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賃貸経営の法律Q&A

賃貸経営の法律Q&A

賃貸経営の法律
Q&A

弁護士
銀座第一法律事務所
大谷 郁夫

賃貸経営に関する法律について、現在、賃貸経営を営まれている方はもちろんこれから賃貸経営を始めようとお考えの方に知っていただきたいポイントをわかりやすく解説しています。

賃貸経営に関する法律をQ&A形式で解説しています。

その他

Q
アパート建築用地を購入しようと考えていますが、購入の候補に挙がっている土地で水道を使えるようにするには、他人の土地に水道の引込み管を設置する必要があります。このようなことは認められるのでしょうか。
A

 令和3年の民法改正前の民法には、設問のような場合について、直接定めている規定はありませんでしたが、令和3年の民法改正では、次のような規定をおきました。

(継続的給付を受けるための設備の設置権等)
第230条の2
 土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付(以下この項及び次条第一項において「継続的給付」という。)を受けることができないときは、継続的給付を受けるため必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができる。
2 前項の場合には、設備の設置又は使用の場所及び方法は、他の土地又は他人が所有する設備(次項において「他の土地等」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
3 第一項の規定により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用する者は、あらかじめ、その目的、場所及び方法を他の土地等の所有者及び他の土地を現に使用している者に通知しなければならない。
4 第一項の規定による権利を有する者は、同項の規定により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用するために当該他の土地又は当該他人が所有する設備がある土地を使用することができる。この場合においては、第二百九条第一項ただし書及び第二項から第四項までの規定を準用する。
5 第一項の規定により他の土地に設備を設置する者は、その土地の損害(前項において準用する第二百九条第四項に規定する損害を除く。)に対して償金を支払わなければならない。ただし、一年ごとにその償金を支払うことができる。
6 第一項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その設備の使用を開始するために生じた損害に対して償金を支払わなければならない。
7 第一項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、その設置、改築、修繕及び維持に要する費用を負担しなければならない。

 長い条文なので、細かく分けて説明していきます。
 まず、第1項は、例えば、Xが甲土地を購入したが、Y所有の乙土地に水道の引込み管を設置しなければ、水道の本管に繋げることができないという場合(図参照)に、Xが乙土地に水道の引込み管を設置できる(施設設置権)、あるいは乙土地に設置されているB所有の施設を利用できる(施設利用権)ことを定めています。
 この第1項は、「電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付」と書いてありますので、電気、ガス又は水道水の供給に限らず、それ以外の継続的給付にも適用されます。その例として、よくあげられているのは、電話・インターネット等の電気通信設備です。
 また、第1項では、「他の土地」と書いてあり、「隣地」とは書いてありませんので、使用できる土地は、隣地に限りません。ただし、甲土地と乙土地が、もともと一筆の土地であり、共有物分割や土地の一部譲渡による分筆によって、甲土地と乙土地に分かれたような場合は、Xは、乙土地についてのみ設備設置権が認められ、丙土地については、設備設置権は認められません。
 第2項は、Xは、Yの所有地や施設を使わせてもらうのですから、自分の希望どおりに乙土地に水道管を設置したり、乙土地内の施設を利用したりできるわけではなく、あくまで、乙土地や乙土地に設置された施設にとって、もっても損害が少ないものを選ぶ必要があります。
 第3項は、Xが、乙土地に水道管を設置しようとするときは、あらかじめ、その目的、場所及び方法を、Yに通知しなければならないことを定めています。もし、Zが乙土地をYから借りて使用している場合には、Xは、Zに同様の通知をしなければなりません。
 第4項は、Xが乙土地に水道管を設置したり、乙土地内の施設を使用したりするには、Xが乙土地に入って工事をすることが必要になりますので、Xが乙土地を作業のために使用することを認めています。この場合、Xは、隣地使用権に関する規定に従い、事前に、使用する目的、日時、場所及び方法をYに通知しなければなりません。
 第5項から第7項は、XがYやZに支払う償金についての規定です。
 まず、XがYの乙土地に引込み管を設置する場合は、工事のために一時的に乙土地を使用し、さらに、将来に渡って乙土地を使用することになります。この場合、Xは、工事の際の一時的なYの損害(Yが乙土地を駐車場として使用している場合に、工事の期間中、Yが他に駐車場を借りたときの駐車料など)と将来的な土地使用料を支払う必要があります。
 また、Xが乙土地にあるYの設備を利用する場合は、XがY設備を利用できるように改修し、さらに、将来に渡ってYの設備を使用することになります。この場合、Xは、工事の際の一時的なYの損害(Yの配管が工事中に使用できなくなった場合にYが他から水を購入したときの代金など)とYの設備の設置、改築、修繕及び維持に要する費用を、利用の程度に応じて負担しなければなりません。
 なお、将来の土地使用料や将来の設備に要する費用は、1年ごとに払うことが認められています。
 以上のように、Xが甲土地を購入したが、Y所有の乙土地に水道の引込み管を設置しなければ、水道の本管に繋げることができないという場合に、Xは、乙土地に水道の引込み管を設置する権利があります。
 しかし、Xが、Yに対して、民法の定める内容の通知をした場合に、Yが拒否したとき、あるいは回答しないときは、Xは、設置工事を強行するべきではありません。
 Xが設置工事を強行すると、Yの対応次第では、大きなトラブルになりかねませんし、また、法律上認められている権利であっても、法的な手続きを取らずに実力で権利を実現すれこと(自力救済)は認められていませんので、Xが設置工事を強行すると、Yに対して損害賠償責任を負うことになるおそれもあります。
 このような場合は、Yを被告として、乙土地での工事を妨害しないように求める裁判を起こし、判決で設置工事を妨害しないように命じてもらうという方法をとるべきです。