賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
一発レッドで明け渡し?法律を全く無視する大家の横暴
東京では、12月に入ってもまだ暖かい日が続いています。この冬は、暖冬という長期予報がでていますが、どうなるでしょうか。
さて、今日は、珍しく入居者側の相談のお話です。
私が相続事件を担当しているクライアントから、「私の知り合いが、横暴な大家にいじめられているので、相談に乗ってほしい。」と頼まれ、一度お話を聞いてみることにしました。
相談に来たAさんは、東京都内にあるB社の経営するシェアハウスに定期建物賃貸借契約で入居しており、契約期間は、今年の4月1日から来年の3月31日までの1年間でした。
Aさんにどんな問題が起きているのか聞いてみると、Aさんは、「レッドカードを出されたので、部屋を出ていかなければならなくなりました。今週中に出ていかないと、部屋に入れなくすると言われています。」と説明しました。
この説明を聞いて、私は、思わず、「レッドカードを出された???なんですか、それは。」と聞いてしまいました。
Aさんは、「マネージャーの言うことをきかないと、イエローカードかレッドカードを出されます。レッドカードの場合は、一発明け渡し、イエローカードの場合は、2枚目で明け渡しをしなければならないことになっています。私は、レッドカードを出されたので、明け渡しをしなければならないのです。」と説明してくれましたが、その説明では、全く理解できませんでした。
そこで、Aさんに詳しく説明してもらいましたが、その内容は、驚くべきものでした。
このシェアハウスには、10人くらいの入居者がいるが、そのうち半分以上が外国人入居者で、おなじく外国人のマネージャーが管理人をしていました。
賃貸借契約書は、A4用紙表裏一枚だけで、表面には、定期建物賃貸借契約であること、対象物件、契約期間、賃料の額、賃料の支払い期限及び支払方法、敷金など、賃貸借契約の基本的事項が普通の文字で記載されていましたが、裏面は、極めて小さな文字で、詳しい契約内容が書いてありました。私のように老眼の人間には、○○○ルーペでも使わないかぎり、よく読めません。
この賃貸借契約書以外に、館内規則というものがあり、その中に、次のようなことが書いてありました。
「ご入居の皆様に快適な生活を送っていただくため、契約書・管内規則違反等をした入居者にイエローカード・レッドカード制度を設けております。イエローカードは2枚で退去、レッドカードは1枚で即退去となります。」
Aさんは、マネージャーとトラブルとなり、マネージャーからこのレッドカードを出されてしまったのです。
Aさんには、申し訳なかったのですが、私は、この館内規則を見て、思わず笑ってしまいました。笑った理由は、あまりにも法律を無視したばかばかしい規則なので呆れてしまい、笑いをおさえられなかったのです。
賃貸借契約期間中であるにもかかわらず、入居者に退去を求めるには、大家さんは、建物賃貸借契約を解除しなければなりません。
もちろん、大家さんが一方的に建物賃貸借契約を解除するには、入居者に家賃滞納などの契約違反があり、しかも、契約違反の程度が重く、これから契約を継続することができないほど大家さんとの間の信頼関係が破壊される必要があります。
さらに、手続き的には、どのような契約違反があるか明示し、一定の期間を定めて契約違反の解消を求め(これを「催告」といいます。)、この期間内に契約違反の解消がないときに、初めて契約を解除することができるのです。
これが、建物賃貸借契約を解除する場合の法的ルールであり、原則として契約によってこのルールを変えることはできません。
従って、マネージャーが、その判断でイエローカードやレッドカードを出したからと言って、建物賃貸借契約の解除が認められるなどということはないのです。
こんなことが認められるなら、大家は、気に入らない入居者に適当に言い掛かりをつけ、言うことをきかなければ、ピーっと笛を吹きながら「レッドカード」を出せば、建物賃貸借契約を解除でき、こんなに楽なことはありません。
それでも私は、さすがにB社からAさんに解除通知は来ており、その通知に解除の原因となるAさんの契約違反が書いてあると思い、Aさんに、「でも、解除通知みたいなものは来ていますよね。」と聞いてみました。
しかし、Aさんは、「何も来ていません。ただ、今週中に出ていけ。出ていかなければ、カードキーのデータを変更して、建物に入れないようにするという通知が来ているだけです。」と答え、その通知を見せてくれました。
イエローカード・レッドカードの条項はもちろんのこと、解除通知を出さないことや法的手続きを取らずに実力でAさんを追い出そうとしていることのどれをとっても法律を無視しており、横暴な大家というほかありません。
このシェアハウスの建物賃貸借契約書と館内規則には、このイエローカード・レッドカードの条項以外にも、いくつも驚くべき条項が書いてありましたが、ここでは紙面の制約があるので割愛することにします。
私は、原則として入居者側の依頼は受けていないのですが、B社のやっていることがあまりに滅茶苦茶であり、また、Aさんには、B社から、「今週中に出ていけ。出ていかなければ、カードキーのデータを変更して、建物に入れないようにする。」という通知が来ており、直ぐに手を打たなければならなかったので、Aさんの委任を受けました。
Aさんが帰った後、B社のホームページを見たところ、B社は、ホームページ上それなりにきちんとした会社にように見え、いくつも賃貸物件を所有あるいは管理していました。
そこで、B社に電話をして、Aさんの居住しているシェアハウスの担当者に対し、Aさんから依頼を受けて電話をしていること、仮に賃貸借契約が終了しているとしても、実力でAさんを排除することは違法であること、きちんとAさんの契約違反を指摘した契約解除通知を出すことを要求しました。もちろん、同じ内容の通知を内容証明郵便でB社に送りました。
その後、B社はAさんに退去要求をしなくなったようです。このまま、B社が大人しくなるのか、今後の展開を見守りたいと思います。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。