賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
最近の興味深い事案と判例(①孤独死の責任、②暴力団員の権利)
日々の仕事に追われているうちに、いつの間にか12月になり、今年も、「あと何日働けばいいかな。」と指折り数える時期になりました。
もっとも、12月は、年内に事件を始めたい人、年内に事件を終わりたい人、借金で年を越せない人など、「年末」という特殊事情で弁護士の仕事量は増えますので、私も頑張ってもうひと山越えないと、今年は終わりません。
さて、このところずっと原状回復費用のお話をしてきましたので、今回は、最近の興味深い事案や判例について、お話します。
まず、最初は、孤独死の事案です。
昨年のちょうど今頃、このアドバイス(入居者の孤独死と認知症 2014年11月号)で、九州の賃貸物件において高齢の入居者が孤独死をして10日間発見が遅れたため、管理会社が入居者の相続人に対し、貸室の全面改装費180万円を請求したという事案をとりあげました。
この相続人の方から相談を受けたのですが、私がこの事件をお引き受けすると、九州への交通費や出張日当など依頼者にかなりの経済的なご負担をかけてしまいますので、「お近くの弁護士さんでも、孤独死の場合の原状回復費用の問題については、同じ意見だと思いますので、相談してみてください。」とお返事しました。そこで、この相続人の方は、お近くの弁護士に依頼され、管理会社と交渉したそうです。
その後、この相続人の方から交渉の結果についてのご報告があり、結局、1円も払わずに終わったということでした。この相続人の方が依頼した弁護士も、私と同様に、入居者が孤独死(病死)をした場合には、自殺と異なり、入居者に責任はないという考え方であり、この考え方で交渉を進めたところ、管理会社の対応が変わり、まず請求が半額になり、相続人の方がこの請求も拒否すると、今度は何も請求しないという結論になったそうです。最終的には、何も請求しないという確認書を交わして終わったそうです。
入居者が孤独死をしてご遺体の発見が遅れた場合、大家さんは、その後の後始末や貸室の賃料額の下落で、大きな損害を被ります。ですから、入居者の連帯保証人や相続人に、その補償を求めたい気持ちはわかります。しかし、残念ならが、法的には亡くなったことや発見が遅れたことについて入居者に責任はありませんので、孤独死の場合に特別に必要となる原状回復費や賃料の下落を、入居者の連帯保証人や相続人に求めることはできません。保険などで対応するほかないのです。
もう一つの事案は、暴力団員(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律2条6号に規定する暴力団員の意味です。以下、単に「暴力団員」といいます。)がらみの問題です。
このアドバイスの読者の方は、自己所有物件を賃貸している大家さんが多いと思いますが、大家さんの立場から見て、入居者が暴力団員であることが分かったら、どうしますか。
入居者が暴力団員であるとすると、「貸している部屋の中で犯罪行為が行われるかもしれない。」、「銃弾が撃ち込まれるようなことがあったらどうしよう。」、「警察が家宅捜索をすることがあるかもしれない。」など、心配は尽きません。実際に、国土交通省の公営住宅を対象とした調査では、暴力団員によるかなりの数の不法行為が確認されています。
実際、私の担当した事件にも、暴力団員である入居者が犯罪を犯して行方不明となったために、警察が何度も事情を聴きに来て、挙句の果ては、仲間の暴力団員まで訪ねてきて、大変迷惑したという事案がありました。余談になりますが、この大家さんは、暴力団員が帰った後に、また強面の暴力団員風の男が何人も来たので、怖くなって裏口から裸足で逃げ出し、交番に駆け込んだのですが、実はこの強面の暴力団員風の男たちは、暴力団担当の刑事だったそうです。
このように、入居者が暴力団員であると、何かと面倒を起こされる可能性がありますが、暴力団員だからという理由だけで、契約を解除することはなかなか難しいところです。契約を解除するには、入居者に、契約違反があったことが必要ですが、暴力団員であるということだけで、契約違反があったとは言えないのです。
そこで、契約書に、予め「入居者が暴力団員であることが判明したときは、契約を解除することができる。」という条項を入れておくことが考えられますが、このように暴力団であるということだけを理由に契約を解除できるという条項は有効なのでしょうか。
実は、この点が争点となった事案について、最近、最高裁判所の判決がありました。
この事案は、関西のある市が、市営住宅についての条例を改正し、市長が入居者に対して市営住宅の明渡しを求めることができる事由として、「暴力団員であることが判明したとき(同居者が該当する場合も含む。)。」という規定を設け、この規定に該当するとして、市営住宅の契約者である暴力団員と入居している暴力団員の両親に対して、明け渡しを求めたものです。
細かい事情は省きますが、この事案において、暴力団員側は、上記の条例の規定が、法の下の平等を定めた憲法14条及び居住の自由を定めた憲法22条1項に違反するとして、最高裁判所に上告しましたが、最高裁判所は、上記の条例の規定は憲法に違反しないと判断しました。
現在、多くの都道府県、市町村において、上記と同様の規定が設けられ、民間でも、上記と同様の規定を盛り込んだ契約書が使われることが多くなっています。
まだ、上記のような規定を盛り込んでいない契約書を使われている大家さんは、今後のために、新規契約や契約の更新の際に、上記のような条項を盛り込んだ契約書に切り替えるようにするとよいでしょう。
1年間ありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。皆様、よいお年をお迎えください。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。