賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
明け渡しの強制執行
ここのところ、暖かい日と寒い日が何日かおきに繰り返し、三寒四温の気候となっています。春がもうすぐそこまで来ているという感じです。
さて、今回は、前回お話した明け渡しの強制執行の続編です。
前回(2016年2月号 家賃滞納があった場合の大家さんの損失)、私は、「このまま居させてくれるなら滞納している家賃を払う」というような虫のいい入居者は、信頼できないと書きました。
また、裁判所で、いつまでに明け渡すか、未払いの賃料をどう払うかということについて、誠実に話をしないような入居者は、まず居座るとも書きました。
結局、この見立ては的中し、この事件の入居者は、明け渡し断行の日、つまり、本当に強制的に建物を明け渡させる日より前に、引っ越しをすることはありませんでした。
このため、遂に、明け渡しの断行となりました。
明け渡し断行日は、午後0時30分に明け渡し対象の部屋のあるマンションの前に関係者が集まりました。関係者とは、執行官、執行立会人、管理会社の担当者、私、執行業者です。予定していた開始時間は午後1時でしたが、30分前には関係者全員が集まりました。執行では何があるか分からないので、大体いつも関係者は早めに集まるのです。
今回の執行では、部屋の鍵は替えられていませんでしたので、管理会社の担当者の人に鍵を持ってきてもらい、鍵屋さんは呼びませんでした。
もっとも、関係者が集まっているところに、たまたま入居者本人が通りかかったので、そのまま入居者とともに部屋に入ったので、鍵自体いりませんでした。ただし、執行が終わるまで、原則として大家さん側の関係者(私と管理会社の担当者)は、部屋の中に入ることはできないことになっていますので、外で待っていました。
入居者が通りかかったのは、近くに別の部屋を借りたらしく、自分で部屋の荷物を運んでいたからですが、執行官は、入居者に対し、これから明け渡しの執行をすることを説明し、部屋に残っているものは全て部屋から運び出すので、自分で持っていきたいものは分けるように指示しました。
前回書きましたように、入居者は、第1回目の執行の日に、この日が断行の日と教えられていますので、一応引っ越しの準備をしていました。第1回目の執行の日には、部屋中に足の踏み間もないくらい家財道具や本がありましたが、断行の日には、ほとんど片付けられていました。それでも、冷蔵庫、洗濯機、扇風機などの大きな家電は残っていました。恐らく、引っ越し業者を頼まずに自分で荷物を運んでいたので、大きな家財道具は運べなかったのでしょう。
断行の際には、部屋の中の家財道具は全て搬出し、部屋を空にしなければなりません。そのため、残っている家財道具のうち、入居者が必要とするものは入居者に渡し、その他のものは、その場で入居者に所有権放棄をしてもらって、大家さんに廃棄を託することが多いのです。今回も、入居者が必要とするものは、入居者が運び出し、その他のものは、入居者に所有権放棄をしてもらい、執行業者が搬出して廃棄しました。入居者が所有権放棄したものには、上記の冷蔵庫、洗濯機、扇風機も含まれていました。
入居者が要らないと言ったものを、大家さん側が費用を出して廃棄するのは、どう考えても釈然としません。もちろん、その費用は、後で入居者や保証人に請求できるのですが、前回お話したとおり、家賃を払えない入居者から、これらの費用を回収するのは困難です。
しかし、大家さんとしては、とにかく部屋を空にしてもらい、明け渡しの手続きを完了しないと、次の入居者に貸すことができません。ですから、泣く泣く執行業者にお金を払って、搬出及び廃棄をしてもらうのです。
これらの作業を完了し、執行官から大家さん(現実には大家さんの代理人である私)に部屋の占有(支配)を渡し、執行は完了です。
この日の断行で、大家さんが執行業者に支払った費用は、約19万円でした。先ほどお話しましたが、今回は、とりあえず入居者がある程度引っ越しをしていたので、19万円で済みました。もし、入居者が、全く何もしておらず、部屋の中が第1回目の執行のときと同じ状態であれば、30万円から50万円の費用がかかったと思います。
入居者が断行の日まで何もしていないなんてことがあるのかと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、私の経験した事案では、3DKの部屋の明け渡しの事案で、入居者が断行の日まで何もしておらず、断行の日に執行官が行くと、慌てて学校に行っていた高校生の子供を呼び戻し、荷造りをさせたということもありました。この時、執行業者に支払った費用は、80万円を超えました。
今回の執行の顛末は、上記のとおりですが、このような事態になっても損失を最小限に抑えるために、賃貸借契約締結に当たって保証会社の保証をつけたり、しっかりした連帯保証人をつけたりするように心がけるべきです。
それでは、今回はこれくらいで。。。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。