賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
居住と宿泊は違う?!転貸承諾のある物件での民泊
先月のコラムの前書きに、「このまま感染者の数が増え続けていくと、12月の仕事納めのころには、1日の感染者の数が、3,000人とか4,000人になっているかもしれません。」と書きましたが、仕事納めを待たずして、12月12日には1日の感染者数が3000人を超えてしまいました。このため、Go Toも停止になりましたが、それだけで感染拡大が収まるのかわかりません。新年は、とりあえず感染拡大が下火になった状態で迎えたいものです。
さて、今回は、判例集に掲載された民泊をめぐる裁判例をご紹介します。
この裁判例の事案は、次のようなものです(分かり易くするため、若干変更しています。)。
Aは、自分の所有するアパートの部屋2室(以下、「本件建物」といいます。)を被告に賃貸しましたが、Aと被告との賃貸借契約では、本件建物の部屋を被告の住居として使用し、それ以外の目的で使用しないこと、また、Aは被告が本件建物を転貸することを承諾することが定められていました。
ところが、被告が、本件建物を民泊として使用し、近隣の住人とトラブルを生じるようになったため、Aは、被告との間の賃貸借契約を、用法遵守義務違反等を理由として解除し、被告に対して、本件建物の明け渡しを求めました。
この事件には、いろいろな争点があったのですが、中心となる争点は、Aの転貸の承諾は、民泊としての使用を認めたものかという点でした。
本件建物を転貸するというのは、被告が、本件アパートを、被告以外の人に貸すということですから、Aが転貸を承諾していたということは、Aは、少なくとも被告以外の人が、本件建物を使用することを認めていたということになります。
では、被告が、本件アパートを被告以外の人に貸した場合、使用目的は住居に限られるのでしょうか、それとも他の目的での使用も許されるのでしょうか。
この点、A側は、もともとAと被告との賃貸借契約には、本件建物の部屋を被告の住居として使用し、それ以外の目的で使用しないということが定められているので、たとえ転貸が認められているとしても、住居としての転貸であって、他の目的での使用は認められないと主張しました。
これに対して被告側は、転貸を承諾した以上、転貸後の使用目的は、住居としての使用に限られず、民泊としての使用も許されるはずだと主張しました。
この争点には、整理すると、①本件建物を転貸する場合、転借人の使用目的は、住居に限られるのか、②住居としての使用と民泊としての使用は異なるのかという2つの問題が含まれています。
この争点についての裁判所の判断は、次のようなものでした。
まず、①本件建物を転貸する場合、転借人の使用目的は、住居に限られるのか、という点については、次のとおり転借人の使用目的は、住居に限られるとしました。
本件賃貸借契約には、転貸を可能とする内容の特約が付されているが、他方で、本件建物の使用目的は、原則として被告の住居としての使用に限られている。
これによれば、上記特約に従って本件建物を転貸した場合には、これを「被告の」住居としては使用し得ないことは文理上やむを得ないが、その場合であっても、本件賃貸借契約の文言上は、飽くまでも住居として本件建物を使用することが基本的に想定されていたものと認めるのが相当である。
次に、②住居としての使用と民泊としての使用は異なるのか、という点については、次のとおり住居としての使用と民泊としての使用は異なると判断しました。
特定の者がある程度まとまった期間にわたり使用する住居使用の場合と、1泊単位で不特定の者が入れ替わり使用する宿泊使用の場合とでは、使用者の意識等の面から見ても自ずからその使用の態様に差異が生ずることは避け難いというべきであり、(中略)転貸が可能とされていたことから直ちに民泊としての利用も可能とされていたことには繋がらない。
このように、裁判所は、①本件建物を転貸する場合、転借人の使用目的は、住居に限られるとし、また、②住居としての使用と民泊としての使用は異なると判断していますので、被告が、本件建物を民泊として使用したことは、借主の用法義務違反となります。
もっとも、これまでもこのコラムで何度かお話ししましたが、借主が賃貸借契約に違反した場合でも、そのことから直ちに貸主に契約解除権が認められるわけではなく、借主の契約違反行為により、貸主と借主との間の信頼関係が破壊される事態に至って、初めて貸主に解約解除権が認められます。
この事件で、裁判所は、次のとおり信頼関係の破壊があったとしています。
現に、Bハイツの他の住民からは苦情の声が上がっており、ゴミ出しの方法を巡ってトラブルが生じるなどしていたのであり、民泊としての利用は、本件賃貸借契約との関係では、その使用目的に反し、賃貸人であるAとの間の信頼関係を破壊する行為であったと言わざるを得ない。
本件の賃貸借契約において、Aは、本件建物を被告の住居として使用し、それ以外の目的で使用しないこととしながら、被告が本件建物を転貸することを承諾し、転貸における使用目的について、「住居に限る」と明記しませんでした。この曖昧な賃貸借契約書の記載が、本件紛争の要因といえます。
もし大家さんが転貸を認めるなら、賃借人の使用目的のみならず、転貸における使用目的も明記しておくことを忘れないようにしてください。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。