賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
トカゲの尻尾切り作戦は有効か?別会社を設立して責任を免れる悪質な不動産業者
12月に入り寒い日が続いています。今年もあと1ヶ月足らずですが、さまざまな異常気象があったので、大家さんにとっては大変な1年だったのではないかと思います。
さて、私は、いくつかのサラリーマン大家さんのグループとお付き合いがあるので、賃貸経営だけでなく、賃貸物件の売買に関する相談を受けることがあります。
その相談は、このコラムでも取り上げています(2018年10月、2019年2月など)。
2018年10月のコラムでは、「建築基準法に違反する物件を買わされた。」「駐車場付きのアパートが建築できる土地ということで土地を購入したが、購入後に、隣地所有者の承諾がないと駐車場の面積を確保できないと言われた。」「満室で滞納もなしということで買ったが、購入直後に滞納者が2人いることがわかった。」などの相談を取り上げました。
また、2019年2月のコラムでは、虚偽の内容のレントロールを作成したり、賃貸借契約書の賃料を改ざんしたりして、実際の賃料よりも多い賃料収入があるように見せかけ、高額で物件を売りつけた事案を取り上げました。
これらの相談のうちいくつかは訴訟になっていますが、こうした訴訟で、最近よく見られる被告の手口が、トカゲの尻尾切りのように被告となっている会社を切り捨て、全く新しい会社を作って営業を続けるというものです。
もう少し具体的にお話ししましょう。
B社は、建築基準法に違反しているにもかかわらず、その事実はないことを重要事項説明書に明記してAに物件を売りつけました。
Aが、何年かして物件を売却しようとした際、仲介業者から、建物が建築基準法に違反しているので買い手が見つからないと言われました。
Aから相談を受けた私は、B社に対して、重要事項説明書に虚偽の記載をして物件を売りつけたとして、損害賠償請求訴訟を提起しました(訴訟の詳細は、今回のコラムのテーマではありませんので割愛します。)。
この事案で、当初、B社は、弁護士に依頼し、「物件は建築基準法に違反していないし、仮に建築基準法に違反しているとしても、重要事項説明書にはそのことが記載されている。」という反論をしていました。
しかし、このB社の反論は、明らかに客観的事実に反していますので、裁判官から、「建築基準法に違反していないとする根拠は何か、次回の期日までに、この点に関する主張を準備して下さい。」と指示されました。
こちらとしては、B社の弁護士からどんな主張が出るのか楽しみにして待っていたのですが、B社の弁護士から出てきたのは、主張を記載した書面ではなく、辞任届でした。
さらに、裁判所書記官から、B社に連絡を取ったが、電話は不通になっており、裁判所から送った書面も戻ってきたという連絡がありました。
そこで、当事務所の弁護士がB社の本社所在地のビルに行ってみると、そこにはB社の郵便受けはありましたが、B社の入っているはずの部屋のドアには何の表示もなく、また、インターホンを押しても、誰も出てきませんでした。
B社の代表取締役の住所は、会社登記の全部事項証明書に記載されていますので、同住所宛に書面を送りましたが、回答はありませんでした。
このような状態になると、裁判を続行することはできません。当事者である被告が出頭しないのですから、手続きを進めることができないのです。
「そんな馬鹿な!被告が出頭しないなら、原告勝訴判決でいいじゃないか。」と思う方もいらっしゃるかも知れません。しかし、民事訴訟法の規定では、被告が第1回期日に答弁書を提出せずに出頭しなかった場合は、原告の主張を全て認めたものとみなす規定もありますが、本件のように、被告が既に反論の書面を提出した後は、原告と被告との主張が食い違う点、つまり争点について、審理をしなければ判決をすることができないのです。
こちらとしては、やむを得ず、調査会社を使って調査したところ、B社の代表取締役は、B社の弁護士が辞任届を出す2ヶ月ほど前に、別の不動産会社(C社)を設立しており、その会社で、全く同じ仕事をしていることが判明しました。
当然ですが、たとえ代表取締役が同じでも、B社とC社は別の会社ですので、B社に対する請求をC社に向けるわけにはいきません。
また、B社の代表取締役は、B社とは別の個人ですので、B社に対する請求をB社の代表取締役に向けるわけにもいきません。
会社法には、会社の取締役が、故意または重大な過失によって任務を怠り第三者に損害を与えた場合には、第三者に対して損害賠償責任を負うという規定がありますが、この事件では、この規定を使えるような事情はありませんでした。
万事休すなのか?
B社の悪質なトカゲの尻尾切り作戦が上手くいってしまうのでは、納得いきません。
そこで、今、こちらも秘密の作戦を準備中です。これが上手くいけば、全部とは言いませんが、Aの損害の一部は回収できるかも知れません。
上手くいっても行かなくても、この顛末は、もう一度このコラムで取り上げたいと思います。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。