不動産売却・購入の三井住友トラスト不動産:TOP投資用不動産・事業用不動産賃貸経営の法律アドバイス連帯保証人は辛いよ~滞納家賃を全部払っても明け渡し。おまけに賃料倍払い~(2014年12月号)

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大谷郁夫

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弁護士
銀座第一法律事務所
大谷 郁夫

2014年12月号

賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。

連帯保証人は辛いよ

滞納家賃を全部払っても明け渡し。おまけに賃料倍払い

 いよいよ師走。弁護士は1年中切れ目なく忙しいのですが、12月は特に忙しくなります。
 年末になると、人は、争いごとに区切りをつけたくなります。区切りというのは、もちろん「解決」という意味もありますが、それだけではなく、それまでの話し合いから、裁判を始めるという形の区切りもあります。
 このため、年末になると「今年のうちに、話をまとめてください。」とか「今年のうちに裁判を起こしてください。」という話が多くなります。
 裁判所も、年内に和解ができそうになると、なんとか和解を成立させようと、いつもは1か月に1回しか入れない裁判期日を、1週間から2週間に1回くらいのペースで入れてきます。
 そんなこんなで、12月の弁護士は、スケジュールがパンパンになり、「早くお正月になってくれ!」と思いながら働き続けるのです。

 そんな中、とても可哀想な連帯保証人のケースがありました。

 いつもの通り、大家さんからの依頼で、家賃を滞納している借主に対して、1週間以内に滞納家賃を支払わなければ契約を解除する旨の内容証明を出しました。
 この借主は、家賃を1年近く滞納しており、さすがに大家さんも業を煮やして契約解除に踏み切ったのです。家賃を1年近く滞納するだけあって、なかなかずる賢く、内容証明を受け取りません。そこで、管理会社の人に直接行ってもらい、内容証明郵便を普通の通知の形式に直したものを渡してもらうことにしました。ずる賢いので、管理会社の人にも居留守を使うかなと思ったら、顔見知りの担当者だったために気を許したのか、借主はあっけなくこの通知を受領し、受領書にサインしました。
 その後1週間が経過しましたが、この借主から全く支払いがありませんので、賃貸借契約は解除になりました。
 そこで、直ちに借主と連帯保証人を被告として、貸している部屋の明け渡しと延滞賃料及び損害金の支払いを求める訴えを起こしました。

 ちなみに、延滞賃料と損害金とはどう違うのでしょうか。

 解除するまでは賃貸借契約は続いていますので、賃料が発生します。従って、この賃料を支払わなければ、延滞賃料となります。これに対して、契約解除後は、賃料は発生しません。解除によって契約が終了し、契約がない状態となったのですから、賃料が発生することはないのです。そのかわり、借主(正確には契約は終了しているので借主だった人)は、契約もないのに大家さんの所有する建物を使用して大家さんに損害を与えているので、損害賠償を支払わなければなりません。このため、契約解除後に、借主だった人が大家さんに支払うお金を、損害金と呼んでいます。

 では、延滞賃料と損害金の金額はいくらでしょうか。延滞賃料は、文字通り賃料ですから、契約書に定めたとおりの金額です。これに対して、損害金も、通常は賃料と同じ金額です。大家さんは、借主だった人が出ていけば、その部屋を他の人に貸すことができ、前と同じ額の賃料をとることができるのですから、通常はその金額が損害金の額ということになります。しかし、損害金の額は、契約書で特別に定めてもかまいません。よく目にするのは、「借主は、契約解除後明け渡しを完了するまでの間、賃料額の2倍の損害金を大家さんに払わなければならない。」という条項です。この条項は有効ですので、この条項があれば、解除後は賃料の2倍の損害金を請求することができるのです。

 さて、最初の話に戻りましょう。借主と連帯保証人を被告として、貸している部屋の明け渡しと延滞賃料及び損害金の支払いを求める訴えを起こしたため、連帯保証人に訴状が届きました(借主は、訴状も受け取りませんでした。とことん悪質な人です。)。
 訴状を受けとった連帯保証人から私のところに電話があり、滞納賃料を全額払うから、契約を継続してほしいという申し入れがありました。この連帯保証人は、借主の息子で、なかなか真面目そうな話しぶりでした。
 しかし、大家さんは、もうこの借主に出て行ってほしいと思っているので、連帯保証人の申し入れを了解しません。私も、同じ意見なので、連帯保証人に対して、「契約は解除になっているので、継続するのは難しい。」と伝えました。時々、契約を解除した後でも、滞納家賃を全額支払えば契約を継続できると誤解している人がいますが、解除後に滞納家賃を全額払っても、一旦成立した解除の効力は覆らないのです。
 ところが、それから数日して、この連帯保証人から滞納家賃全額が振り込まれてきました。家賃月額6万円の1年分ですから、72万円です。私は、これを知って、「偉いなあ」と思うとともに、少し気の毒になりました。それは、この連帯保証人は、72万円を支払っても責任を免れることはできず、今後も多額の支払いをしなければならないことが予想されるからです。

 まず、契約解除後の損害金は、まだ支払われていません。本件の賃貸借契約では、先ほど説明した「借主は、契約解除後明け渡しを完了するまでの間、賃料額の2倍の損害金を大家さんに払わなければならない。」という条項があります。ですから、借主が部屋を明渡すまで、毎月賃料の2倍の12万円を支払う義務を負います。この借主は、訴状も受け取らないくらいですから、判決が出ても部屋に居座るかもしれません。そうなると、明け渡しまでの期間は相当長期化し、それだけ連帯保証人が支払う損害金も多くなっていきます。
 さらに、借主が部屋に居座った場合は、強制執行により明け渡しを実現することになりますが、この強制執行費用も借主の負担ですから、借主が払わなければ連帯保証人の負担となります。今回明け渡しの対象となっている部屋は、地方の貸室なので、賃料が安いと言ってもかなりの面積があります。その分家財道具も多いでしょうから、強制執行で必要となる費用もかさみます。
 これらの支払いが、すべて連帯保証人の負担となるのです。今回の連帯保証人は、真面目な人なので、任意に支払ってくるかもしれませんが、支払わなければ、連帯保証人の財産を差し押さえることになります。これくらい連帯保証人の責任は、厳しいものなのです。

 今回の大家さんは、この連帯保証人から、借主に請求すべき金額をほぼ全額回収するでしょうから、損害ゼロとなるでしょう。このケースからも、しっかりとした連帯保証人を立ててもらうことが、大家さんにとっていかに大切か分かります。

※本コンテンツの内容は、記事掲載時点の情報に基づき作成されております。

大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士

銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/

平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。