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水道管の設置等のための他人の土地の利用 令和3年民法改正の豆知識②
3月も終わりに近づき、朝、家を出るときに、今日は暖かいなと感じる日が多くなってきています。
こうして暖かくなると、いつもは花粉症の症状がひどくなるのですが、今年は、まだ、あまりひどい症状は、でていません。このまま、花粉症の症状が悪化しないことを願っています。
さて、今回も、令和3年民法改正についてのお話です。
前回は、越境した木の枝の切り取りについての見直しを取り上げましたが、今回は、継続的給付を受けるための設備設置権・設備使用権について説明します。
賃貸用物件に限らず、土地を購入する際に、他人の土地に水道やガスの配管を設置しなければ、水道やガスの本管に繋げることができないという場合があります。
令和3年の民法改正前の民法には、このような場合について、直接定めている規定はありませんでした。
そこで、令和3年の民法改正では、次のような規定を置きました。
(継続的給付を受けるための設備の設置権等)
第230条の2
土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付(以下この項及び次条第一項において「継続的給付」という。)を受けることができないときは、継続的給付を受けるため必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができる。
2 前項の場合には、設備の設置又は使用の場所及び方法は、他の土地又は他人が所有する設備(次項において「他の土地等」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
3 第一項の規定により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用する者は、あらかじめ、その目的、場所及び方法を他の土地等の所有者及び他の土地を現に使用している者に通知しなければならない。
4 第一項の規定による権利を有する者は、同項の規定により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用するために当該他の土地又は当該他人が所有する設備がある土地を使用することができる。この場合においては、第二百九条第一項ただし書及び第二項から第四項までの規定を準用する。
5 第一項の規定により他の土地に設備を設置する者は、その土地の損害(前項において準用する第二百九条第四項に規定する損害を除く。)に対して償金を支払わなければならない。ただし、一年ごとにその償金を支払うことができる。
6 第一項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その設備の使用を開始するために生じた損害に対して償金を支払わなければならない。
7 第一項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、その設置、改築、修繕及び維持に要する費用を負担しなければならない。
長い条文なので、細かく分けて説明していきます。
まず、第1項は、例えば、Aが甲土地を購入したが、B所有の乙土地に水道の配管を設置しなければ、水道の本管に繋げることができないという場合(図参照)に、Aが乙土地に水道の配管を設置できる(施設設置権)、あるいは乙土地に設置されているB所有の施設を利用できる(施設利用権)ことを定めています(もっとも、他人の設置した水道管を利用するというのは、余り聞いたことがないので、水道管の場合は、施設利用権を使うことはないのかもしれません。)。
この第1項は、「電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付」と書いてありますので、電気、ガス又は水道水の供給に限らず、それ以外の継続的給付にも適用されます。
その例として、よくあげられているのは、電話・インターネット等の電気通信設備です。
また、第1項では、「他の土地」と書いてあり、「隣地」とは書いてありませんので、使用できる土地は、隣地に限りません。
第2項は、当然と言えば、当然の規定ですが、Aは、Bの所有地や施設を使わせてもらうのですから、自分の希望どおりに乙土地に水道管を設置したり、乙土地内の施設を利用したりできるわけではなく、あくまで、乙土地や乙土地に設置された施設にとって、もっても損害が少ないものを選ぶ必要があります。
第3項も、当然の規定ですが、Aが、乙土地に水道管を設置しようとするときは、あらかじめ、その目的、場所及び方法を、Bに通知しなければなりません。
もし、Cが乙土地をBから借りて使用している場合には、Cに同様の通知をしなければなりません。
続いて第4項ですが、Aが乙土地に水道管を設置したり、乙土地内の施設を使用したりするには、Aが乙土地に入って工事をすることが必要になりますので、第4項は、Aが乙土地を作業のために使用することを認めています。
この場合、Aは、2023年10月号で取り上げた、隣地使用権に関する規定に従い、事前に、使用する目的、日時、場所及び方法をBに通知しなければなりません。
第5項から第7項は、AのBに対する補償等についての規定ですが、少し長くなりましたので、次回に持ち越したいと思います。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。