賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
賃料減額の合意は慎重に!賃料減額の合意書の注意点
令和2年5月25日に、やっと緊急事態宣言が解除されました。これに伴って、飲食店などの営業再開や営業時間の延長など、さまざまな経済活動が売上の回復に向けて動き出しています。
私の事務所が入っているビルの中にある飲食店や物販店も、緊急事態宣言中は、ほとんど閉まっていましたが、緊急事態宣言の解除とともに、営業を再開しました。
裁判も、同じように、再開の流れが加速しているかというと、ちょっと様子が違っています。
東京の裁判所は、4月及び5月に予定されていた裁判期日を、緊急を要するものを除いて全て取り消しました。
私としては、緊急事態宣言が解除されれば、裁判所から、次回期日の日程調整の連絡がはいり、次の裁判期日が決まると思っていました。
ところが、6月に入っても、裁判所からはほとんど連絡がありません。私の場合、18件の事件の裁判期日が取り消されたのですが、このうちの2件だけは、次の裁判期日が決まりました。しかし、残りの16件に関しては、裁判所から連絡すらこない状態です。
「一体どうなっているのかな~?待っていないで、こちらから催促した方がいいんだろうか?」などと思い悩んでいます。
さて、今回も、コロナに関連したテナント賃料の話ですが、最近多くなっている相談が、大家さんからの「賃料減額に応じようと思うが、どんな点に注意したらよいか。」という相談です。
政府が閣議決定した2020年度第2次補正予算では、大幅減収となった中小企業や個人事業主に対して、事業用賃貸借の家賃の半年分を、最大で600万円支給するという「家賃支援給付金」が盛り込まれたようです。
しかし、この給付金も、受け付け開始が6月末ということですから、その後、申請と審査を経て、実際にお金が入ってくるのは、8月や9月になるのではないかと思われます。
また、たとえ緊急事態宣言中の収入が0であっても、家賃の100%を支援してもらえるわけではなく、家賃の一定割合とか上限金額といった制限がありますので、結局、この支給金をもらっても、家賃の全額をカバーできるわけではありません。支払いができない分の家賃は、大家さんが支払いを猶予してくれたとしても、その後も債務として残り続けることになります。
こうした事情から、かなりの大家さんが、入居者から賃料の支払猶予ではなく、減額を求められているようです。
大家さんとしても、テナントが倒産してしまったり、廃業してしまったりして退去すると、世の中の大多数の飲食店や店舗で同様の現象が起きているわけですから、長期間次のテナントが見つからず、その間、その物件の賃料収入が0になってしまう恐れがあります。
また、大家さんの中には、今回の事態が、いわば何百年に一度の災害のようなものであり、テナントに落ち度があるわけではないので、気の毒に思う方もいらっしゃいます。
このため、大家さんも、ある程度賃料の減額に応じるのは仕方が無いという考えになってきているようです。
そこで、問題は、賃料の減額に応じる際に、どのような点に注意するかです。
まず、賃料減額の合意について、きちんと書面を交わすことが必要です。
減額する金額と期間をきちんと書面に残さず、口頭で約束すると、後でトラブルの原因となることは明らかです。
次に、合意書面には、賃料の減額が、新型コロナウィルスの感染拡大に起因する減収等を理由とする特別な取り扱いであり、通常の賃料の減額ではないことを明記してください。
単純に、「賃料を〇〇円から〇〇円に減額する。」などという記載では、通常の賃料の減額と解釈される可能性があり、そうなると、元の賃料に戻すには、賃料増額請求の手続きをとらなければならなくなります。
また、減額後の賃料額と減額する期間を明確に定め、この期間が終了したときに、無条件で元の賃料額に戻ることも明記してください。
減額期間を、「当分の間」とか「コロナ問題が終息するまで」などといった抽象的な記載をしてはいけません。
また、元の賃料額に戻ることについて、「協議をする。」とか「売上が〇パーセント回復したら」などという条件をつけてはいけません。
私が過去に担当した事件で、こんな事件がありました。
東日本大震災のときに、売り上げが大幅に減少した飲食店が、大家さんに対して、賃料を一定期間減額して欲しいとお願いし、大家さんが、このお願いを受け入れて、賃料を20%減額しました。
その際、大家さんと飲食店は、賃料減額に関する合意書を交わしたのですが、その合意書には、賃料減額期間の定めに加えて、その期間が終わったときには、大家さんと飲食店が協議の上、賃料を元に戻すと書いてありました。
飲食店側は、「大家さんと飲食店が協議の上、」という文言を取り上げて、飲食店が了解しなければ、賃料を元に戻すことはできないと主張し、賃料を元に戻すことに抵抗しました。
このようなトラブルを避けるために、合意書には、減額後の賃料額と減額する期間を明確に定め、この期間が終了したときに、無条件で元の賃料額に戻ることをはっきりと書いてください。
新型コロナウィルスの感染拡大は、大家さんにとっても、入居者にとっても、大変な問題ですが、こういうときこそ入居者とよく話し合って、別のトラブルを作らないように対応してください。
大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。