賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
120年ぶりの民法改正間近No.2
原状回復義務について、民法改正案と実務への影響!
前回は、敷金についての民法改正案の内容と実務への影響を説明しました。
今回は、引き続き原状回復義務についての民法改正案と実務への影響を説明します。
原状回復義務についても、現行の借地借家法や民法には、「借主は、借用物を原状に復して、これに附属させた物を収去することができる。」という条文(民法第598条、第616条)があるだけです。このため、原状回復義務の実務は、個々の契約条項と裁判例によって作られてきました。
概要を説明すると、次のようになります。
原状回復義務とは、借主が、契約終了後に、借りた部屋を借りた時の状態に戻して、大家さんに返還する義務です。
もう少し具体的に言うと、建物の借主は、契約が終了すると、貸室内の自分の所有物一切を撤去して、貸室を空っぽにするとともに、自分のミスで壊したり汚したりした部分について、修理して元に戻して大家さんに返還する義務があるのです。
しかし、借主は、借主が普通に使うことによって壊れたり汚れたりした部分(通常損耗)や時間の経過によって自然に古くなって壊れたり汚れたりした部分(経年変化)を元に戻す義務はありません。
従って、借主の原状回復義務の範囲は、原則として借主のミスで壊れたり汚れたりした部分を元に戻すところまでということになります。
上記が原則ですが、最高裁判所は、通常損耗や経年変化によって壊れたり汚れたりした部分の補修費を借主に負担させる特約を有効と認めていますので、たとえば、「畳表の取替費用(1畳3000円)は借主の負担とするという特約は有効です。
ポイントは、次の3点です。
(1)借主は、契約終了後に、借りた部屋を借りた時の状態に戻して、大家さんに返還しなければならない。
(2)借主の原状回復義務の範囲は、借主のミスで壊れたり汚れたりした部分を元に戻すところまでである。
(3)借主は、通常損耗や経年変化を元に戻す義務は負わない。
(4)通常損耗や経年変化によって壊れたり汚れたりした部分の補修費を借主に負担させる特約は有効である。
では、改正案の内容はどうなっているでしょうか。
「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」
この改正案要綱では、
(1)まず、「賃借人は、・・・・賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。」とし、借主の原状回復義務を明確に定めています。
(2)次に、「その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」とし、「賃借人の責めに帰することができない事由によるもの」、すなわち借主や同居者のミスによるものではない損傷については、借主に原状回復義務はないとしています。
(3)さらに、「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。」とし、借主は、通常損耗や経年変化について原状回復義務を負わないことが定められています。
(4)しかし、これらの規定は、当事者の合意によって変更することが禁止されていません。
従って、通常損耗や経年変化によって壊れたり汚れたりした部分の補修費を借主に負担させる特約は有効です。
このように、原状回復義務についても、改正規定は、単にいままでの実務を明文化したにすぎません。
結局、改正民法が施行されても、敷金と原状回復義務については、「入居者に有利になる。」とか「トラブルが少なくなる。」ということはないようです。
もっとも、今回の民法改正では、借主が大家さんの了解なしに建物を修繕することができる権利を認める規定や、建物が壊れて使用できない部分がある場合に、その部分の賃料を当然に減額されるとする規定など、賃貸経営の実務に影響のある改正があります。
この実務に影響のある改正については、国会で民法改正が成立したときに、改めてご説明しようと思います。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。