賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
こんな方法で参加してもいいですか?建築紛争事件とWeb会議
緊急事態宣言の解除後、どんどん新型コロナウイルスの新規感染確認者数が減少し、東京では、新規感染確認者が40人を超える日がありません。それとともに、旅行や飲食といった人の動きも活発になり、経済が息を吹き返し始めた感じです。
私も、先日、伊勢神宮に旅行に出かけましたが、伊勢神宮の入り口付近にあるおはらい町やおかげ横丁は、観光客や修学旅行生などで、ごった返していました。この光景を見て、「こうしてみんなが楽しんで、お金を使うことによって経済は回っているんだな。」と実感しました。
さて、今回は、建築紛争事件の裁判手続きのお話です。
最近は、建築紛争事件の相談が多くなってきており、訴訟になるケースもあります。
私が、今取り扱っている建築紛争の訴訟事件も3件あり、そのうち2件は、投資家の依頼者が、一級建築士に一棟建のマンションを設計してもらい、これを工務店に建築させたところ、完成が大幅に遅れたり、工事内容が設計と一致していなかったりして、工務店と紛争になったというものです。
建築を規制する法規は沢山ありますが、これについては、文献等で調査すれば理解できますし、また、それは、弁護士の仕事です。
しかし、工事の未施工や瑕疵(新法では、契約不適合)については、建築についての技術的な知識がなければ、理解できません。
工事の未施工や瑕疵(新法では、契約不適合)が争点となる訴訟では、まず、原告側が、契約上建築すべき建物の内容と未施工や瑕疵(新法では、契約不適合)の内容を、主張・立証しなければなりませんが、この主張・立証には、建築についての技術的な知識がかなり必要となります。
しかし、建築についての技術的知識をもっている弁護士はほとんどいませんので、味方についてくれる建築士の先生がいないと、お手上げとなってしまいます。このため、建築紛争は、「弁護士泣かせ」と言われています。
このように、建築紛争、特に工事の瑕疵(新法では契約不適合)についての紛争は、建築についての技術的知識が必要となり、裁判官も頭を痛めるところなので、東京地方裁判所では、建築紛争を集中的に扱う部があり、審理に工夫をしています。
東京地方裁判所民事第22部が、建築紛争を集中的に扱う部ですが、この部では、審理に、裁判官だけではなく建築の専門家である一級建築士の先生が、専門委員として関与しています。
私の取り扱っている事件でも、建築の専門家である一級建築士の先生が、専門委員として関与しており、建築の技術的な知識について、裁判官や当事者に説明をしてくれたり、また、当事者や弁護士に質問をしたりしています。
もっとも、専門委員の先生が、当事者や弁護士に質問をしても、当事者や弁護士は、建築の専門家ではありませんので、質問の意味が理解できなかったり、適切な答えができなかったりします。
そこで、裁判官から、事件の対象である建物の設計・監理を行った建築士の先生の出席を求められることがあります。
私の取り扱っている事件でも、裁判官から、毎月1回ほど開かれる期日に、毎回、事件の対象である建物の設計・監理を行った建築士の先生を呼んでおいてほしいと言われました。
この期日は、裁判所に行くのではなく、WEB会議で行っています。
これは、裁判官、原告の弁護士、被告の弁護士の3人が、それぞれ裁判所あるいは事務所にいて、マイクロソフトのTeamsというソフトウエアを使って、パソコンの画面上で会議を行うというものです。
以前コラムでも書きましたが、私の取り扱っている訴訟事件のうち10件くらいは、このWEB会議を行っていますが、残念ながら、WEB会議は、裁判所と法律事務所との間ではできるのですが、裁判所と法律事務所以外の場所、例えば、建築士さんの事務所と裁判所をWEBでつないで行うということは認められていません。
このため、建築士の先生にWEB会議に参加してもらうには、期日がある度に、私の事務所に来てもらわなければなりません。
しかし、これでは、建築士の先生と時間の都合が合わなければ、来てもらえませんし、来てもらえたとしても、建築士の先生の時間を大きくロスします。
先日も、建築士の先生から、WEB会議の日の数日前に、仕事の都合で、私の事務所に行けないという連絡があり、大変困りました。
そこで、私から、裁判所に、次のような方法を提案しました。
その方法というのは、私の持っているiPadのZoomを使って、建築士さんを呼び出し、このiPadのZoomの画面を、裁判官、専門委員、被告の弁護士が映っている私のデスクトップのTeamsの画面に向け、建築士の先生には、Zoomの画像と音声で、裁判に参加してもらうというものです。
「ダメかな。」と思ったのですが、意外なことに、裁判官がOKしてくれたので、上記の方法で、建築士の先生に参加してもらうことにしました。
期日では、Zoom画面対Teams画面で、専門委員の先生とこちらの建築士の先生が、特に支障なくやりとりをして、裁判官も専門委員の先生も、必要な情報を入手できたようでした。
こんな方法で、建築士を参加させることができるなんて、裁判所も日々進化しているなと思います。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。