賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
固定資産税を取られ過ぎていませんか。課税ミスにより払いすぎた税金の返還請求
あけましておめでとうございます。
本年も宜しくお願いいたします。
今年は、1月4日をお休みとしたため、年末から9連休となりました。12月29日から31日までは、大掃除だとか年賀状だとかで、例年通りバタバタしましたが、元旦からは6日間のんびりできました。
さて、今回は、昨年12月に判決のあった税金にまつわる訴訟についてお話ししたいと思います。
この事件の依頼者のAさんは、都内に自宅兼事務所として使用している3階建ての建物を所有していますが、一昨年の夏に、都税事務所から、その建物の固定資産税及び都市計画税(以下、「固都税」といいます。)の計算が間違っており、今まで固都税を多く取り過ぎていたので、多く取り過ぎた固都税の5年分を返還するという通知を受けました。
皆さんもご存じのとおり、固都税は、課税する役所側が税額を計算して、納税者に税額を記載した納付書を送ってきます。これを厳密に言うと、固都税の課税は、課税庁の処分により納税額を確定して納税者に課税する方式をとっており、このような課税の方式を、賦課課税方式といいます(これに対して、所得税のように、納税者の申告によって納税額を確定する方式を「申告納税方式」といいます。)。
このように、固都税の税額の決定は、役所側が行うのですが、そのために、まず役所は、総務大臣の定める固定資産評価基準によって土地と建物の価格(これを、「課税標準額」といいます。)を決定します。
固定資産税の税率は、この課税標準額の1.4%とされており、また、都市計画税の税率は、同じく課税標準額の0.3%を超えることができないとされています。
つまり、固定資産税も都市計画税も、総務大臣の定める固定資産評価基準により算定した土地や建物の課税標準額に、一定の税率を乗じて算出されるのです。
従って、当然のことですが、土地や建物の課税標準額が安くなれば税金は少なくなるということになります。
この課税標準額を決定する際の法律上の特別なルールとして、住宅用地の特例というものがあります。
住宅用地の特例を受けるための要件の詳細については、話が複雑になり過ぎますので割愛しますが、大雑把に言えば、人の居住の用に供する建物の敷地は、住宅用地の特例を受けることができ、住宅用地の特例の適用を受けると、その住宅用地の課税標準額は、通常の課税標準額より大幅に減額されることになっているのです。
課税標準額が大幅に減額されれば、この課税標準額に一定の税率を乗じることによって算出される固都税も、当然少なくなることになります。
Aさんの所有していた建物は、この住宅用地の特例の適用を受ける要件を満たしていましたが、都税事務所は、住宅用地の特例の適用の要件を満たしていないと判断し、この建物が建築された昭和63年から誤りに気付く平成29年まで、ずっと住宅用地の特例の適用をせずに計算した課税標準額によって算出した固都税をとり続けてきました。具体的な金額としては、毎年20万円から30万円多く固都税をとり続けてきたのです。
しかし、都税事務所は、自らの調査によってこの誤りを発見し、Aさんに対し、一昨年の夏に、今まで固都税を多く取り過ぎていたので、多く取り過ぎた固都税の5年分を返還するという通知をし、実際に返還しました。
ただ、よく考えると、「なぜ5年分なんだ。」という疑問がわいてきます。
東京都は、昭和63年から誤りに気付く平成29年まで、ずっと毎年20万円から30万円多く固都税をとり続けてきたのですから、5年分しか返さないというのでは、Aさんとしては納得できません。
この点の東京都の言い分は、税額を減額する決定は、地方税法によって5年分しか遡れないことになっているので、5年分しか返還できないというものでした。
しかし、この地方税法の規定は、あくまで都税事務所側が税額を減額する決定ができる期間を制限したものであり、都が、誤って納税者から税金を取り過ぎたというのは不法行為ですから、納税者は、都に対して、不法行為に基づく損害賠償請求(被告が東京都なので、国家賠償法という法律によって訴えるため国家賠償請求事件と呼びます。)ができ、この場合は、民法の規定により、20年前の分まで遡って賠償を求めることができます。これは、最高裁判所判例で認められています。
もちろん、東京都も、上記の最高裁判所判例は知っていますが、そこは、やはりお役所ですから、きちんと裁判所の判決で支払いを命じられない限り、5年分しか返還できないという建前に終始しました。
そこで、私は、Aさんの依頼を受けて、東京都を被告として、過去20年間に多く払いすぎた固都税について、国家賠償請求訴訟を提起しました(被告が東京都の場合、国家賠償法という法律によって訴えるため、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟ではなく、国家賠償請求訴訟と呼びます。)。
この事件では、東京都も、いろいろと反論しましたが、結局、Aさんの言い分が認められ、過去20年間に多く払いすぎた固都税全額について賠償が命じられました(ただし、既に直近5年分は返還を受けていますので、除かれます。)。
しかも、税金を取り過ぎたときから、取り過ぎた金額に対して年5%の法定利率による損害金が加算されます。
この結果、Aさんは、毎年20万円から30万円を、今の預金金利からは考えられない5%という金利で預金したのと同じことになりました。
このように、賦課課税方式をとる固都税では、役所側が税額の計算を誤り、税金を取り過ぎることがあります。
賃貸経営をされている方は、複数の不動産をお持ちでしょうから、一度、税額が正しいかどうか税理士さんに調べてもらうのもいいかもしれません。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。