賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
民法改正は、正しく伝わっているか?~第4回 自動的にサブリースとなってしまう場合がある!オーナーチェンジの際の特約でサブリースが生まれる
3度目の緊急事態宣言も延長されましたが、感染者が減少する兆しが見えてきません。先の見えない泥沼にはまっているようです。
ある有名な雑誌には、先進国では、新型コロナウィルスのパンデミックは、インドと日本を除いて過去のものとなりつつあるという情けない記事がありました。日本の科学技術の水準は、世界でもトップクラスであると信じていたのですが、新型コロナウィルスの感染防止対策では、どうして他の先進国から取り残されてしまったのでしょうか?技術ではなく、政策や制度の問題でしょうか?とても残念です。
さて、今回は、オーナーチェンジとサブリースについての改正です。
今年の2月のコラムで説明しましたように、改正民法では、賃貸建物のオーナーチェンジの場合、売主(旧所有者)と既に入居している借主の間の建物賃貸借契約は、借主の承諾が無くても、当然に買主(新所有者)に引き継がれ、買主(新所有者)は、建物の所有権移転登記を完了すれば、借主に対して賃貸人であることを主張できるものとされています。
通常のオーナーチェンジは、上記のとおりですが、改正民法では、売主と買主が合意すれば、買主が購入した物件を売主に賃貸し、売主がそのまま賃貸人として残ることができることになりました。
この結果、買主が賃貸人、売主が賃借人兼転貸人、もともといた借主が転借人となり、売主が借主に物件をサブリースする形となります。このため、もともといた借主は、自分の意思とは関係なく、普通の賃借人から転借人にされてしまうことになります。
この場合、買主(賃貸人)と売主(賃借人兼転貸人)との間の賃貸借契約が終了すると、サブリースは解消され、買主(賃貸人)と借主の直接的な賃貸借契約になります。
もう少し具体的に説明してみましょう。
Aは、マンション一室を所有し、このマンションには、Bが借主として入居しています。
Aは、このマンションをCに売却し、Cは所有権移転登記を完了しました。
しかし、AとCは、このマンションの売買の際、Cの購入後は、CがAにマンションを賃貸し、Aがそのまま賃貸人として残ることを合意しました。
この場合、AとBの賃貸借契約は、AがCにマンションを売却した後は、Aが賃貸人、Cが賃借人兼転貸人、Bが転借人という形のサブリースとなります。
その後、AがCとの賃貸借契約を解除すると、サブリースは解消され、AとBの直接の賃貸借契約になります。
通常のサブリースの場合、賃貸人と賃借人兼転貸人との間の賃貸借契約が解除されると、原則として転借人も出ていかなければならなくなります。
これは、賃借人兼転貸人と転借人との間の転貸借契約は、賃貸人と賃借人兼転貸人との間の賃貸借契約をベースとして成り立っているので、ベースが無くなってしまえば、その上に乗っている転貸借契約は成り立たなくなるからです。
法学部の学生のころ、比喩として「親亀子亀の関係」と教えられ、親亀(=賃貸人と賃借人兼転貸人との間の賃貸借契約)がひっくり返れば、子亀(=賃借人兼転貸人と転借人との間の転貸借契約)も無事ではいられないと説明を受けましたが、読者の皆様も、このたとえなら分かり易いと思います。
しかし、オーナーチェンジの際に、買主が購入した物件を売主に賃貸し、売主がそのまま賃貸人として残ることを合意したことによってサブリースとなった場合に、「親亀がひっくり返れば、子亀も無事ではいられない。」などと言われても、転借人は納得できません。
転借人は、もともと売主である賃貸人と直接契約して部屋を借りていた、つまり親亀に乗っていたのに、オーナーチェンジの際に、売主と買主の合意によって、勝手に子亀に乗せられたのですから、親亀がこけたからと言って、不利益を受ける理由はありません。
そこで、改正民法では、売主と買主が合意すれば、買主が購入した物件を売主に賃貸し、売主がそのまま賃貸人として残ることができるが、買主(賃貸人)と売主(賃借人兼転貸人)との間の賃貸借契約が終了すると、サブリースは解消され、買主(賃貸人)と借主の直接的な賃貸借契約になるとして、勝手に子亀に乗せられてしまった転借人を保護しているのです。
もっとも、オーナーチェンジの際に、買主が購入した物件を売主に賃貸し、売主がそのまま賃貸人として残ることを合意するなどということは、ほとんどありませんので、ちょっとレアケースについての改正ということになります。
ちなみに、サブリース会社の使っている賃貸借契約書では、大家さんとサブリース会社との賃貸借契約が解除等で終了したときは、大家さんは、サブリース会社と入居者との間の転貸借契約をそのまま承継すると定められていますので、大家さんとサブリース会社の契約が終了すれば、サブリースは解消され、大家さんと入居者との直接的な賃貸借契約になります。
この場合、サブリース会社が、賃貸人側に不利な契約をしていても、それをそのまま引き継ぎますので、注意が必要です。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。