賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
隣から越境している枝は、自分で切ってもいいですか?令和3年民法改正の豆知識①
先日、東京でもまとまった雪が降りました。
東京は、雪に弱い都市ですが、逆に都民は、東京が雪に弱いことが分かっているので、早めの対応を心掛けたようです。
当事務所も、16時には終業して、弁護士もスタッフも帰宅しました。
少し後ろめたい感じもありましたが、帰れなくなったら困るので、仕方ないと割り切りました。
さて、今回は、令和3年の民法改正と賃貸経営についてのお話です。
全国的に深刻な問題となっている所有者不明土地の解消や発生防止を目的として、令和3年に民法及び不動産登記法が改正され、相続土地国庫帰属制度が創設されました。
所有者不明土地の解消や発生防止という目的ですから、マンションやアパートの賃貸経営に直接関係するような改正ではありません。
ですから、令和2年に施行された改正民法とは異なり、大家さんたちは、令和3年の民法等の改正について、あまり神経質になる必要はありませんが、相隣関係についての改正については、知っておくと役に立つかもしれません。
相隣関係というのは、分かり易く言えば、隣り合った土地や建物の所有者相互間の関係です。
土地は、必ず別の土地と接しているわけですから、土地の所有者は、自分の土地と接している別の土地の所有者と無関係ではいられません。むしろ、さまざまな関係が生まれ、時には利害の対立が起きます。
そこで、民法は、こうした隣り合った土地や建物の所有者相互間の関係について規定を設けています。
令和3年の改正民法においては、この相隣関係に関する民法の規定について、次のような3つの改正を行いました。
① 隣地使用権
② 継続的給付を受けるための設備設置権・設備使用権
③ 越境した竹木の枝の切り取りについての見直し
実は、①の隣地使用権については、2023年10月のコラムで取り上げましたので、今回は、まず、身近な問題である、③について、概要を説明してみたいと思います。
隣の庭から自分の土地にせり出している枝の問題は、昔からよくある近隣トラブルです。
この枝を、強制的に切り取るには、改正民法前には、訴訟を起こして判決をもらう必要がありました。
しかし、今回の民法改正により、隣地所有者が越境している枝を切り取ってくれない場合は、自分で切り取ることができるようになりました。
もちろん、いきなり切り取ることはできません。
越境している枝の所有者をYとし、越境されている土地の所有者をXとすると、Xは、まずYに対して、越境している枝を切り取るよう請求しなければなりません(これを、「催告」といいます。)。そして、一定期間待っても、Yが越境している枝を切り取らないときは、Xは、自ら切り取ることができます。
また、急迫の事情があるときは、Xは、Yに対して「催告」をしなくても、越境している枝を自分で切り取ることができます。急迫の事情とは、枝を切り取らないと、事故等により、人が怪我をしたり、Xの所有建物などの財産が壊れたりする危険が差し迫っている場合です。
では、越境している枝の所有者が誰であるか分からなかったり、その所有者の所在がわからなかったりした場合は、どうでしょうか。
これが、正に所有者不明土地の問題です。
隣地の建物が長年空き家になっていたり、亡くなった隣地の所有者の相続人が不明であったりするような場合です。
このような場合は、Xとしては、「催告」をすることはできませんので、「催告」なしで、越境している枝を自分で切ることができます。
今回の改正では、隣地が共有の場合の取り扱いも、明確になりました。
たとえば、隣地が、YとZの共有である場合、YとZは、他の共有者の承諾がなくても、単独で越境している枝を切ることができます。
従って、当然のことながら、Xは、YとZのどちらかの承諾があれば、越境している枝を自分で切ることができます。
ただ、Xは、「催告」をする場合は、YとZの両方にしなければならず、どちらか一人に「催告」をしただけでは、「催告」を受けた人が越境している枝を切り取らなかったからといって、自分で枝を切り取ることはできません。
次回は、継続的給付を受けるための設備設置権・設備使用権について、お話ししたいと思います。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。