賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
それって、わがまま言ってるだけじゃない?法定更新の場合の更新料の支払義務
1ドル160円まで円安が進み、2度の為替介入があって、一旦は1ドル152円くらいまで押し戻されましたが、結局、また、じりじりと円安になっています。
ところが、ニュースなどを見ていると、今年のGWの海外旅行者は、かなり多かったようで、ある航空会社では、ハワイ便の航空券の予約が、コロナ前を超えたという話です。
みんなが円安に慣れてしまったのでしょうか。あるいは、コロナなどがあって、ずっと海外旅行を我慢してきたので、我慢しきれなくなったのかもしれません。
私も、旅行好きなので、これ以上円安が進まないことを祈るばかりです。
さて、今回は、更新料のお話です。
もう10年以上前の話ですが、「建物賃貸借契約の更新料条項は、消費者契約法に違反しており、無効である。」という下級審の裁判例がかなり出て、それらの事件の一部が上告されて最高裁判所の判断を仰いだことがありましたが、結局、最高裁は、建物賃貸借契約の更新料規定は、消費者契約法に違反するものではなく、有効である旨の判断を下しました。
この最高裁の判決の前に、どんな判決が予想されるかについて、NHKのニュース番組の取材を受けたのを覚えています(予想は、良い方に外れました。)。
この最高裁の判決では、更新料について、「更新料は、一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有する」と判示し、最高裁は、更新料が部分的に賃料の性質を有することを認めました。
この更新料を巡っては、建物賃貸借契約が法定更新された場合に、賃借人に更新料の支払義務があるかという争点があります。
もう少し詳しく説明すると、建物賃貸借契約には、通常は、契約期間というものがあり、関東では、大体2年から3年の契約期間が定められています。
この契約期間が満了すると、契約は終了するのが建前ですが、大家と賃借人が合意して、契約を更新することになります。
大家としては、契約を更新したくないときは、契約期間満了6か月前までに、賃借人に対して、契約を更新しないことを通知することができますが、この通知をした場合でも、賃借人が契約期間満了後も建物に居座れば、賃貸借契約は、借地借家法の定めにより自動的に更新となってしまいます。これを、法定更新と呼びます。
大家と賃借人による合意による更新ではなく、法律の規定による更新なので、法定更新と呼んでいるのです。
大家が、法定更新を阻止するには、大家の更新拒絶に正当理由がることが必要(詳しくは、QA参照)ですが、大家に正当理由があることは、ほとんどないので、結局、法定更新を阻止することはできません。
そして、更新料は、合意更新をした場合に支払うと定められていることが多いので、法定更新になったときには、更新料を支払わなくてもよいのではないかという議論があるのです。
私のような大家サイドの弁護士からすると、当然、「支払義務あり。」という結論なのですが、裁判所の判断は、支払義務を肯定するものと否定するものに分かれています。
ただ、裁判所の判断が分かれていると言っても、下級審のものしかなく、最高裁の判決は出ていませんので、いまだ決着がついていないと言えます。
法律的な議論はともかく、私からすると、法定更新だから更新料を支払わなくてもいいというような理屈は、ただのわがままにしか聞こえません。
そもそも、契約を更新した際には、更新料を支払うということが明記されている賃貸借契約書に署名及び捺印したわけですから、更新の際に更新料の支払義務があることを、十分承知の上で契約を締結したわけです。
それにもかかわらず、合意による更新ではなく、法定更新だから、更新料は支払わないなどということを言い出すのは、わがままにしか聞こえません。
こんなことを認めれば、更新料の支払いを拒絶する目的で、理由もなく合意更新を拒絶する賃借人が続出するでしょう。しかも、法定更新になると、賃借人が合意更新に応じない限り、ずっと法定更新のままなので、5年でも10年でも法定更新状態が続き、一度も更新料を支払わずに10年以上も居住し続けるということも可能です。合意更新を繰り返して、更新料を2年から3年ごとに支払っている賃借人と比較した倍の不公平も明らかです。
結局、最高裁が合法と認めている更新料を支払わない抜け道として、法定更新が使われてしまうのです。
法律的な議論はともかく、と言いましたが、弁護士なので、少し法律的な議論をすると、最初に述べてように、最高裁は、更新料について、「更新料は、一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有する」と判示し、更新料が部分的に賃料の性質を有することを明言しています。
そうすると、最初の更新の際に、合意更新を拒絶して法定更新に持ち込み、そのまま更新料を支払わずに10年以上居住し続けたような場合、長期間にわたって賃料の一部を支払っていないことになります。こんなことは、まったく納得できません。
実は、現在1件、正にこの法定更新の場合の更新料の支払義務を争点とする事件の依頼を受けています。私としては、依頼者が許すならば、最高裁まで行きたいものだと思っています。
それはそれとして、こういう争いを生まないためには、建物賃貸借契約書の更新料の条項には、賃借人は、合意更新、法定更新にかかわらず、契約を更新した場合には、更新料支払うということを明記しておくとよいでしょう。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。