賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
民泊と分譲マンション~あなたのマンションに民泊が出現したらどうする!?~その1
10月に入り、雨の日が続いています。今日は久しぶりにゴルフに行く予定でしたが、雨のために中止となり、この原稿を書いています。
さて、今回は、民泊の話をしたいと思います。
皆さんもご存じのとおり、民泊への関心は高まっており、大家さんの中にも、民泊を企画している人が沢山いて、民泊起業に関連した相談を受けることがあります。
しかし、民泊を警戒するマンションのオーナーさんからの相談も来ています。よくある相談は、「自分が購入したマンションの中の他の住戸が民泊を始めようとしたら、どう対処すべきか。」という相談です。
まず、民泊とは何でしょうか。
厚生労働省の「民泊サービスの在り方に関する検討会」では、『「民泊サービス」とは住宅(戸建住宅、共同住宅等)の全部又は一部を活用して、宿泊サービスを提供するもの』と定義しています。
簡単に言えば、一般の住宅で、お金をもらって人を宿泊させるサービスを提供することということなります。
本来このような宿泊サービスを提供する場合には、旅館業法という法律に定められた許可が必要であり、許可を受けないで宿泊サービスを提供すると、処罰の対象となります。
しかし、国家戦略特別区域法では、国家戦略特別区域(以下、「特区」といいます。)では、一定の条件を満たして都道府県知事(保健所を設置する市又は特別区にあっては、市長又は区長)の認定を受けた事業者は、旅館業法に定める許可を受けなくても宿泊サービスを提供できることになっています。
ですから、この認定を受ければ、旅館業法の許可がなくても、一般の住宅でお金をもらって宿泊サービスを提供することが可能なのです。もっとも、都道府県知事等は、上記の認定の条件や手続きを定めた条例(いわゆる「民泊条例」)を制定しなければなりませんので、特区の中でこの民泊条例が制定されている地域でしか民泊を開業できません(このコラムは、民泊の説明ではないので、これ以上詳しい民泊の説明は割愛します。)。
現在、民泊条例が制定されているのは、私が調べた限り、東京都大田区と大阪府大阪市です。東京都大田区には、既に認定を受けた民泊施設が存在しています。
大阪府や大田区のように民泊施設について旅館業法の適用除外を認定している地域を除き、旅館業の許可を得ていない民泊施設は、旅館業法違反の民泊と考えられます。
従って、もし、自分の購入したマンションの他の住戸にこのような潜りの民泊がある場合は、行政庁や警察に通報することによって排除していくことになります。現実に、東京や京都では、旅館業法の許可を得ずに宿泊サービスを提供した者が逮捕されています。
では、あなたの購入したマンションの他の住戸の所有者が、適法に認定を受けようとしている場合、どう対処すればいいでしょうか。
たとえば、Aマンションの201号室の所有者Xが認定を受けて民泊を開業しようとした場合、民泊の開業を阻止したい他の住戸の所有者はどうすればいいでしょうか。
大田区の条例及び規則を見ると、次のようなことが書いてあります。
(条例)
第4条
法第 13 条第1項に規定する特定認定(以下「特定認定」という。)を受けようとする者は、規則で定めるところにより、あらかじめ当該特定認定に係る事業計画の内容について近隣住民に周知しなければならない。
(規則)
第9条
条例第4条に規定する当該特定認定に係る事業計画の内容を周知する近隣住民とは、次に掲げる者とする。
(1)当該特定認定を受けようとする事業で使用する施設の存する建物に他の施設が存する場合の当該他の施設の使用者
この条例と規則によると、大田区では、認定を受けようとする事業者は、予め同じマンションの他の住戸の住民に対し、認定を受けようとする事業計画を周知しなければなりませんので、マンションの他の住人が知らない間に、事業者が認定を受け、民泊を始めるということはありません。
今後、特区内の他の自治体が民泊条例を制定する場合も、同じような事前周知の条項は定められるでしょう。
それでは、Xの事業計画を事前に知った他の住戸の所有者には、Xの民泊開業を阻止する方法はあるのでしょうか。
一般的には、まず、Aマンションの管理組合の決議に基づいて、理事長からXに対して、201号室を民泊として使用しないように請求することが考えられます。
ただ、このような請求をするには、何らかの法的根拠が必要です。Xは、自分の所有するマンションの住戸を、法律の定める手続きに従って民泊として使用しようとしているだけですから、他の住戸の所有者が、このXの行動を止めようとするならば、止めさせる法的根拠が必要となります。
その根拠として、まず考えられるのが、管理規約違反です。
マンションの標準的な管理規約には、「専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に使用してはならない。」と規定されています。
そこで、管理組合としては、この規定を根拠に、Xが自分の住戸を民泊として使用するのは、管理規約違反であると主張するのです。
この管理組合側の主張は、原則として認められるでしょう。
国交省も、上記の管理規約の規定のあるマンションで民泊を行うのは管理規約違反であり、民泊を行うには、管理規約の改正=民泊を認める条項を入れる必要があるとしています。
ただ、この管理組合の主張は、あくまで管理規約に、「専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に使用してはならない。」と規定されていることが前提です。
管理規約で住宅以外の利用、たとえば事務所などの利用が認められている場合はどうなるのかは疑問あります。
少し長くなりました。続きは、次回に。それではまた。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。