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相変わらず、やってるなぁ~サブリース契約によるアパート建設の営業
先日、あるユーチューブ番組を見ていたところ、東京都内では、毎年かなりの数の賃貸物件の空き家が発生しているにもかかわらず、賃貸マンションや賃貸アパートの新規建設数があまり減少していないそうです。
このユーチューブ番組では、東京都内の賃貸マンションや賃貸アパートの新規建設数があまり減少しないのは、アパートやマンションの建設業者が、相続税対策などの名目で、土地所有者にアパートやマンションを建設させているからだと話していました。
この話が本当かどうかは分かりませんが、今回コラムで取り上げる話題は、このユーチューブ番組の話が本当なのかもしれないと思わせるようなものでした。
先日、Aさんから、こんな相談がありました。
Aさんは、都内に70坪ほどの更地を所有していますが、あるハウスメーカーから、サブリース契約でアパートを建てませんかという提案を受けたそうです。
Aさんは、賃貸経営などしたことがなかったのですが、更地にアパートを建てると、更地の固定資産税及び都市計画税が減額されることや借入をしてアパートを建てれば、相続税対策にもなることなどから、この提案を検討することにしました。
当然のことながら、まず、ハウスメーカーからAさんに対して、建設計画と資金計画が提示されました。
ハウスメーカーの営業マンの話では、提示した建設計画や資金計画は、あくまで仮の建設計画と資金計画なので、契約後でもAさんの希望による変更が可能であるということでした。
先ほどお話ししましたように、Aさんには、賃貸経営の経験は無く、当然知識もありませんでしたので、ハウスメーカーの提案を鵜呑みにしてしまいました。
また、契約後でも、Aさんの希望による計画変更は可能であるということだったので、Aさんは、ハウスメーカーの営業マンに言われるがまま、アパートの建設請負契約に判子を押してしまいました。
アパートの建設請負契約締結後、ハウスメーカーは、Aさんの希望により建物の設計等の変更に応じましたが、Aさんが何度催促しても、設計変更後の見積書や新しい資金計画書を提示してくれませんでした。
業を煮やしたAさんが、ハウスメーカーに対して解約も辞さないと申入れたところ、ハウスメーカーは、慌てて設計変更後の見積書や新しい資金計画書を提示してきたそうです。
しかし、Aさんは、もうハウスメーカーを信用できなくなり、このまま契約どおり建物を建設すべきかどうか迷ってしまい、私の事務所に相談に来たのです。
私は、Aさんからの資金計画書を見て、「相変わらず、やってるなぁ~」と思いました。
数年前に、ハウスメーカーの提案を受けてサブリース契約でアパートを建てて失敗したとうい相談がたくさん来た時期があり、そのときにハウスメーカーのやり方を批判したコラムを書いたと思いますが、今回のハウスメーカーも、相変わらず同じようなことをしていました。
Aさんから見せられたハウスメーカーの資金計画書は、ざっと見ただけでも、次のような疑問点がありました。
1 想定賃料の根拠が、何も示されていませんでした。
ハウスメーカーは、不動産業者ではないのですが、想定賃料をもとに資金計画を立てる以上、賃料の近隣相場くらいは調べる必要があるでしょう。
2 建築予定の建物は、軽量鉄骨造のアパートですが、想定賃料は、20年後も5%程度しか下がらない想定でした。
この点について、ハウスメーカーからは、サブリースだからと説明されそうですが、サブリース契約書を見なければ、サブリース契約が20年間継続されるかどうか不明です。
サブリース契約では、何年かに一度、賃料の見直しがあり、賃料について大家と合意できなければ、借主は賃貸借契約を解除できるようになっているのが一般的です。
従って、サブリースが継続するという保証はないと考えた方が良いでしょう。
3 20年間、空室は0という想定でした。
この点も、サブリースだからという説明になると思いますが、上記のとおりサブリースが20年間継続する保証はありません。
ちなみに、サブリースが終了した場合、Aさんが自分でアパートを管理しない限り、アパートの管理を業者に依頼することになりますが、この費用は、一般的に賃料の3%から5%となります。
4 変動金利による借入金を建設資金に充てることになっていましたが、金利は20年間同額で計算されていました。
日銀が、金利を上げ始めているのに、今後、ずっと金利が同じであるはずはありません。
5 固定資産税及び都市計画税が、20年間同額で計算されていました。
東京都の公示地価は、ここ10年ずっと上昇しています。
23区の地価に関して言えば、リーマンショックのような経済事象、災害、戦争などがない限り、少しずつ上昇していくでしょう。これに伴って、固定資産税及び都市計画税も、少しずつ上昇していくはずであり、20年後も同じ金額であるという想定は、甘すぎます。
6 賃貸業による所得についての所得税や事業税の発生、さらに都区民税の増額については、何も書かれていませんでした。
Aさんが、賃貸収入でこれらの支出を賄えないと、預金を取り崩して支払うことになります。
7 最後に、この点が、最も問題ですが、建物修繕費はオーナー負担であるにもかかわらず、1年間に20万円しか計上されていませんでした。
新築建物の場合、最初の5年間くらいは、ほとんど修繕費はかからないかもしれません。それでも、退去者が出れば、退去後の部屋の修繕が必要になる場合があります。
これに対しては、敷金を充てれば良いと説明されたようですが、借主の責めに帰すべき事由のない貸室の汚損の原状回復費用は、敷金から差し引くことはできませんので、敷金で修繕費の全てを賄うことはできません。
また、建築から10年以上経過した場合、給湯器などのさまざまな設備が寿命を迎えますので、これらを交換しなければなりません。エアコンなどの寿命は、もっと短いでしょう。お風呂なども、10年以上使用していれば、取り替える必要があります。
ハウスメーカーの想定どおり、ずっと最初の賃料額を維持していこうとすれば、それこそ10年ごとにフルリフォームをしなければなりませんが、その費用は、現在の相場でも、20平方メートルの部屋で150万円から200万円はかかります。
仮に毎年、予定していた修繕費20万円を積み立てたとしても、10年間に200万円にしかなりません。
Aさんの建築予定のアパートは、20平米の部屋が6部屋ありますが、200万円では、1部屋しかフルリフォームできません。
まあ、ざっとこんな感じですので、杜撰な計画としか言い様がありません。
Aさんとハウスメーカーが交わした建築請負契約には、違約金条項がなく、また、発注者は、それまで受注者に発生した費用を払えば、中途解約できる条項がありましたので、「今なら、設計費用等を取られるだけですから、中途解約をした方がいいかもしれません。」とお答えしました。
ハウスメーカーから、サブリース契約によるアパート建設の提案を受けたときは、少なくとも上記の7点について、よく確認する必要があると思います。
できれば、税理士や会計士のアドバイスを受けた方が良いでしょう。
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大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。