賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
賃貸建物の建替は、簡単ではない!「建替を理由とする更新拒絶」
あけましておめでとうございます。
本年も宜しくおねがいいたします。
今年は、年明け早々、災害や事故があり、落ち着かない新年のスタートでした。
海外を見ても、中東での戦争が拡大する恐れがあり、世界の景気に影響を与えるかもしれません。
今年の国内の不動産市況がどうなっていくのか、少し不安を感じます。
さて、今年最初の話題は、建替を理由とする更新拒絶のお話です。
私の知り合いの大家さんのAさんは、都内に何棟もマンションを所有していますが、その中の1棟が老朽化したので、建て直そうと考え、各入居者の契約更新の半年前になると、順次更新拒絶の通知を出していました。
Aさんは、去年も、3人の入居者に対して、更新拒絶の通知を出しましたが、その3人の入居者が弁護士に依頼をして、契約期間が満了しても、使用を継続する旨の回答をしてきました。
さらに、その弁護士から、もし退去する場合は、立退料として各自300万円を支払うこと及び退去までの賃料を免除することという条件が提示されました。
そこで、Aさんは、私の所に相談に来たというわけです。
Aさんは、「このマンションは、鉄筋コンクリート造りだが、築40年で、相当老朽化しているので、立て替えるのは当然だと思います。建て替えるには、入居者に出て行ってもらわなければならないので、更新拒絶をしたのです。それなのに、立退料300万円と退去までの賃料免除を求めてくるなんて、とんでもない。」と憤っていました。
果たして、入居者の弁護士の出してきた条件は、とんでもないものでしょうか。
まず、前提として、普通建物賃貸借契約の更新拒絶について、知識を確認しておきましょう。
大家さんが、契約を更新したくない場合、予め借主に対して、更新拒絶の通知をしなければなりません。この更新拒絶の通知は、契約期間の満了の1年前から6か月前までにしなければなりません。
しかし、更新拒絶の通知をしたからと言って、契約期間満了時に契約が当然終了するわけではありません。
大家さんが更新拒絶の通知をしたにもかかわらず、借主が契約期間終了時に建物に居座っているときは、大家さんは、借主に対して、速やかに異議を述べなければなりません。しかも、この大家さんの異議には、正当事由がなければなりません。
この正当事由とは、分かり易く言えば、大家さんが賃貸中の建物を自ら使用しなければならない事情、すなわち「建物使用の必要性」です。ただ、この場合の大家さんの「建物使用の必要性」というのは、文字通り自分で使わなければならない事情だけでなく、貸している建物を建て替える必要があるという事情も含みます。
Aさんの場合、実際に建物を見てみないと正確には分かりませんが、築40年の鉄筋コンクリート造りのマンションは、かなり老朽化しているでしょうから、Aさんに、「建物使用の必要性」が認められるでしょう。
ただ、築40年の鉄筋コンクリート造りのマンションは、まだまだ住居としての使用に耐えうるはずですので、Aさんの「建物使用の必要性」は、居住者の「建物使用の必要性」より高いものとは言えません。
このような場合は、立退料の提供などによって正当事由が認められることがあります。
では、この場合、立退料は、どれくらいの金額になるのでしょうか。
普通のマンションやアパートのような居住用建物の場合には、借主は、どうしても今借りている部屋でなければならないということは、ほとんどありません。
従って、借主は、今借りている部屋の近隣に同様の条件の部屋を借りられれば、引越しの手間と時間と費用以外には、特に不利益はありません。
そこで、このような場合、裁判所は、新しい部屋を借りるための礼金、敷金、不動産仲介料、引越費用、家賃が増えた場合は、その差額の2年分程度の合計額を立退料としています。
1か月の家賃が10万円程度の部屋なら、100万円から200万円くらいでしょう。
もちろん、これは、客観的に見て、建替の必要性があると言える場合です。
このように、客観的に見て、建替の必要性があると言える場合でも、1か月の家賃が10万円程度の部屋なら、100万円から200万円くらいの立ち退き料が必要となります。
従って、相手の弁護士の主張する立退料として各自300万円を支払うこと及び退去までの賃料を免除することという条件はやや盛りすぎですが、交渉の駆け引きという点から見ると、弁護士としては、想定内と言えます。
ですから、Aさんとしては、熱くならず、じっくりと時間をかけて交渉し、相手の提示する条件を下げていくことを目指すべきです。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。