っています。
2つ目の事件は、位置指定道路を長年隣人が庭として使用しているために、この位置指定道路にしか接道していない土地が、接道していない土地と同じ扱いになり、売値が近隣相場の5分の1以下になってしまったという事件です。
私は、この土地の相続人の依頼を受けて、この土地が接道している土地となる方法はないかと、頭をひねっています。
3つ目の事件は、私の依頼者(Aさん)が所有する賃貸マンションの入居者がマンション脇の道路にバイクを乗り入れたところ、向かいの家のおじさんが飛び出てきて、「ここは私道だから、あんたらは使えないよ。」と怒られ、マンション脇の道路の使用を禁止されたという事件です。
このマンション脇の道路は、いわゆる2項道路と言われるもので、私有地だけれども道路だというややこしいものです。
この事件は裁判となりましたが、最近和解で解決しており、マンションの入居者がマンション脇道路を通行しても、おじさんに怒られないようになりました。もっとも、バイクはエンジンを切って手で押して通行するという制限がつきました。
道路法上の道路、位置指定道路、2項道路など、色々な言葉が出てきましたが、どの一つをとっても、その説明をしていると、このコラムの1回分か2回分になってしまいます。
そこで、今回は、すでに解決している3番目の事件について、少し詳しくお話しします。
私の依頼者のAさんは、東京都内のある土地を買って賃貸マンションを建築しました。この賃貸マンションは、南側正面に区道が通っていますが、東側にも、幅員3メートルほどの道(以下、「東側脇道」といいます。)がありました。ただ、東側脇道は、道路の周りの家の所有者が共有持分をもち合う私有地で、区から2項道路の指定を受けていました。
Aさんは、建築基準法等の知識があまりなく、また、この土地の売買を仲介した不動産仲介業者も、東側脇道が2項道路であることを知りながら、その利用状況について調査をしませんでした。
このため、Aさんは、単に南に区道、東に脇道のある土地という程度の認識で、土地を買い、賃貸マンションを建築しました。
Aさんは、東側脇道を普通の道路だと思っていたので、マンションの東側の1階に、駐輪場を作ってしまいました。このため、マンションの入居者が東側脇道にバイクを乗り入れたのです。
では、この2項道路というのは、一体どういう道路なのでしょうか。
建築基準法では、都市計画区域内及び準都市計画区域内の建築物の敷地は、幅員が4メートル以上の道路に2メートル以上接道していなければならないことになっています。このため、道路に2メートル以上接道していない土地には、新たに建物を建築することができません。
建築基準法が施行されたのは昭和25年ですが、この当時は、まだ終戦後5年ですので、家が沢山立ち並んでいる場所でも、幅員4メートル以上の道路に接道していない土地は沢山ありました。
このため、建築基準法を単純に適用してしまうと、こうした土地は接道していない土地となり、その上に建っている建物は、建築基準法に違反する建物となります。しかし、これでは、こうした土地に家を建てて所有している人は困ってしまいます。
家の所有者から見れば、ある日突然、建築基準法が施行され、「あなたの家の建っている土地は、幅員4メートル以上の道路に接道していないから、あなたの家は違反建築ですよ。建て直しもできませんよ。」と言われたのでは、たまったものではありません。
そこで、救済措置として、建築基準法施行の際、またはある建物が建っている地域が都市計画区域に指定された際に、現に建物が立ち並んでいる幅員4メートル未満の道で、市町村長または都道府県知事が指定したものは、建築基準法上の道路とみなすことにしました(建築基準法42条2項)。
ただし、この救済措置により幅員4メートル未満の道が長期間残ってしまっては困るので、建築基準法は、2項道路の中心線から左右に水平距離2メートル(場所によっては3メートル)ずつ後退した線を道路の境界線とみなすことにしています。
この結果、2項道路に接道している土地上の建物を立て直すときは、この境界線から道路側は建築制限を受けますので、2項道路に接道している土地上の建物が全て建て直されると、最終的には、幅員4メートルの道路が確保されることになります。
2項道路とは何か、という説明は上記のとおりですが、多くの2項道路は、私道、つまり一般の人や法人が所有者である土地が道となっているものが多いので、外見からは道路のように見える土地でも、単なる私有地である場合と2項道路の指定を受けている場合があります。このため、ある私道が2項道路かどうかを確認する必要があるときは、市役所や区役所などの役所で調べることになります。
さて、事件の話に戻りますが、向かいの家のおじさんの「ここは私道だから、あんたらは使えないよ。」という発言は、正しいのでしょうか。
これは、なかなか難しい問題です。
最高裁判所は、2項道路の通行について、「42条2項道路を通行することによって日常生活上不可欠の利益を有するものは、当該道路の通行をその敷地の所有者によって妨害され、又は妨害されるおそれがあるときは、敷地所有者がその通行を受任することによって通行者の利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、敷地所有者に対してその妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格的利益)を有する。」と判断しています。
Aさんのマンションの賃借人が、東側脇道を通行することについて「日常生活上不可欠の利益を有するか。」と言われれば、駐輪場の利用は、現代の日常生活にとって、日常生活上不可欠の利益と言えないこともありません。
しかし、東側脇道の周囲の土地の所有者にとって、徒歩や自転車による通行は、騒音や危険度は少ないですが、バイクの乗り入れとなると、騒音や危険度は大きくなります。
また、東側脇道の入口からマンションの駐輪場までの距離は10メートル程度なので、バイクのエンジンを切って手で押すことは、それほど面倒なことではありません。
加えて、本件では、私の依頼者は、賃貸マンションを建築した時点で、東側道路が2項道路であることを簡単に知ることができ、駐輪場を南側の区道に面した側に作ることが可能でした。
こうした事情を考慮すると、道路としての使用を一定の範囲で制限されても仕方ありません。
こうした事情から、この事件の裁判官は、「通行は認めるが、夜間及び早朝は、バイクはエンジンを切って手で押して通行するという内容で和解してはどうか。」と勧めてきました。
こちらも、その程度の制限であれば、特に困らないと考え、和解に応じました。
道路の法律問題は、このように難しいので、このコラムを読まれているみなさんも、土地を買うときは、周りの道路について、仲介業者等にきちんと調べさせることをお勧めします。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。