賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
新型コロナ減収で入居者が賃料滞納したら契約解除可能か?裁判実務から見た新型コロナでの減収による賃料滞納と契約解除
緊急事態宣言が出て、裁判にも大きな影響が出ています。東京地方裁判所や東京家庭裁判所で実施予定だった4月の裁判期日や調停期日は、全て延期となりました。埼玉県や神奈川県の裁判所で行われる裁判期日も同様です。
通常、何らかの事情で裁判期日が延期となった場合は、速やかに次の裁判期日を決めるのですが、今回の裁判期日の延期については、全て「次回期日は追って指定」となっており、次の裁判期日がきまらないままの状態となっています。おそらく裁判所は、5月6日に事態が収束に向かい、緊急事態宣言が解除になるかかどうかわからないため、次回期日を決めることができないのだと思います。
私の事務所も、出勤制限をしており、事務スタッフは平日の3日に1日だけ、私は週2日だけ出勤しています。
さて、今回は、この新型コロナウィルスの感染拡大に関連した話題です。
何日か前の日経新聞に「賃料猶予 各国動く」という見出しで、新型コロナウィルスの感染拡大により経済的打撃を受けた事業者の賃料の支払い猶予に向けて、欧米などの各国が、さまざまな法的拘束力のある対策を実施しているという記事がありました。
この記事の中では、日本では、単に大家さんへの協力要請をするだけにとどまっており、法的拘束力のある対策が求められるとも述べられていました。
そこで、新型コロナウィルスの感染拡大により経済的打撃を受けた事業者が賃料を滞納した場合、大家さんは賃貸借契約を解除できるかについて考えてみたいと思います。
まず、一般的な賃料滞納と契約解除、つまり、今回のようなパンデミックや地震などの災害が起きていない場合の賃料滞納と契約解除についての裁判の実情をおさらいしたいとおもいます。
現在の裁判実務において、裁判所は、建物賃貸借契約の借主の契約上の義務違反を理由とする契約の解除について、その義務違反が賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない特段の事情がある場合には、解除を認めないという考え方(いわゆる信頼関係理論)をとっています。
このため、借主に契約上または法律上の義務違反があった場合でも、その程度によっては、契約解除が認められないことがあります。
賃料の滞納の場合、一般的に、裁判所は、1カ月分から2カ月分程度の賃料の滞納では契約の解除を認めておらず、3カ月分の賃料の滞納があれば、信頼関係の破壊があったものとして、契約の解除を認めています。
このように、裁判所は、一般的に3カ月分の賃料の滞納がある場合に、信頼関係の破壊を認めていますので、賃料の滞納が2か月分だけという場合は、裁判所は、なかなか契約の解除を認めてくれません。
このような現在の裁判実務からすると、今回のような100年に1度と言われるパンデミックが起こり、国が緊急事態宣言を行い、外出制限や休業を要請している状況下では、裁判所は、賃料滞納による解除を簡単には認めないと思われます。
これは、単なる私見ですが、店舗を借りて営業している事業者が、外出制限や休業要請により大幅な減収となり賃料を滞納した場合、おそらく裁判所は、少なくとも緊急事態宣言が出ている期間及びその前後1ヶ月の賃料滞納について、賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない特段の事情がある場合にあたるとして、その賃料滞納を理由とする賃貸借契約の解除を認めないのではないかと思います。
また、裁判所は、こうした事案については、積極的に和解を勧めてくるのではないかと思います。具体的には、たとえば賃料月額15万円の店舗の賃料滞納が4ヶ月あったとすると、この滞納賃料をその後2年間の家賃に上乗せして分割払いする和解案などが予想されます。この案によると、毎月の賃料は15万円から17万5000円になり、賃借人である事業者にとってはかなりきついと思いますが、和解はあくまで裁判所での話し合いですので、事業者の支払能力と大家さんの経済力に応じて、分割払いの期間も変わってくるでしょう。
もちろん、これは、外出制限や休業要請により大幅な減収となり、これが原因となって賃料を滞納した場合です。こうした事情は、賃借人である事業者の側に立証責任がありますので、事業者の方は、こうじた事情をきちんと立証できるように、日々の売上や休業の事実を裏付ける証拠を確保しておく必要があります。
また、緊急事態宣言解除後1ヶ月以上が経過した後も賃料滞納を継続している場合は、残念ながら裁判所も、契約解除を認めざるを得ないと思います。
大家さんの側から見ても、賃借人である事業者をあまり追い詰めすぎると、倒産や夜逃げなどが起き、滞納賃料を回収できないばかりか、店舗内の造作や設備の撤去費用を大家さんが負担せざるを得なくなります。
もちろん、たとえ倒産や夜逃げの場合でも、訴訟を提起して裁判所から明渡しを認める判決をもらい、この判決に基づいて強制執行を行わなければ、勝手に造作や設備の撤去をすることもできません。この訴訟にも費用がかかります。
さらに、今回のような事態は、単なる個別の店舗の事情による賃料滞納ではありませんので、多数の店舗を貸している大家さんは、何件もの裁判を同時起こす必要が出てくるかもしれません。そうなると、大家さんにとっても、大きな経済的負担となるでしょう。
政府が考えている対策は、賃料値下げや支払猶予に応じた中小の大家さんには、固定資産税の一部または全部を免除するということのようですが、大家さんとしては、こうした固定資産税の免除を受けながら、時間をかけて滞納賃料を回収するというのが、最終的には得策となるかもしれません。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。