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連帯保証人の保証債務の元本の確定とは?民法改正と賃貸借契約の連帯保証人の責任2
2020年も2月に入り、いよいよ改正民法施行まで2ヶ月を切りました。書店でもネット上でも、改正民法のセミナーや書籍の広告が目につきます。先日私も、ある大家さんグループの改正民法勉強会でお話しするために、名古屋に行ってきましたが、みなさん熱心に私の話を聞いてくれました。
さて、先回は、建物賃貸借契約の連帯保証人の責任についてお話ししましたが、今回もこのお話の続きをしたいと思います。
先回お話ししましたとおり、改正民法では、個人が建物賃貸借契約の連帯保証人になる場合には、極度額(連帯保証人が支払義務を負う限度額)を書面等で定めなければ、その連帯保証契約は無効になるとして、連帯保証人の責任に歯止めをかけました。
たとえば、建物賃貸借契約書で、連帯保証人の責任について、極度額が200万円と定められていれば、借主の未払債務が300万円になっても、連帯保証人は200万円までしか責任を負いません。
また、建物賃貸借契約書に借主の債務の遅延損害金の利率が年14.6パーセントと定められていても、この遅延損害金は別枠ではありません。
たとえば、建物賃貸借契約書に借主の債務の遅延損害金の利率が年14.6パーセントと定められている場合に、借主が家賃を180万円滞納して出て行ったとすると、この180万円に対して、毎年14.6パーセントの遅延損害金が発生します。180万円の年14.6パーセントは、262,800円ですから、未払いのまま1年経過しただけで、借主の債務は、2,062,800円になります。
しかし、もし建物賃貸借契約書で、連帯保証人の責任について極度額が200万円と定められていれば、連帯保証人は、200万円を超える部分については、責任を負いません。
また、借主が家賃20万円を滞納して、連帯保証人がこの20万円を支払った後に、借主が再び家賃を滞納し、その額が100万円になった場合、もし建物賃貸借契約書で、連帯保証人の責任について極度額が100万円と定められていれば、連帯保証人は、極度額100万円から既に支払った20万円を差し引いた残額80万円までしか責任を負いません。
この建物賃貸借契約の連帯保証人についての民法改正については、もう一つ重要な制度があります。それは、連帯保証債務の元本の確定という制度です。
元本の確定とは、一定の事由が発生したときは、連帯保証人の責任は、その時点で発生している借主の債務の額で確定し、それ以上は責任を負わないというものです。
たとえば、建物賃貸借契約書で、1ヶ月の賃料が10万円、連帯保証人の責任の極度額が200万円と定められていたとします。
借主が家賃3ヶ月分30万円を滞納している状態で、改正民法の定める一定の事由が発生すると、連帯保証人の責任はこの30万円で確定し、その後に発生する借主の債務については、連帯保証人は責任を負いません。
改正民法は、建物賃貸借契約の連帯保証人の元本の確定事由として、次の3つを定めています。
1 (保証人の)債権者が、保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき
2 保証人が破産手続開始の決定を受けたとき
3 借主又は保証人が死亡したとき
上記の確定事由のうち、1及び2は、そもそも連帯保証人の財産が差し押さえられたり、連帯保証人が破産したりした場合ですから、連帯保証人の支払能力自体が乏しくなっているか、失われていることになります。
従って、たとえ元本の確定がなくても、連帯保証人からの回収は期待できませんので、大家さんにそれほど影響はないでしょう。
しかし、3の「借主又は保証人が死亡したとき」という確定事由は、注意が必要です。
まず、借主の死亡ですが、借主が賃貸中の居室の中で病死した場合、借主が亡くなった時点で連帯保証人の責任は確定しますので、この時点で、何も滞納などがなければ、連帯保証人が責任を負うべき額は、ほとんど0ということになります。
「ほとんど」がつくのは、たとえば、借主が、死亡前に、部屋の中の壁を汚していたり、ドアを壊していたりすれば、これらの汚損の原状回復義務は、借主の生前に発生したものですから、その原状回復費用ついては、元本確定前の借主の債務として、連帯保証人は責任を負うことになると考えられます。
借主が病死しても、賃貸借契約自体は終了しませんので、大家さんとしては、相続人を探して契約解除の手続きを取り、部屋を明け渡してもらわなければなりませんが、この明け渡しまで数ヶ月かかったとしても、その間の家賃は、借主の相続人には請求できますが、連帯保証人には、元本確定後に発生した債務ですので、請求することはできません。
仮に、相続人が相続を放棄したとすると、相続人に請求することもできません。
では、借主が自殺した場合はどうでしょう。
借主の自殺した場合、自殺行為によって賃貸中の居室が汚損することがあり、また当分の間賃貸自体ができなくなるか、家賃を安くしなければ賃貸できなくなります。
この場合の原状回復費用や賃料収入減少の損害は、借主の死亡後に発生するものですから、連帯保証人の元本確定後の費用や損害であって、連帯保証人に請求できなくなるのではないかとも思えます。
しかし、この場合の原状回復費用や賃料収入減少の損害は、借主の生前の自殺行為によって発生したものですから、借主の死亡時には、既に発生していた借主の債務と考えることが可能です。
従って、連帯保証人に対して、極度額の範囲内で請求することが可能と考えられます。
次に、連帯保証人の死亡ですが、建物賃貸借契約書で賃貸借契約の継続中に連帯保証人が亡くなった場合、この時点で連帯保証人の責任は確定しますので、この時点で、何も滞納などがなければ、連帯保証人が責任を負うべき額は、ほとんど0ということになります(ここでも、「ほとんど」がつくのは、借主の死亡の場合と同じです。)。
仮に、その後に、借主が失業して家賃を払えなくなっても、滞納家賃を連帯保証人(正確には、連帯保証人の相続人)に請求することはできません。
つまり、連帯保証人が死亡すると、事実上、保証人がいないのと同じ状態になってしまうのです。
このように、連帯保証債務の元本の確定という制度も、大家さんに大きな影響を与える制度ですので、これを理解した上で、何らかの対策を講じておく必要があります。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。