賃貸経営に関する法律について、現在、賃貸経営を営まれている方はもちろんこれから賃貸経営を始めようとお考えの方に知っていただきたいポイントをわかりやすく解説しています。
中途解約と解除
中途解約というのは、例えば、契約期間が令和3年4月1日から令和5年3月31日までの2年間の契約普通建物賃貸借契約について、契約期間中である令和4年3月末日に契約を解約しますというものです。
一般的には、中途解約とは、大家さんと借主どちらかが、自分の都合で、相手に対して、契約を途中で辞めることを申し入れるものです。
借主に契約上の義務違反(例えば、賃料滞納や無断転貸)や法律上の義務違反があったことを理由として、大家さんが一方的に契約を終わらせる契約解除とは異なりますので、注意してください。
大家さんからの中途解約は、契約書に大家さんからの中途解約を認める条項があっても認められません。すでに説明しましたように、借地借家法上、大家さんが更新拒絶をしたくても、次の全部の条件がそろわなければ更新拒絶はできず、法定更新となってしまいます(同法26条)。
- 所定の期間内の更新拒絶の通知
- 契約期間の満了
- 遅滞なく異議の申し立てをすること
- 正当事由
このように、借地借家法は、大家さんの更新拒絶を厳しく制限して、借主を保護しています。そして、借地借家法は、こうした借主を保護する借地借家法の規定に違反し、借家人に不利な契約条項を賃貸借契約書に定めても、その条項は無効であるとしています。大家さんからの途中解約を認める条項が有効であるとすると、大家さんは、更新拒絶などしなくても、中途解約をすればいいことになり、大家さんの更新拒絶を厳しく制限した借地借家法の規定は、骨抜きになってしまいます。従って、大家さんからの中途解約を認める条項は、借主を保護する借地借家法の規定に違反し、借家人に不利な契約条項ですので、無効となります。
まず、賃貸借契約書に借主からの中途解約を認める条項がある場合は、契約自体が借主の中途解約を認めていますので、当然借主からの中途解約は認められます。
問題となるのは、賃貸借契約書に借主からの中途解約を認める条項がない場合です。
この点は、いろいろな意見があるのですが、マンション・アパート経営の慣行としては、賃貸借契約書に借主からの中途解約を認める条項がない場合でも、中途解約の申入れから2から3か月間は契約が継続するとするか、借主が2から3か月分の家賃をペナルティとして支払うかのどちらかを条件として、借主からの中途解約を認めるのが普通です。
法律的には、中途解約の申入れから2から3か月間は契約が継続するか、借主が2から3か月分の家賃をペナルティとして支払うか、どちらかを条件として、契約を合意解約したということになります。
従って、賃貸借契約書に借主からの中途解約を認める条項がない場合に、借主が、何のペナルティもなく、直ちに契約を終了するという中途解約は認められないでしょう。
もっとも、普通建物賃貸借契約の契約書には、ほとんど借主からの中途解約を認める条項が入っていますので、賃貸借契約書に借主からの中途解約を認める条項がない場合というのは、あまり問題となることはないでしょう。
上記のように、アパート・マンション経営の実務では、借主からの中途解約を認める条項がなくても、一定の条件の下で、借主からの中途解約を認めるのが普通です。
しかし、借主が一定期間必ず借りると約束したので、大家さんが借主の希望通りの建物を建築した場合や借主のために特別な設備を設置したような特殊な場合には、大家さんは、借主からの中途解約を認めないことも許されます。
この場合、仮に借主が勝手に出て行ったときは、大家さんは、借主に対して、残りの契約期間の賃料相当額を損害として請求することになります。
契約上または法律上の義務違反を理由とする契約解除とは、借主が契約や法律の規定による義務に違反した場合(例えば、賃料滞納や無断転貸)に、その義務違反を理由として大家さんが一方的に契約を終わらせることを言います。
大家さんの都合で契約を終わらせる中途解約とは異なりますので、注意してください。
一般的に、建物賃貸借契約書には、どのような場合に契約が解除できるか記載されています。たとえば国土交通省の賃貸住宅標準契約書では、次のような記載となっています(3項4項は省略)。
第10条 甲は、乙が次に掲げる義務に違反した場合において、甲が相当の期間を定めて当該義務の履行を催告したにもかかわらず、その期間内に当該義務が履行されないときは、本契約を解除することができる。
一 第4条第1項に規定する賃料支払義務
二 第5条第2項に規定する共益費支払義務
三 前条第1項後段に規定する費用負担義務
2 甲は、乙が次に掲げる義務に違反した場合において、甲が相当の期間を定めて当該義務の履行を催告したにもかかわらず、その期間内に当該義務が履行されずに当該義務違反により本契約を継続することが困難であると認められるに至ったときは、本契約を解除することができる。
一 第3条に規定する本物件の使用目的遵守義務
二 第8条各項に規定する義務(同条第3項に規定する義務のうち、別表第1第六号から第八号に掲げる行為に係るものを除く。)
三 その他本契約書に規定する乙の義務
しかし、このような記載がなくても、借主が契約上または法律上の義務に違反した場合には、大家さんは、それを理由として当然契約を解除できます。
ただし、契約上または法律上の義務違反があれば、直ちに契約を解除できるというわけではありません。
【Q 賃貸借契約書の目的には住居専用と記載されているのですが、借主が貸室内でインターネット通販の会社を始め、入口の表札や郵便受けに会社名を表示しています。契約違反を理由に契約を解除できますか。】 で説明しているように、裁判所は、建物賃貸借契約の借主の契約上または法律上の義務違反を理由とする契約の解除について、その義務違反が賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない特段の事情がある場合には、解除を認めないという考え方(いわゆる信頼関係理論)をとっています。
このため、義務違反があった場合でも、その程度によっては、契約解除が認められないことがあります。
一番分かり易い賃料の例で言うと、一般的に、裁判所は、1カ月分から2カ月分程度の賃料の滞納では契約の解除を認めておらず、3カ月分の賃料の滞納があれば、契約の解除を認めています。もちろん、これは、賃料の滞納以外に契約上の義務違反がない場合であり、他の契約上の義務違反があれば、賃料の滞納が1カ月分から2カ月分でも契約の解除を認めることがあります。
建物賃貸借契約に限らず、契約上の義務や法律上の義務違反を理由とする契約の解除は、民法上、次のような手続きをとらなければなりません。
- 一定の猶予期間を定めた義務の履行の催促
- 一定の猶予期間の経過
- 契約解除の意思表示
上記の1.を「催告」といい、催告の際に定める一定の猶予期間を「催告期間」といいます。催告期間は、常識的な長さが必要です。どの程度が常識的な長さかは、どのような契約のどのような義務に違反しているかによって決まります。
そこで、建物賃貸借契約を借主の契約上の義務違反を理由として解除する場合も、まず、催告期間を定めて義務の履行を催告しなければなりません。
例えば、賃料の滞納の場合は、大家さんは、借主に対して、1週間程度の催告期間を定めて、催告期間内に滞納している賃料を支払うように催告します。そして、催告期間内に滞納している賃料の支払いがなかった場合には、大家さんは、借主に対して、契約を解除する旨の意思表示をします。
実務では、催告期間を定めて催告する書面を出したこと、その書面が借主に届いたこと、届いた日を立証するために、内容証明郵便を使って催告しています。届いた日を立証する必要があるのは、通常、催告期間は、催告の書面が届いた日から起算するからです(たとえば、催告書面が届いた日から1週間以内とします。)
また、解除の意思表示も、借主に届かなければ効力がありませんので、借主に届いたことを立証するために、内容証明郵便を使用しています。
もっとも、催告と解除の意思表示の両方で内容証明郵便を出すのは面倒ですし、費用もかかります。そこで、実務では、催告の書面の中で、催告期間内に義務が履行されない場合は、改めて解除の意思表示をすることなく、契約を解除することを記載しています。
上記のように、建物賃貸借契約を借主の契約上の義務違反を理由に解除するには、大家さんは、借主に対して、催告期間を定めて義務の履行を催告した上、催告期間の経過を待たなければなりません。
しかし、借主の義務違反の程度があまりにもひどく、貸主に対する信頼関係が回復不可能なほど破壊された場合には、もはや催告自体必要がなく、催告なしに直ちに解除することができます。これを、無催告解除と呼んでいます。
たとえば、借主が、借りている建物が自分の物であると主張し、何年もの賃料を支払わなかったような場合には、無催告解除が認められるでしょう。
それでは、建物賃貸借契約書に、賃料の滞納があったら、催告なしに解除できる旨の条項を入れた場合には、このような条項は有効でしょうか。
このような条項の有効性については、裁判所の判断もわかれており、無条件で有効とは言いきれませんので、このような条項がある場合でも、念のため催告をしてから解除した方がいいでしょう。
【Q 賃貸借契約書の目的には住居専用と記載されているのですが、借主が貸室内でインターネット通販の会社を始め、入口の表札や郵便受けに会社名を表示しています。契約違反を理由に契約を解除できますか。】で説明しているように、裁判所は、建物賃貸借契約の借主の契約上の義務違反を理由とする契約の解除について、その義務違反が賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない特段の事情がある場合には、解除を認めないという考え方(いわゆる信頼関係理論)をとっています。
このため、借主に契約上または法律上の義務違反があった場合でも、その程度によっては、契約解除が認められないことがあります。
賃料の滞納の場合、一般的に、裁判所は、1カ月分から2カ月分程度の賃料の滞納では契約の解除を認めておらず、3カ月分の賃料の滞納があれば、信頼関係の破壊があったものとして、契約の解除を認めています。
もちろん、これは、賃料の滞納以外に契約上または法律上の義務違反がない場合であり、他の契約上の義務違反があれば、賃料の滞納が1カ月分から2カ月分でも、信頼関係の破壊を認めることもあります。
このように、裁判所は、一般的に3カ月分の賃料の滞納がある場合に、信頼関係の破壊を認めていますので、賃貸借契約書に、1カ月でも家賃を滞納したら契約を解除できるという条項を入れたとしても、そのまま効力を認められることはないと思われます。
建物賃貸借契約は、大家さんが建物を借主に使用・収益させ、これに対して借主が大家さんに賃料を支払うことを約束する契約です。
借主は、建物を使用・収益する対価として、大家さんに賃料を支払う義務を負いますが、積極的に建物を使用・収益する義務はありません。従って、借主が長期間不在であっても、それ自体としては、契約上の義務に違反していませんので、原則として契約を解除することはできません。
例外的に、集合店舗などの場合、その一部が長期間営業をしないことは、集合店舗全体の営業に悪い影響を与えることがあります。このような場合には、長期間使用しないことが、契約解除の理由になることがあります。
借主が、大家さんに連絡もせず、長期間不在になると、建物の管理上もセキュリティ上も、問題が生じます。最も典型的な例は、孤独死などの心配から、大家さんが建物内の確認を迫られるという事態です。
そこで、建物賃貸借契約において、長期間建物を不在にするときは、事前に大家さんに通知することを定めることがあります。
国土交通省の標準契約書においても、1カ月以上建物を留守にするときは、大家さんに通知しなければならないことが定められています。
このような定めがある場合に、これを無視して、何度も大家さんに無断で長期間建物を不在にした場合には、契約解除の理由となる可能性はあります。
もっとも、それによって大家さんにどのような不利益があったかという点も考慮して、大家さんとの信頼関係を破壊したと認められるかどうかを判断することになります。
最近は、不況のために借主が夜逃げをしてしまうということがあり、よく大家さんから、「借主が長い間行方不明で、部屋も使われていないから、中に入って片づけてもいいですか。」という相談を受けます。
「そんなの勝手にいなくなったのだから、すぐに家財道具を搬出して、別の人に貸してしまえばいい。」などと、乱暴なことを言う人もいます。
しかし、このようなことをすると、勝手に建物に入って家財道具を搬出したことを理由として、損害賠償を請求されるおそれがあります。もちろん、借主は行方不明ですから家賃は払っていないのですが、だからと言って、勝手に建物に入って家財道具を搬出したことは許されません。
借主が行方不明となった場合であっても、裁判所の手続きを利用することによって、契約を解除して明渡しを求めることができます。
まず、裁判所に、貸している部屋を明け渡すことを求める訴訟を起こします。この訴状の中で、未払い賃料の催促と解除の意思表示をします。
この訴状は、被告である借主の所在が分からないので、借主に送ることができませんが、法律上、借主の所在が分からないときは、訴状を裁判所の掲示板に掲示し、それから2週間が経過したら、訴状が被告に届いたことにするという制度があります。これを、公示送達手続といいます。
この結果、公示送達手続を利用すれば、行方不明の借主に対して、未払い賃料の催促、契約の解除、明渡し訴訟の提起を、1通の訴状で行うことができるのです。
もっとも、公示送達手続きを利用するためには、借主が部屋にいないことを確認して報告書を作成し、裁判所に提出しなければなりません。
このように公示送達手続を利用すれば、行方不明となっている借主を被告として明渡し訴訟を開始することができます。
訴状は、現実には借主に届いていませんので、当然借主は裁判期日には現れません。
被告が、裁判期日に書類も出さずに欠席すれば、直ちに被告敗訴の判決が下されます。つまり、借主に対して、部屋を明渡せという判決が下されるのです。
この判決も、裁判所の掲示板に掲示され、2週間経過すると被告である借主に届いたことになります。
判決が届いてから2週間は、被告である借主は、判決を不服として控訴する権利があります。もし、借主が控訴すると、判決は未確定の状態になり、判決によって強制執行をしたりすることはできません。
しかし、この場合も、実際には被告である借主に判決は届いていませんので、控訴などするはずはありません。
この結果、裁判所に判決が掲示されてから4週間後には、借主に対して部屋を明け渡すことを命じる判決が確定するのです。
判決が確定すれば、この判決を使って部屋の明渡しの強制執行をすることができます。強制執行は、借主が部屋に居ても居なくても、行うことができます。
破産というのは、裁判所で破産手続きを開始する決定があったことをいいます。
借主に破産手続き開始決定があっても、それを理由として賃貸借契約を解除することはできません。
かつては、借主が破産した場合、大家さんは賃貸借契約の解約申し入れができ、これによって賃貸借契約は終了するという規定が民法にありましたが、平成16年にこの規定は廃止されました。
従って、借主に破産手続き開始決定があっても、賃料の滞納等の契約上あるいは法律上の義務違反がない限り、大家さんの側から契約を解除する法的な根拠はありません。
では、賃貸借契約書に、借主に破産手続き開始決定があったら、大家さんは契約を解除することができると定めてあったらどうでしょうか。
しかし、裁判所は、借主の契約上または法律上の義務違反が賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない特段の事情がある場合には、解除を認めないという考え方(いわゆる信頼関係理論)をとっていますので、上記のような定めがあっても、賃料の滞納などの事情がなければ、解除を認めないでしょう。
破産手続き開始決定があると、裁判所は破産管財人を選びます。破産管財人は、破産者の財産をお金に換え、債権者に平等に配当する手続を行いますが、その過程で、破産者の契約関係を整理します。
このため、破産管財人には、建物の賃貸借契約について継続するか解約するか決める権限があります。
従って、破産管財人は、賃貸借契約を継続するか解約するか決定し、大家さんに連絡をします。大家さんは、この破産管財人の決定に従わざるを得ません。
もっとも、借主に破産手続き開始決定があっても、裁判所が破産管財人を選任しない場合があります。
破産者に目ぼしい財産がなければ、破産者の財産をお金に変えるという手続き自体ができませんので、破産管財人も必要ありません。このような場合は、破産管財人を選ばずに、破産の手続きは、破産開始決定と同時に終わってしまいます。これを同時廃止と呼んでいます。消費者金融やカード会社から借り入れをして破産をした多重債務者のような場合、この同時廃止になることがほとんどです。
この同時廃止の場合には、破産管財人は選任されませんので、破産管財人が賃貸借契約を継続するか解約するか決定し、大家さんに連絡をすることもありません。結局、建物の賃貸借契約は、そのまま継続することになります。