賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
民泊と分譲マンション~あなたのマンションに民泊が出現したらどうする!?~その2
ここのところ、朝晩はかなり冷え込んできました。もうクールビズでは寒いので、11月1日から衣替えをして、秋物のスーツにネクタイで仕事をしています。
さて、民泊と分譲マンションの2回目です。
前回は、マンションの管理規約に、「専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に使用してはならない。」と規定されている場合は、このマンションで民泊を行うのは管理規約違反であり、管理組合としては、この規定を根拠に、マンションの住戸を民泊として使用するのは管理規約違反であると主張できると説明しました(専用部分とは、分譲マンションの所有者が所有する住戸内と考えてください。)。
しかし、マンションの管理規約が上記のような規定ではなく、「専用部分を住宅及び事務所等並びに1階に限り店舗として使用するものとし、その他の用途に使用してはならない。」と規定されていたらどうでしょうか。
事務所や店舗は、明らかに住宅とは異なります。居住という点でいえば、事務所や店舗より民泊の方が実質的に住宅に近い使用目的かもしれません。
ですから、上記のような管理規約を根拠として、マンションを民泊として使用するのは管理規約違反と言えるかどうかは、かなり疑問です。
これに対する対策としては、管理規約を変更することが考えられます。たとえば、専用部分を民泊として使用することを禁止する規定を設けることが考えられます。管理規約の変更に関する手続きを踏めば、このような変更も可能です。
しかし、問題は、そのタイミングです。
前回説明しましたように、大田区の条例によると、認定を受けようとする事業者は、予め同じマンションの他の住戸の住民に対し、認定を受けようとする事業計画を周知しなければなりません。これから制定される民泊条例も、同じような内容になるでしょう。
従って、恐らく、あるマンションの住戸の所有者が民泊を始めようとしたとき、他の住戸の所有者がこの計画を知るのは、このような周知があったときでしょう。
このとき慌てて管理組合の総会を開いて、上記のような管理規約の変更を行った場合、このような変更は有効でしょうか。
実は、私は、このケースに似た事件の裁判を実際に担当しました。
この事件は、Aマンションの住戸の所有者Yが、自分の購入したマンションの住戸を大改装して、当時流行していたシェアハウス(同時に7人の居住が可能)として使用しようとしたところ、Aマンションの管理組合が管理規約をシェアハウスとしての使用を認めない内容に変更し、この管理規約を根拠として、Yに対してシェアハウスとしての使用を止めるように請求したものでした。
私は、管理組合側の弁護士でしたが、この事件で争点となったのは、Yがその住戸をシェアハウスとして使用する準備を開始した後に行われた管理規約の変更が有効かという点でした。
分譲マンションの管理については、建物の区分所有等に関する法律(以下、「区分所有法」といいます。)があり、区分所有法31条1項は、下記のように定めています。
-----------------------記-----------------------
「規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によってする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。」
この規定によると、管理規約の変更が、特定の区分所有者(マンションの各住戸の所有者)の権利に特別の影響を与えるときは、その特別の影響を受ける区分所有者の承諾がないと、その管理規約の変更は効力を生じないことになります。
分かり易くいえば、特定の住戸の所有者だけに不利益を与えるような狙い撃ちの管理規約の変更は、いかに多数決で決めても、不利益を受ける所有者の承諾がないと効力は認められないということです。
既に説明しましたように、上記の事件では、Aマンションの管理組合は、Yがその住戸をシェアハウスとして使用する準備を開始した後で、管理規約をシェアハウスとしての使用を認めない内容に変更しています。
しかも、Aは、この管理規約の変更が行われた管理組合の総会に参加し、管理規約の変更の議案に反対していました。
そこで、Yは、上記の管理規約の変更は、Yの権利に特別の影響を与えるものであり、かつ、Yは承諾していないので、効力がないと主張したのです。
この事件では、この点が最大の争点となり、管理組合側とY側が主張を尽くしましたが、裁判所の判断は、Yの主張を認め、上記の管理規約の変更は効力がないとするものでした。
裁判所の判断内容の詳細まで説明する紙面の余裕はないので割愛しますが、シェアハウスと民泊では、その利用形態にそれほど大きな違いはありませんので、民泊で同じようなケースが起きても、恐らく裁判所は同じように判断するのではないかと思います。
この事件の経験から言えることは、自分が住戸を所有しているマンションの管理規約が事務所や店舗としての使用を認める内容の場合には、早く手を打てということです。
このような管理規約のマンションの住戸が民泊としての使用されることを阻止したいなら、マンションの住戸の所有者の誰かが民泊の準備を始める前に、マンションの管理規約を変更し、民泊としての使用を認めない内容に変更しておくべきなのです。
我が国の観光立国のためには、民泊が必要となることは否定できません。また、分譲マンションの住戸の所有者の中には、自分の所有する住戸を民泊として使用して収益を上げたいと考えている方も沢山いるでしょう。
ですから、このコラムは、民泊の役割や価値を否定するものではありません。
あくまで、分譲マンションの住戸を民泊として使用されることを避ける方法について、法律的な観点から考えてみたものです。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。