賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
民法改正は、正しく伝わっているか?~第1回 オーナーチェンジがあった場合の法律関係は?
新型コロナウィルスの感染者も減少傾向になり、もしかすると来週には、東京の1日の感染者が100人を切る日が出てくるかもしれません。
飲食業の方には申し訳ありませんが、もうひと踏ん張りして、第4波の襲来時期を、一般の人にワクチンの接種が始まるころまで先送りできないかと思っています。
さて、今回は、昨年4月1日に施行された改正民法と賃貸経営についてのお話です。
改正民法については、このコラムでも何回か取り上げました。しかし、改正民法が施行されて1年近く経過した現在でも、改正民法について正確に理解していない大家さんが見受けられます。
たとえば、民法改正で、「敷金は必ず全額返還しなければならなくなったんですよね?」とか「2年前に入居した借主の連帯保証人には、契約書に極度額の記載がないから請求できないのでは?」など、大家さんから、不正確な理解に基づく質問を受けることがよくあります。
そこで、今回から8回に渡って、もう一度、賃貸経営に関連する民法の改正部分について、しっかりとおさらいし、実務的な対策についてお話しします。
全8回の具体的なスケジュールは、次のとおりです。
第1回 オーナーチェンジがあった場合の法律関係は?
第2回 災害等で物件の一部が使用できなくなった場合、賃料はどうなる?
第3回 敷金の取り扱いや原状回復義務のルールは変わったの?
第4回 自動的にサブリースとなってしまう場合に注意!
第5回 連帯保証人の責任の限度(極度額)に注意!
第6回 賃貸借期間中でも連帯保証人が責任を負う額が確定してしまうことがある?!
第7回 事務所や飲食店として建物を貸す場合には、ひと手間必要!
第8回 賃貸人は、保証人に説明義務がある!
今回は、オーナーチェンジの際の法律関係についてです。
改正民法では、賃貸建物のオーナーチェンジの場合、売主(旧所有者)と既に入居している借主の間の建物賃貸借契約は、借主の承諾が無くても、当然に買主(新所有者)に引き継がれますが、買主(新所有者)が借主に対して賃貸人であることを主張するには、建物の所有権移転登記を完了していることが必要となります。
この取り扱いは、これまでの裁判所の判例及び実務と同じであり、今回の改正により、これまでの判例及び実務の取り扱いが明文化されたものにすぎません。
ただし、改正民法では、オーナーチェンジがあった場合、敷金返還義務は、買主(新所有者)が引き継ぐことになるので、注意が必要です。
もっとも、この規定は任意規定(契約当事者が、合意によって法律と異なる取り決めをしてもよい規定)ですから、売主と買主の合意で変更することも可能です。
具体例で考えてみましょう。
Aが、マンションの一室を所有し、この部屋には、Bが借主として入居しているとします。
Aは、このマンションをCに売却し、Cは所有権移転登記を完了しました。
この場合、Cは、Bの承諾が無くても、当然にAとBの間の賃貸借契約を承継し、Bに対して、賃貸人であることを主張することができます。
なお、Cは、Aから敷金返還義務も引き継ぎますので、Cは、将来Bがこの部屋から退去するときには、敷金の清算をしなければなりません。たとえば、AがBから敷金20万円を預かっているときは、将来Bがこの部屋から退去するときに、Cは、敷金20万円からBの債務(原状回復費用や未払賃料など)を差し引いて、残額をBに返還しなければなりません。
ただし、AとCの合意で、建物の売買時に清算してしまうこともできます。たとえば、AとCの売買の時点でBに滞納賃料があるときは、Cは敷金から滞納家賃を差し引いた残額をAから引き継ぎ、将来Bが退去するときには、Aから引き継いだ額だけをBに返還することもできます。
このように、オーナーチェンジの際に、特に借主の承諾なしに賃貸借契約が承継されることや売買に当たって敷金額が新オーナーに承継されることは、今までの取り扱いと変わっていませんし、既に物件をお持ちのオーナーさんには、経験済みの方も多いと思います。
従って、この改正民法の規定について、特に実務的な対策は必要ないでしょう。
次回は、賃貸物件の一部滅失と賃料の減額についての改正です。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。