賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
ありがとう!簡易裁判所の裁判官(続々)専門業者によるクリーニングの特約
夏日があったり、真冬のような寒さになったり、本当に寒暖差の激しい11月です。しかも、インフルエンザも大流行している様子。
年末に向けて忙しくなっていきますので、体調を崩して休まないように、気を引き締めていこうと思っています。
今年の7月と9月のコラムで、専門業者によるクリーニングの特約を無効だと主張して裁判を起こしてきた弁護士の話をしましたが、今回はその結末についてのお話です。
まず、簡単に事案を思い出してみましょう。
Aさんは、自分が所有しているワンルームマンションの入居者Bが退去した際、賃貸借契約書に明記してある専門業者によるクリーニング費用についての特約に基づいて、クリーニング費用3万円を敷金から差し引きました。
AさんとBの賃貸借契約書では、特約として、退去時には借主が専門業者によるクリーニング費用3万円を負担することが明記されており、しかも東京ルールに従って、仲介業者が「専門業者によるクリーニング費用3万円は、本来貸主が負担するものであるが、特約により借主の負担となること」を書面で説明しており、その書面にBの署名・捺印がありました。
また、3万円という金額は、部屋の大きさや月額の賃料からみて妥当な額でした。
ところが、Bに依頼された弁護士からAさんに対し、専門業者によるクリーニング費用についての特約は無効だから敷金からクリーニング費用3万円を差し引くことはできないので、3万円を返還するように請求する通知が届きました。
これに対して、Aさんがその弁護士に対し、AさんとBの賃貸借契約書の中の「専門業者によるクリーニング費用についての特約」を具体的に指摘し、「この特約は有効であるから3万円を返還しない」という回答をしたところ、その弁護士からAさんに直接電話があり、「このままだと裁判になり3万円を返すことになりますよ。それでもいいんですか。」と言われたそうです。
私もAさんも、Bが本当に裁判をしてくるとは思っていませんでしたが、驚いたことにBは、東京簡易裁判所に対しAさんを被告として、敷金から差し引いた3万円を返還するように請求する訴訟を起こしました。
この訴訟でBの代理人となったのは、もちろんこれまでと同じ弁護士です。
私は、今年の9月のコラムで次のように書きました。
「次の私の関心事は、この訴訟を審理する簡易裁判所の裁判官が、どのような訴訟指揮をするかです。
私は、Aさんに、特約は有効であると強く主張し、和解などせずに判決をもらうようにアドバイスしました。
Aさんが特約の有効性を主張したとき、裁判官は何と言うのでしょうか。
「まあ、そう言わずに和解しませんか。」などと言わないことを祈るばかりです。」
先日、この裁判についてAさんから電話で報告がありました。
Aさんは嬉しそうに「勝訴しました。」と話し、後日判決文を送ってくれました。
この判決では、Bの弁護士の主張した最高裁判所の判決(23年9月号のコラム参照)を基準に照らしても、AさんとBの賃貸借契約書や重要事項説明書に記載されていた専門業者によるクリーニングの特約が有効であると認めています。
これまで、建物賃貸借契約を巡る簡易裁判所の裁判について、批判的なことを何度か書いたことがありましたが、この判決で簡易裁判所の裁判官を見直しました。
当たり前と言えば当たり前の判決なのですが、当たり前のことをしてくれるのがありがたいです。
また、Aさんも変な妥協をせず頑張ったと思います。
そして、Bの弁護士は、、、、
これは、私も含めたすべての弁護士について言えることですが、事件の方針を決める時は、日ごろ取り扱っていない分野はもちろん、よく取り扱っている分野であっても、自分の考えている方針が適切であるかどうか確信が持てないときは、一応判例や文献で(場合によっては、同僚弁護士に相談して)確認することが必要です。
面談での相談の際には、その場で即答しなければならないこともあります。その際、「調べてから、お答えします。」と言うのは、弁護士としては格好悪いので、勇気がいるものです。
しかし、誤った回答をして受任し、後で間違いを訂正して依頼者の信頼を失うほうが何倍も格好悪いです。
いずれにせよ、いろんな意味で勉強になった事件でした。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。