賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
オーナーチェンジと賃貸借契約~賃借人の承諾がなくても、賃貸人の交代は可能!
あけましておめでとうございます。
本年も宜しくお願いいたします。
さて、今日は、賃貸物件のオーナーチェンジにまつわるお話をしたいと思います。
昨年の年末に、こんな相談がありました。
都内に住む資産家のAさんは、ある事業者(B社)から、シェアハウス事業の話をもちかけられました。
具体的には、Aさんが都内にシェアハウス用の建物を建築し、B社がその建物を一括して20年間借り上げ、シェアハウス事業を行うというのです。
Aさんは、この話に乗り、1億円をかけて10部屋あるシェアハウス用の建物を建築し、B社にその建物を一括して賃貸しました。契約期間は20年間、賃料は月間60万円の20年間定額、B社の中途解約権を認める規定なし、という契約内容です。
Aさんがこのシェアハウス事業を始めてから1年近く経過した昨年の5月ころまでは、B社から契約どおりに家賃が振り込まれており、特に問題はありませんでした。
ところが、昨年の6月ころ、どうもB社の経営状態がよくないという噂が流れ始め、実際に、Aさんと同じようにB社に建物を賃貸してシェアハウス事業を行っている大家さんの中に、B社から約束した賃料を支払ってもらえないという人がでてきました。
Aさんは、この話を聞いて、早いうちにシェアハウス事業から撤退しようと考え、B社に賃貸している建物を、仲介会社に依頼して売りに出しました。
ところが、B社から連絡があり、もしAさんがB社に賃貸している建物を売却し、オーナーチェンジをしたら、現行のAさんとの賃貸借契約は終了し、新しいオーナーとは賃貸借契約を締結しないと言ってきました。
この話を聞いた仲介会社は、B社との賃貸借契約が新オーナーに引き継がれないならば、買い手はつかないと思うと言ってきました。
困ってしまったAさんは、「B社の言い分は正しいのでしょうか。」と相談をしてきたのです。
AさんとB社との間の賃貸借契約は、AさんがB社にAさん所有の建物を賃貸し、B社は、その建物をシェアハウスとして他の第三者に賃貸するというものです。これは、一般的にサブリースと言われるものであり、Aさんが賃貸人、B社が賃借人兼転貸人、シェアハウスに入居している人が転借人となります。
このようなサブリースにおいて、建物が譲渡されてオーナーチェンジがあった場合、前オーナーと賃借人兼転貸人との賃貸借契約はどうなるのでしょうか。
サブリースに関するものではありませんが、「自己の所有建物を他に賃貸して引き渡した者が右建物を第三者に譲渡して所有権を移転した場合には、特段の事情がない限り、賃貸人の地位もこれに伴って当然に移転し、賃借人にから交付されていた敷金に関する権利義務関係も右第三者に承継される」とするのが、最高裁判所の判例です。
分かりやすく言うと、賃貸中の建物が譲渡されてオーナーチェンジがあった場合は、前のオーナーと賃借人との間の賃貸借契約は、原則としてそのまま新オーナーに引き継がれるということです。
この最高裁判所の判例によると、サブリースにおいても、建物が譲渡されてオーナーチェンジがあった場合、前オーナーと賃借人兼転貸人との賃貸借契約は、そのまま新オーナーに引き継がれることになります。
では、これに対して、賃借人兼転貸人が異議を唱えたらどうなるのでしょうか。
この点に関しては、「当該賃貸借の目的となっている不動産について所有権の移転があった場合には、特段の事情がある場合を除いて、賃貸人の承諾を得ることを要さずに、旧所有者と新所有者の間の契約をもって、賃貸借契約上の賃貸人としての権利義務を新所有者に承継することができると解するのが相当である。」と判示した東京地方裁判所の裁判例があります。
この裁判例は、「特段の事情がある場合を除いて、賃借人の承諾を得ることを要さずに、旧所有者と新所有者の間の契約をもって、」と言っていますので、原則として、賃借人が異議を唱えても、前のオーナーと賃借人との間の賃貸借契約は、そのまま新オーナーに引き継がれることになります。
もっとも、この裁判例は、「特段の事情がある場合を除いて、」と言っていますので、「特段の事情」の中身が気になります。
この「特段の事情」とは、前のオーナーと賃借人との間の賃貸借契約において、オーナーチェンジについては賃借人の承諾が必要であることが合意されていたとか前のオーナーと賃借人との間の賃貸借契約が、前のオーナーと賃借人と間の他の取引とセットになっているなどの事情です。
AさんとB社との間の賃貸借契約には、オーナーチェンジについてはB社の承諾が必要である旨の規定はありません。また、AさんとB社との間には、賃貸借契約以外の他の契約や取引はありません。従って、上記の「特段の事情」にあたるような事情はありません。
こうして見てくると、「もしAさんがB社に賃貸している建物を売却し、オーナーチェンジをしたら、現行のAさんとの賃貸借契約は終了し、新しいオーナーとは賃貸借契約を締結しない。」というB社の主張は、認められないと考えられます。
もしかすると、B社は、経営が苦しいため、Aさんに有利な内容となっている賃貸借契約を解除する口実として、上記のような主張をしているのかもしれません。
今後は、B社に対して、B社の主張は認められないことを申し入れ、オーナーチェンジした場合に、AさんとB社の賃貸借契約を新オーナーに引き継ぐことを認めさせる交渉を開始することになります。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。