賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
最低限、この2つのハードルはクリアしないと駄目でしょう!投資用ワンルームマンションの評価の目安
以前にも書いたかもしれませんが、3月末から4月初めの時期は、裁判所の異動の時期ですので、裁判期日がほとんど入りません。このため、弁護士としては、時期に余裕ができることになります。
本来であれば、この時期に、いままで先延ばしにしていた仕事や遅れている仕事を片付けるべきなのですが、4月に入ると気候も良くなるため、遊びに出かけてしまいます。
結局、この時期にやろうと思っていた仕事が、何もできないまま、また裁判期日と準備に追われる毎日が戻ってきます。
毎年、同じことを繰り返しています。
さて、今回は、投資用ワンルームマンションを購入する場合に、というより、購入を勧められた場合に、失敗しないための最低限の評価の目安について、考えてみたいと思います。
「投資用ワンルームマンションを購入しませんか。フルローンで、初期費用はほぼ0。毎月のローンの支払いは、賃料で賄うことができ、寝ているだけで将来自分のものになります。しかも、当社がサブリースを付けるので、賃料収入は一定期間保証されます。」
今でも、よく「こんなセールスを受けた。」という話をよく聞きます。
果たして、こんな話を真に受けてもいいのでしょうか。
私は、ワンルームマンション投資を、肯定も否定もしません。
しかし、ワンルームマンション投資をするのであれば、購入対象物件が、最低限、次の2つのハードルをクリアできる物件でなければならないと思っています。あくまで、最低限です。
まず、最初のハードルは、表面利回りです。
東京都に関して言えば、23区内の山手線外側で、表面利回り6パーセント、23区外の主要駅周辺で7から8パーセントは、欲しいところです。
たとえば、中央線の高円寺駅から徒歩8分の新築ワンルームマンション(22㎡)であれば、物件価格が1800万円、賃料収入が年間108万円なら、表面利回りは6パーセントで、一応このハードルはクリアします(セールスの対象となる物件ですから、新築を想定します。また、ワンルームマンションの平均面積は、20㎡前後ですから、22㎡としました)。
賃料収入が年間108万円ということは、月額9万円ですが、新築で、高円寺駅徒歩8分、面積22㎡なら、これくらいの賃料はとれるでしょう。
実際、ネットで調べてみると、上記の条件に当てはまる物件は、いくつかあります。
これが、国分寺駅から徒歩8分の新築マンルーム(22㎡)であれば、同じ賃料なら、価格が1500万円くらいに落ちないと、表面利回りは、7パーセントとなりません。
ただ、この表面利回りを考える場合、セールス対象の物件が、サブリースのときは、設定されている当初賃料を鵜呑みにしてはいけません。
まず、ワンルームマンションを売る会社は、当然買ってほしいので、表面利回りが高くなるように、サブリースの当初賃料を高く設定している可能性があります。このため、近隣の賃料相場をネット等で調べるべきです。
次に、当たり前のことですが、サブリースであっても、そうでなくても、マンションは、築年が古くなるにしたがって賃料が下がります。また、サブリースの場合は、3年から5年ごとに賃料の見直しをすることが契約書に記載されていることが多いです。
ですから、最初の賃料が高いからと言って、安心できません。
2番目のハードルは、毎月のローンの返済額と賃料収入の関係です。
簡単に言えば、毎月のローンの返済額が、賃料収入より多く、自分の手元に少しずつお金が残るようなものでなければなりません。
先ほどの中央線の高円寺駅から徒歩8分の新築ワンルームマンション(22㎡)、物件価格が1800万円、賃料収入が年間108万円(月額9万円)で考えてみましょう。
元利均等払いで、年2%の利息(ずっと固定)、ボーナス払いなし、35年ローンで計算すると、月の支払いは、約6万円になります。
月額9万円の賃料に対して、月額6万円のローンの支払いですから、月額3万円残りますが、ここから、マンション全体の管理費及び修繕積立金と固定資産・都市計画税を払わなければなりません。
ちなみに、上記の計算で、金利2%は高いのではないかと思われた方も多いと思いますが、投資用の融資ですので、当然、金利2%くらいはとられます。
この金利を下げるために、住宅ローンを使おうとする業者がいますが、これは、金融機関を騙すことになりますので、当然許されない行為です。
上記の費用以外に、入居者が入れ替わるときには、原状回復費用がかかり、また、購入後10年から15年すると、居室内の設備が古くなってきますので、その修理や交換の費用(大規模修繕費用)が必要なります。
通常、サブリース契約では、これらの費用は、所有者の負担ですので、これも、所有者の持ち出しとなります。
仮に、月額3万円手残りがあったとしても、ここから、管理費、修繕積立金及び固定資産税・都市計画税の支払い、原状回復費用及び大規模修繕費用の積立をすると、残りはないでしょう(実は、さらに、賃料収入があれば、所得税、都区民税又は市町村税、社会保険料等が増える可能性があります。)。
令和3年6月に施行された「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」によって、サブリース業者に対して、不当な勧誘行為をしないこと、誇大広告をしないこと、契約前に重要事項を記載した書面を交付して説明することなどの規制がかかっていますが、証拠が残らない口頭での勧誘では、いろいろと良いことを言うけれど、重要事項説明書や勧誘用のチラシは、正確な数字が記載されているというケースも見受けられます。
結局、チラシや重説の記載を理解する知識が必要ということです。
こうした事情をよく考えて、投資をするかどうかの決断をしてください。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。