賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
連帯保証人の条項がない!?建物賃貸借契約書の見直し
先日、親しくしている不動産屋さんとゴルフをしました。
コースを歩きながら、私が、「不動産業は、どちらかというと、年末はそんなに忙しくないんですよね?」と聞くと、不動産屋さんの答えは、「年末には、会社員の異動は少ないし、学生の入学もないので、一応そうなんですが、そもそも最近は、賃貸物件の検索は、みんなネットでやりますので、我々の所に来るときには、もう物件を決めてしまっています。ですから、昔に比べると、賃貸物件の内見などで時間を取られることは少ないんです。」というものでした。
確かに、今は、ネットで部屋の中や周りの環境をすべて見ることができますので、ネットだけで決めることも可能かもしれません。
さて、今日は、賃貸借契約書の見直しのお話です。
先日、大家さんのAさんから、こんな電話相談がありました。
Aさんは、都内にアパートを1棟所有しているのですが、今年の4月に締結した建物賃貸借契約について、連帯保証人から連帯保証契約書に署名捺印をもらったそうです。
ところが、Aさんは、連帯保証契約書に、極度額の記載をしなかったため、「どう対応したら良いか。」と相談されました。
昨年の6月のコラムで説明しましたが、建物賃貸借契約の連帯保証人の責任を軽減するために、民法が、次のように改正されました。
(1) 個人が建物賃貸借契約の連帯保証人となる場合、賃貸借契約書等に保証の上限額(極度額)の記載が必要となった。
(2) 限度額の記載がないと保証契約が無効となり、保証人に請求はできない。
この民法改正は、令和2年4月1日から施行され、同日以降に締結される建物賃貸借契約の連帯保証契約に適用されます。
当然、Aさんが今年の4月に締結した連帯保証契約にも適用がありますので、私は、Aさんに対し、「連帯保証人に事情を説明して、極度額のある契約書に署名捺印してもらってください。」と回答しました。
これに対して、Aさんは、「署名捺印してくれなかったら、どうしたらいいですか。」と問い直されました。
私は、Aさんに、「その場合、極度額の記載がないので、連帯保証契約は無効ですが、建物賃貸借契約書に、賃借人には連帯保証人を立てる義務が定められているはずですから、賃借人と連帯保証人に、連帯保証契約が無効であり、連帯保証人がいない状態は、契約違反になると説明し、署名捺印してもらってください。」と回答しました。
ところが、Aさんは、「はあ???」という反応でした。
よく聞いてみると、Aさんの使っている建物賃貸借契約書は、仲介業者が用意したもののようですが、連帯保証人に関する条項がないということでした。
「今時、そんな契約書を使っているのか?」と驚きましたが、逆に、「そんな契約書を使っているままだから、建物賃貸借契約の連帯保証人の責任についての民法改正の知識もないのかな。」と妙に納得してしまいました。
今回の民法改正については、昨年、このコラムで、8回に分けてポイントを説明しましたが、建物賃貸借契約書の手直しにより対応すべき改正がいくつかあります。
また、従来から、このコラムで説明していますように、原状回復に関する費用負担の特約のように、建物賃貸借契約書の記載を工夫することにより、大家さんが有利になる事項がいくつかあります。
改正民法の施行から既に2年以上経過していますが、この際、大家さんは、民法改正への対応も含め、自分が使っている建物賃貸借契約書を、見直してみてはいかがでしょうか。
もっとも、見直しをした新しい建物賃貸借契約書は、賃借人の承諾がない限り、既に締結している建物賃貸借契約の契約更新時には使用できませんので、注意してください。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。