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賃貸経営の法律Q&A

賃貸経営の法律Q&A

賃貸経営の法律
Q&A

弁護士
銀座第一法律事務所
大谷 郁夫

賃貸経営に関する法律について、現在、賃貸経営を営まれている方はもちろんこれから賃貸経営を始めようとお考えの方に知っていただきたいポイントをわかりやすく解説しています。

賃貸経営に関する法律をQ&A形式で解説しています。

時効及び遅延損害金

Q
改正民法の規定で、賃貸借についての改正ではないが、気をつけなければいけない改正があれば、教えてください。
A
時効の規定についての改正と遅延損害金の規定についての改正です。

1 時効の規定についての改正
改正前の民法の規定では、債権(人に対してお金の支払いや物の引渡しなどを求める頃ができる権利)の消滅時効期間は、権利を行使できるときから10年でした。
たとえば、AさんがBさんに100万円を貸し、返済期限が令和元年3月10日であったとすると、「権利を行使できるとき」というのは、令和元年3月10日であり、この日の翌日から10年が経過した令和11年3月10日に、この100万円の返還請求権の消滅時効が完成します。
この消滅時効の完成後に、支払義務を負っている側、つまりBが、消滅時効が完成しているので支払をしないと主張する(これを「時効の援用」といいます。)と、支払をしなくてもよいということになります。
このように、改正前民法における債権の消滅時効期間は、原則として10年ですが、例外的に、月払い、半年払い、年払いなどの1年以下の期間で定期的に支払われる債権は、10年ではなく5年が消滅時効期間でした。
建物賃貸借の賃料は、通常月払いですから、この例外が適用されて、支払期限から5年が経過すると、消滅時効が完成します。
これに対して、改正民法では、原則や例外というものはなくなり、次の2つの消滅時効期間に統一しました
① 権利を行使することができることを知ったときから5年
② 権利を行使することができるときから10年

令和5年5月31日を支払期限とする家賃を例にとると、通常、大家さんが家賃の支払期限を知らないということはありませんので、大家さんは、令和5年6月1日からこの家賃の権利を行使することができることを知っていることになります。
従って、令和5年6月1日からこの家賃の消滅時効が進行し、5年後の令和10年5月31日には、消滅時効が完成します。
これは、改正前民法の「月払いの建物賃貸借の賃料は、支払期限から5年が経過すると、消滅時効が完成する」という結論と同じです。
なぜ同じ結論になるのかと言えば、大家さんが家賃の支払期限を知らないということはないという前提に立つと、権利を行使することができるときと権利を行使することができることを知ったときは、同じときとなり、消滅時効の進行が開始するときが一致するからです。
逆に言えば、何らかの理由で、大家さんが家賃の支払期限を知らないという事態が発生したとき(こんなことは、通常はありませんが、)は、権利を行使することができるときと権利を行使することができることを知ったときは、同じときではありませんので、消滅時効の進行が開始するときが一致しません。

2 遅延損害金の利率について
債権について支払期限が到来すると、支払期限後は、原則として遅延損害金という利息のようなものがつくことになっています。
たとえば、AさんがBさんに100万円を貸し、返済期限が令和5年3月10日であったとすると、Bが令和元年5月10日に100万円の返済をしないと、令和5年6月11日から遅延損害金が発生します。
この遅延損害金の利率は、契約に定めがあれば、その定めに従いますが、契約に定めがないときは、法律の定める利率(これを「法定利率」といいます。)によることになります。
法定利率について、改正前民法は、一律に年5%としていましたが、この低金利時代に、年5%もの遅延損害金を認めるのは不合理であることから、改正民法は、年3%に引き下げました。
さらに、その後は、3年を1期として、1期ごとに短期貸し付けの平均金利をベースにして遅延損害金の利率を見直すことにしました(この利率の計算の仕方は、ちょっと複雑なので、割愛します。)。
改正民法が施行されたのは、令和2年4月1日ですから、既に最初の3年(第1期)は経過しており、令和5年4月1日に新しい利率となりますが、第2期の遅延損害金の利率も3%となりました。
もっとも、上記のとおり、遅延損害金の利率は、契約に定めがあれば、その定めに従いますので、建物賃貸借契約書に、「遅延損害金の利率が定められていれば、その利率に従うことになります。
ちなみに、よく使われている建物賃貸借契約書のひな形には、遅延損害金の利率を14.6%しており、このような定めは有効であり、滞納家賃や原状回復費用の遅延損害金は、14.6%となります。